藤岡陽子作品のページ No.2



11.
満天のゴール

12.
この世界で君に逢いたい

13.海とジイ

14.跳べ、暁!

15.きのうのオレンジ

16.メイド・イン京都

17.金の角持つ子どもたち

18.空にピース

【作家歴】、いつまでも白い羽根、海路、トライアウト、ホイッスル、手のひらの音符、波風、闇から届く命、晴れたらいいね、おしょりん、テミスの休息

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11.

「満天のゴール ★★


満天のゴール

2017年10月
小学館刊

(1400円+税)



2017/11/13



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長年連れ添ってきた夫から突然に離婚を求められ、逃げ出すように、息子の涼介・10歳を連れて丹後半島の北端、過疎地にある実家に戻ってきた奈緒・33歳
母親の死を巡る確執により12年もの間実家に戻ることのなかった奈緒が久しぶりに見た故郷は、一人暮らしを続けている父親の
耕平・73歳をはじめ、近所に住む70代でやはり一人暮らしの老女=早川のほか、死期を目前に迎えながら一人暮らしを続ける老人たち、何人もの姿を目にすることになります。

この地域唯一の医療機関である
海生病院の若い医師=三上にはどこか陰がある風。そして老女の早川は、何度も意識を失って倒れているというのに病院へ行くのを拒否している風。
そして、夫に尽くす主婦としての生き方しか知らなかった奈緒は突然にしてその立場を奪われ、看護師資格を取っただけで全く臨床経験がないというペーパー看護師にもかかわらず、生計のため海生病院で看護師として働くことになります。

最初は、居場所を失って実家に戻った母親と息子の再出発ストーリィが主軸かと思ったのですが、高齢化・過疎化という現実の中で、避けることのできない<死>という問題をどう前向きにとらえていくか、という提言とも言うべきストーリィが本作のテーマだったようです。
そうした中、奈緒と涼介の母子関係も一つのドラマですが、もう一組の母子関係に胸打たれます。
人生の最後、満足のいくゴールを迎えることができたら、それこそ幸せな人生であると言えるのでしょう。

※高校時代、担任の先生から何度も、仏哲学者パスカルの「人間は生まれながらにして死刑囚である」という言葉を聞かされました。私にとってはいつも頭の内にある言葉となっています。
 
1.帰郷/2.不穏/3.暗転/4.覚悟/5.決意/6.後悔/7.葛藤/8.宿命/9.過去/10.告白/11.別離/12.傷跡/13.思慕/14.真情/15.永遠/16.星空

           

12.
「この世界で君に逢いたい ★☆


この世界で君に逢いたい

2018年07月
光文社

(1500円+税)

2021年08月
光文社文庫



2018/08/11



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恋人の松川夏美に勧められ、一緒に与那国島へ観光にやって来た須藤周二
その島で
久遠花という美少女に出逢った周二は、その途端に立ち尽くします。
何故なら、訳ありで親の元から保護され、東京から与那国島に移り住んで暮らしているというその花が、10歳の時に死んだ周二の従妹=
美羽そのものに思えたから。

美羽が死んだ時からずっと後悔の念に囚われて来た周二と、探しているものが何かわからず今も見つけられないままという花。
その2人はお互いの出逢いがきっかけとなって、失くしていたものを見つけ出そうと行動しだします。
それを見つけた時、ようやく新たな一歩を踏み出せるかもしれないと思って・・・・。

ちょっと不思議なストーリィ。
でも与那国島、南西諸島という舞台が、それを自然に受け入れさせてくれるようです。

子供や親に左右されざるをえない存在であり、本書における痛ましさもそこにありますが、自分を最後まで守ろうとしてくれた存在があったことは、何と救いだったことでしょうか。

最後、主人公が新たな一歩を踏み出そうとするエンディングには心を洗われるような思いがします。

              

13.
「海とジイ ★★


海とジイ

2018年11月
小学館刊

(1400円+税)



2018/12/09



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イジメがきっかけとなって1年間不登校状態が続く小学生、20年勤めてきた診療所の閉院が決まり居場所を失った思いの中年看護師、靭帯断裂で駅伝ランナーとして挫折した高校生。
ちょっと弱気になった彼らの気持ちを勇気づけてくれたのは、瀬戸内海の小島に住む3人のジイたちだった、という3篇。

長い人生から見れば、誰しも何度かの挫折を味わうもの。
そんな時に親というのは、関係が近いが故にかえって難しいのかのかもしれません。
「夕凪」はちょっと異なりますが、「海神」「波光」で主人公を元気づけてくれるのは、会うことがなかった、あるいは会わなくなって久しいジイ(祖父)たち。
そのジイたちにしろ、悔恨や悲しみを何度も味わって来た筈。だからこそ、その力強い励ましの思いが、胸に届くのでしょう。

主人公たちが東京から向かうのは、一旦四国に渡り、多度津港からフェリーで向かうしかない、瀬戸内海の小島。
いずれも、同じ島が舞台になっているようで、その辺りは嬉しいところ。

温かく、気持ち良いストーリィ。
現実にはいろいろ厳しい問題もあるあろう、住民数の減少が続く小島での生活ですが、日常生活から切り離され、気分を変えてみるには良い環境だったのかもしれません。
3人のジイたち、いずれも味わいある人物ですが、やはり一番惹かれるのは、「海神」の
真鍋清次でしょうか。

「海神」:癌末期の祖父にひ孫の顔を見せてやってほしいと請われ、千佳は現在不登校中の優生と幼稚園児の茉由を連れ、その住む島へと向かう・・・。
・「夕凪」:診療所閉院を決めた
月島医師、突然に姿を消した月島を心配し、看護師の志木は月島を追いかけて、瀬戸内海の小島へと向かう・・・。
・「波光」:一人暮らしの祖父を心配した母親に言い付けられ、大学センター試験直前にもかかわらず、受験生の
戸田零二は祖父の住む島へ向かう・・・。

※表紙の絵も好いですよね。

海神(わだつみ)/夕凪(ゆうなぎ)/波光(はこう)

             

14.
「跳べ、暁! ★★☆


跳べ、暁!

2020年07月
ポプラ社

(1600円+税)



2020/08/15



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藤岡陽子さんとしては初めてではないでしょうか、中高生向きでもある作品は。

主人公は中二生、14歳の
春野暁(あかつき)
7年間闘病生活を送っていた母親が死去し、失意の余り仕事も手につかなくなった父親は会社を退職、亡祖父母が住んでいた古い一軒家に引っ越します。暁は、その結果5月の転校。
しかし、転入した先は、一人の女生徒が女王然と振舞う、極めて居心地の良くないクラス。
ずっとバスケを続けてきた暁は、唯一声を掛けてきてくれた
吉田欣子と2人、新たに女子バスケ部を立ち上げます。

そんな暁が気になったのは、ずっと不登校らしいタンザニア人の
ブミリア・リモ、その疾走感に魅せられた陸上部選手の本田薫、という2人の同級生。
幾つもの事情を経て女子バスケ部に4人が加わり、東京都の新人戦を目指して本格的に活動し始めます。

イジメ等に負けず、新たな目標に向けて仲間たちと走り出す、暁を中心とした中学生青春&成長ストーリィ、と言うような単純な作品ではありません、本作は。

暁、欣子、薫、リモ、それぞれ親の都合に振り回され、苦しんでいるという共通点があります。
まだ中学生に過ぎないから、親から離れて生きていくことはできない、でも親を頼っていてはどうにもならない、自分らしく生きるためには自立しなければならない・・・・。
しかし、自立しようとするのは難しい、その支えになってくれたのは女子バスケ部の仲間たち。
バスケ試合の戦いは、仲間たちと手を携えた、自立するための戦いにも繋がっていく。

バスケ試合の臨場感と共に、仲間同士の強い絆が圧巻です。
最後は、新たな旅立ちへ向けてのスタートという、爽快感溢れるエンディング。 お薦めです。

               

15.
「きのうのオレンジ ★★


きのうのオレンジ

2020年10月
集英社

(1600円+税)



2020/11/18



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故郷の岡山を離れ、独身のまま東京でファミレス店長として働く笹本遼賀・33歳。
その彼を衝撃的な事実が襲います。胃がん宣告。
ひどく動揺し、何故自分がと思った次に来るのは、この先への恐怖、涙が止まらない。
そんな遼賀と彼を支えようとする、高校の時の同級生で今は遼賀が検査を受けた病院の看護師となっていた
矢田泉、同学年の弟で今は地元で高校教師となっている恭平、母親の燈子たちの姿を描く長編ストーリィ。

主人公ががん宣告を受けたというと、残る余命生活をどう生きるかというストーリィになりがちですが、本作はちょっと異なります。
遼賀と、彼を取り巻く家族や矢田泉たちとの強い結びつきを描いた、家族の物語と言うべきストーリィだからです。
それもあって、第1章の主人公こそ遼賀ですが、第2章以降、母の燈子、元同級生で現看護師の矢田泉、二卵性双生児と周りから思われてきた弟の恭平、そして最後に再び遼賀と、章ごとに主人公は変わります。
そして各章は、遼賀と関わりのあった各自のこれまで(人生)を描く内容になっています。

悔いもあります、悲しみや寂しさもあります、それでも最後、すっきりとした読後感があるのは、遼賀を含めて彼らが真摯に自分の人生を(今もこれまでも)歩んできたから、と感じます。

医療を超えた人生の物語、悲しさを超えた家族の強い結びつきの物語、看病を超えた支え合いの物語、そんな趣きを感じます。

※なお、題名の「きのうのオレンジ」は、遼賀と恭平2人が15歳の時に経験した雪山での遭難事故に関わり、生きるんだという強い意志を象徴するもの。


第1章〜第5章/エピローグ

               

16.
「メイド・イン京都 ★★


メイド・イン京都

2020年01月
朝日新聞出版

(1600円+税)



2021/01/26



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「メイド・イン京都」という題名、何の意味だろうと思ったのですが、読み始めると、あぁ良い題名だなぁと感じます。

主人公は、
十川(そがわ)美咲、32歳
4歳下の銀行員であった婚約者=
古池和範が実父の死をきっかけに家業を継ぐことになり、一緒に東京から京都の和範の実家へとやって来ます。
家族で食堂でも経営?と思っていたら、何と同族で手広く事業を行っていた名家。バタバタする古池家にあって、商売のことを知らず、京都人でない所為もあるのか、義母・義姉だけでなく和範からさえも除け者扱い。
そのため一人で土産物屋に入り西陣織を見た処から、美咲の新たな道が始まります。

結末から言ってしまうと、ごく平凡な一女性の、思わぬ処から始まったサクセス・ストーリィ。
西陣織に触発された美咲が、持参したミシンでTシャツにオリジナルデザインの刺繍をしてみた処から、服作りの情熱が芽生えていきます。
美大の同級生で今は陶芸家として独り立ちした
仁野佳太、その佳太の元で出会ったイベント会社を経営しているという月橋瑠衣との出会いが、さらに美咲の道を開いていきます。

ただ、サクセス・ストーリィといっても、当然ながらそう順調にいくものではありません。和範との問題や、信頼した相手から裏切られるような目にも遭います。
それでも美咲が前に進んでいけたのは、物づくりの楽しさ、丁寧に仕事をこなしていく美咲を信用し、応援してくれる人たちがいたから。

ありきたりのパターンかもしれませんが、主人公=美咲の頑張りがとても気持ち良いのです。だからこそ応援したくなる、だからこそ成功を一緒に喜びたくなる。
でも、恋愛だけは、頑張りだけでうまく進むものではないようです。

たまたま京都へ行ったことが、創作意欲に繋がり、オリジナルな服を生み出すヒントとなり、新たな道が開かれることになる。
「メイド・イン京都」、素敵な題名ではありませんか。


プロローグ/1.結婚とお小遣い/2.十年ぶりの再会/3.別離へ/4.明け方の訪問者/5.ブランド誕生/6.袋小路/7.チャンス到来/8.片想いの結末/エピローグ 一年後

                 

17.
「金の角持つ子どもたち ★★


金の角持つ子どもたち

2021年05月
集英社文庫

(600円+税)



2021/06/25



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小学五年生の戸田俊介は、サッカーのクラブチームに入っていて将来の日本代表を目指して努力中。
そんな俊介がある日、トレセンに選ばれなかったからサッカーを辞める、行きたい学校があるから塾に行かせて欲しいと、突然に言い出します。
決して裕福ではない家、まして妹の
美音は生まれついての聴覚障害で聾学校の幼稚部に通っていて、今後もお金がかかる。
それでも、親の犠牲にされ、働けと高校を中退させられた悔しさを経験する母親の
菜月は、何とか俊介の願いをかなえてあげたいと決意し・・・。

スポーツに頑張っているというと皆が称賛し、塾に通って有名校を目指しているというと勉強以外を犠牲にしてと批判的にみられることが無きにしも非ず、と思います。
でも、同じだと思うのです。スポーツが得意な子はスポーツを頑張るのも、勉強が得意な子が勉強を頑張るのも。

ただ親に強制され、自分の意思ではないのに塾通いさせられる、というのはどうかと思いますが、本作における俊介、何か夢を持ち、その夢の実現のために最難関の公立中学を目指そうとしているらしい。

自身高卒で学歴コンプレックスを抱く父親の
浩一、自分も頑張るからお兄ちゃんを塾に行かせてあげてと父親に懇願した美音、俊介の頑張りに触発されて自分もまだこれから頑張れるんだと気づいた菜月、感動を覚える部分は幾度もあります。

第一章の主人公は母親の菜月、第二章の主人公は懸命に頑張る俊介。そして第三章の主人公は俊介を応援する学習塾の教師=
加地将士(まさし)
極限まで努力し続けた子どもたちには金の角が見える、というのはその加地の弁。加地もまた、ずっとヒキコモリだった3歳下の弟=
直也と同居し、その頑張りを見守っている状況。

何であれ、夢のために必死に努力する姿は美しいと思いますし、その姿は周囲の人にも影響を及ぼしうる、というのが本作から感じることです。
決して受験勉強だけのストーリィではありません。


1.もう一度、ヨーイドン/2.自分史上最高の夏/3.金の角持つ子どもたち

                

18.
「空にピース Peace Sign to the Sky ★★


空にピース

2022年02月
幻冬舎

(1700円+税)



2022/03/20



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主人公の澤木ひかりは、教師5年目の独身、26歳。
都内で新しく赴任した公立水柄小学校で6年2組を担当することになります。
しかしこの小学校、教師にとって大変な処という定評があるらしい。しかも前担任はうつ病で休職し、何の引継ぎも受けられず。さらに1組担任の先輩教師・
相庭はひかりの相談に応じようともせず、「この学校では何もしないことです」と。
そのうえ、授業中勝手に教室を出ていて戻らない
今田真亜紅、不登校気味で給食だけを登校目的らしい佐内大河、日本語が十分に理解できていないらしいベトナム人のグエン・ティ・ロン、抗議ぶりが強烈な青井文香の母親と、問題だらけ。

しかし、問題行動の多い生徒たちを見放そうとせず、彼らの行動の背景には何らかの理由、事情がある筈と、批判を受けるのも覚悟で彼らの家庭にも目を向け、彼らを理解しようとします。
そんな若い教師=澤木ひかりの奮闘記。
その結果、真亜紅の異父姉
アイリンも含め、子どもたちはひかりに対して少しずつ心を開いてくるようになるのですが・・・。
ちょっと壷井栄「二十四の瞳」を思わせる処がありますが、今は当時よりずっと状況は複雑で難しいのでしょう。

大変だな、という感想は無責任なものと感じます。
教師とは言え、ごく普通の大人に過ぎません。皆が皆、ひかりのように諦めず子どもたち一人一人に向かいあっていくことは至難のことと思いますし、教師はそこまで義務を負っているのか、と思います。
でも、ひかりが諦めず奮闘したことで子どもたちが救われたのも事実ですし、教育の場で問題児だからと見捨てず、一人一人の子供たちを救ってほしいと願うばかりです。

本書に登場する問題児たち、彼らが決して悪い訳ではありません。彼らもまた親たちの行動による犠牲者と言うべきなのでしょう。
その彼らの状況は本当に凄絶、ひかりの奮闘ぶりも圧倒される程。
そして、元副校長が殺害されるという事件が発生し、ミステリまで?といった具合です。
読み終わった時には、ちょっとしたミステリ・サスペンス映画を観終わったような時のような、見応え、充足感でいっぱいになります。

最後は爽快。お薦めです。

         

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