源氏鶏太作品のページ


1912-85年富山県富山市生、本名:田中富雄。富山県立富山商業高校卒業後、30年に住友合資会社に入社。会社勤めの傍ら懸賞小説に応募する等執筆活動を行い、51年「英語屋さん」他にて直木賞を受賞。56年退職し小説家に専念。71年吉川英治文学賞を受賞。


1.明日は日曜日

2.青空娘

3.最高殊勲夫人


※既読作品は次のとおり(1989~95年)。
「三等重役」「新・三等重役」「青年の椅子」「ずこいきり」「日日哀歓」「男と女の世の中」「夢を失わず」「天下を取る」「坊ちゃん社員」「万年太郎」「家庭との戦い」

  


          

1.

「明日は日曜日 ★★


明日は日曜日

1953年
春陽堂書店刊

2021年02月
ちくま文庫

(760円+税)



2021/03/29



amazon.co.jp

1950年代、大阪のとある二流会社を舞台にした連作ラブ・コメディ。
主役となるのは、同期入社で総務課にて席を並べる
桜井大伍山吹桃子
 
この大伍、使い過ぎて給料日までに金が足りなくなっては、桃子に借用書を差し入れてお金を借りる、ということの繰り返し。
それも、何かというと同僚たちに頼みごとをされ、ついては飲みに行くということのため。
頼みごとをされると断れないという性格の故ですが、男気はあっても知恵はないということで、毎度大伍が頼みにするのは桃子という次第。

大伍が安易に引き受けた頼みごとを、桃子が大伍の尻を叩きながら解決へもっていく、というパターンによる連作。
そしてそれに伴い、桃子と大伍の仲も進展していくという展開。

もちろんコメディですから現実離れしているところはあるでしょうけれど、1950年代のサラリーマン社会ってこんな風だったのかなと思うと、何やらほのぼのとした思いに包まれます。
「エレベーター・ガール」とか「接吻」とか、今はもう聞きなれない言葉が次々と目にするのも楽しいですが、桃子の給料が月7千円と聞くと、まさに隔世の観があります。
なお、28歳を「オールドミス」扱いしている処、今はもうセクハラ間違いなし!ですね。

各話の最後はいつも、明日の日曜日は何する?といった会話で締めくくられます。
週6日働いて、明日は休み=日曜日、と心待ちにしている様子が生き生きと感じられて楽しくなります。
まぁ、のどかな、良き時代だったのでしょうね。


1.エレベーター・ガールの恋/2.良人のヘソクリ/3.好きになったり、なられたり/4.恋人と残業/5.手頃な恋人/6.看板娘との恋/7.コロッケさんとキャベツ君/8.あすは晴れるだろう/9.新入社員への戒め/10.恋の審判/11.恋とスリル/12.良人の抵抗/13.いよいよ日曜日

       

2.

「青空娘」 ★★


青空娘

1957年
東方社刊

2016年02月
ちくま文庫

(740円+税)



2016/02/25



amazon.co.jp

久々の源氏鶏太作品です。古本ではなく、新刊の文庫本で読めることが嬉しい。
源氏鶏太作品といえば主なものはサラリーマン小説ですが、本書は若い女性が主人公。掲載されたのが十代向け雑誌「明星」だったということもあるのでしょう、ストーリィ内容はさしずめ和製シンデレラ物語、という風。

主人公の小野有子は瀬戸内海を望む田舎町で、祖父母の元に育ちます。その町にある岡の上から眺める青空が大好き、という娘。
しかし、祖母が死去し有子の高校を卒業したのを契機に、東京で会社重役の地位にある父の家に祖父と共に引き取られることになります。
父の家は、母・兄・姉・弟という家族構成。その時点で有子は、亡き祖母から聞かされ、自分がその母の実子ではなく、父親とその会社で事務員だった
町子という女性との間に生まれたという歓迎されざる存在であることを承知しています。
有子は祖父と共に、父親が出張で不在中のその家に着きますが、母や兄姉弟はのっけから有子を女中扱い。
しかし、ある事をきっかけに姉から有子は小野家を追い出され、その後は居場所を求めて転々として苦労を続けます。

ステレオタイプ的に良い人は苦境にある有子に手を差し伸べますが、その直後に今度は意地悪な人間が有子をそこから追い出して居場所を奪う、といったことの繰り返し。
よくもまぁそう都合よく善人が登場し、また競うかのように悪役が登場するものだと呆れるくらいなのですが、まぁ、そんな時代の小説ですからと納得すべきでしょう。

本書の魅力は、どんな目に遭ってもその相手を憎むということによって自分を損なわず、真っ直ぐな性分の自分自身を見失うことがない、という処でしょう。“青空”とはそんな有子という娘を象徴するものと思います。
出来過ぎ感は勿論ありますが、
バーネット「小公子」「小公女」も出来過ぎでありながら名作であることに変わりはなかったのですから、そう気になるものではありません、本ストーリィを読む気持ちの良さに較べれば。

※明朗時代小説であれば山手樹一郎であるのに対して、明朗な昭和年代小説と言えば源氏鶏太。人間の善性が信じられるこうした作品を時に読むのは楽しいものです。お薦め。


岡の上の青空/私は女中なのだ/有子の日記/母の写真/平手打ち/チョコレート/半日の幸せ/靴を売る/星だけが/正当防衛/有子の日記(二)/再出発/自分の部屋/父と娘/人さまざま/重大発言/母と娘と/解説:山内マリコ

    

3.

「最高殊勲夫人 ★★


最高殊勲夫人

1959年02月
講談社刊

2016年09月
ちくま文庫

(800円+税)



2016/12/23



amazon.co.jp

野々宮家は平凡なサラリーマン家庭で、子供は桃子・梨子・杏子という三姉妹+末息子という構成。
たまたま桃子が勤めている三原商事で秘書室勤務となり、オーナー社長の息子に見初められて結婚。妹の梨子も後任秘書となったところ今度もまた弟息子に見初められて結婚することとなり、今や2姉妹は社長夫人と専務夫人となった次第。
そうなればと世界制覇の野望(ちっちゃい世界のことですが)を燃やした桃子社長夫人は、末妹の
杏子も三原家3男の三郎と結婚させると共に、今は他の会社に勤めている三郎を兄2人の願い通り三原商事に入社させれば万々歳と策略を繰り広げます。

そんな桃子夫人の計略を知って冗談ではないと思ったのが、兄2人がすっかり女房の尻に敷かれているのを知る三郎と、2度目の玉の輿どころか三重奏になるのではと他人から揶揄されて憤慨している父親の気持ちを知る杏子。
2人でそうはならないと誓った杏子と三郎でしたが、いろいろな出来事が重なる内、いつしか相手に惹かれていることに気付きます・・・。

ストーリィの舞台や登場人物の設定からして、現在から見ると余りに出来過ぎですし、出歩けばすぐ知り合いと出会うというのも余りにご都合主義過ぎることは否めません。
しかし、出しゃばり過ぎの人も中にはいますが、総じて登場人物はみな善意に満ちていますし、寛いで楽しめるストーリィ。
鷹揚にそうしたストーリィを受け入れる時代が、昭和の経済成長期にはあったのだということが、懐かしく感じられます。

三人の娘/妻の力/五分の一/不良的紳士/初出勤/秘中の秘/とんかつ/無礼な質問/初一念/芸者ぽん吉/貫禄くらべ/ネクタイ/いい話と悪い話/理想の娘婿/鬼怒川/完全なる清遊/心の重荷/人生憂鬱/訣別の酒/花を売る男/瘦せ我慢/重大問題/腹芸/世界制覇

   


  

to Top Page     to 国内作家 Index