クラフト・エヴィング商會作品のページ


吉田篤弘
(1962年東京都生)・吉田浩美(1964年東京都生)夫婦を中心とする制作ユニットで、ブックデザイン、小説、工作などを手がける。1998年「どこかにいってしまったものたち」を皮切りに“クラフト・エヴィング商會”名義で次々とユニークな本を発表。ユニット名は稲垣足穂の本にあった「クラフト・エビング的な」という言葉から。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞。


1.
じつは、わたくしこういうものです。

2.
注文の多い注文書

  


 

1.

●「じつは、わたくしこういうものです」●(写真:坂本真典) ★★  


じつは、わたくしこういうものです画像

2002年02月
平凡社刊
(1900円+税)

2013年10月
文春文庫化

 

2006/11/29

 

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「月光密売人」「秒針音楽師」と続くので、何やらファンタジーな世界に足を踏み入れたように感じるのですが、各々実在の人物が大きく写真で紹介されているものですから、世の中には何と奇妙な仕事があるものかと思ってしまう。

ところが巻末で実は・・・と明かされるには、これはすべてフィクションであるという。どの写真の人も、クラフト・エヴィング商會に協力してそれぞれの役割を演じてくれたのです、とのことです。
どの写真の人にも笑顔を感じるので、騙されたと怒る気持ちは少しも起きません。むしろ事実ではなく皆で創り上げたフィクションであるということに、その仲間入りをしたような楽しい気分になります。
何とユニークな本であることでしょう、それが全て。

祝部陸大さんの渋くも味わい深い表情に会える「月光密売人」、いかにもそれらしい雰囲気の「秒針音楽師」のおかげで、冒頭からすぐに本書の世界に引き込まれてしまいます。
作家の小川洋子さんや、ノンフィクション・ライターの最相葉月さんまで一役買って登場しているのですから、さらに楽しくなります。
あえて本好きの方に紹介したい2篇は次のとおり。
・コーヒー豆にカラマーゾフの兄弟を毎晩少しずつ読み聞かせると、豆は“カラマーゾフ的”“バリトン化”するそうな。思わずニンマリしてしまいます(「バリトン・カフェ」)。
・夜から朝にかけて開館する“冬眠図書館”には、コーヒーとパンとシチューが用意されているという(「シチュー当番」)。そんな図書館、是非行ってみたいです(笑顔)。

月光密売人/秒針音楽師/果実勘定士/三色巻紙配達人/時間管理人/チョッキ食堂/沈黙先生/選択士/地暦測量士/白シャツ工房/バリトン・カフェ/冷水塔守/ひらめきランプ交換人/二代目・アイロン・マスター/コルク・レスキュー隊/警鐘人/哲学的白紙商/シチュー当番/じつは、わたくしこういうものです

      

2.

「注文の多い注文書」(共著:小川洋子 ★★


注文の多い注文書画像

2014年01月
筑摩書房刊
(1600円+税)

  

2014/02/15

  

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とても面白い趣向から成る一冊。
悪戯心あり、洒落っ気あり、そして探し物の妙に構成の妙、まさに堪えられないといった味わいです。

ふと目に入った一軒の店<クラフト・エヴィング商曾>。その看板には「ないもの、あります」と書かれている。
意を決して扉を開け店に入れば、女性店主が
「何かお探しですか」「ないものでもありますよ」と声を掛けてくる。その声に促され「じつは、昔、読んだ本に出てきたものなんですが−」と。そんなやりとりから蓋を開ける5幕のストーリィ。
各章、
「注文書」「納品書」「受領書」という組み合わせ。小川さんの注文に、クラフト・エヴィング商曾が納品により応じ、再び小川さんが受領という形で締めくくる、という構成です。そのうえ何と、現物の写真付き。(笑)

<人体欠視症治療薬>川端康成の未完小説「たんぽぽ」、
<バナナフィッシュの耳石>はJ.D.サリンジャー「バナナフィッシュにうってつけの日」、
<貧乏な叔母さん>
は村上春樹「貧乏な叔母さんの話」、
<肺に咲く睡蓮>
はボリス・ヴィアン「うたかたの日々」、
そして
<冥途の落丁>内田百「冥途」から、という次第。
小川さんが投げかける難問に、どうクラフト・エヴィング商曾が応じるか、その掛け合いが何と言っても上品で味があり、かつ少々幻想的で楽しめます。
私好みの仕掛けいっぱい、という一冊です。


人体欠視症治療薬/バナナフィッシュの耳石/貧乏な叔母さん/肺に咲く睡蓮/冥途の落丁

    


  

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