知野
(ちの)みさき作品のページ


1972年生、ミネソタ大学卒。東京でウェブ編集の仕事に携わったのちカナダに渡る。現在バンクーバー在住。五大銀行のひとつにて内部監査員を務める。2012年「妖国の剣士」にて第4回角川春樹小説賞を受賞。


1.
鈴の神さま

2.
妖国の剣士

3.
山手線謎日和

 


           

1.

「鈴の神さま」 ★★☆


鈴の神さま画像

2012年07月
ポプラ社刊
(1500円+税)



2012/08/05



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四国の山間にある町、高野町
その町でふと見かける、小さくて可愛い子供の姿。でもそれは子供に非ず。実は町の山の上にある小さな神社に祀られている
鈴守の神さまなのです。
出身は京の都。幼い時に高野町の鈴守を任されて早や1千年くらいという。
そんな鈴の神さま=
安那(幼名:沙耶)と町に住む人々との触れ合いを、時代を前後しながら、温かくもユーモラスに描いた連作長篇。

神さまを描いた小説が無い訳ではありませんが、少なくとも人間よりはたとえ少しなりとも超越した存在として描かれている筈。ところが本作品に登場する鈴の神さまといったらどうでしょう。
何か神さまとしての力を発揮する訳でなく、無邪気で、お菓子が大好きで、止められると実に悲しそうな顔をするといった、純真無垢の子供といった姿なのです。

畠中恵「しゃばけ荻原浩「愛しの座敷わらしの雰囲気に近いところがありますが、「しゃばけ」らに登場するのが妖しやその仲間であるのに対して、本作品は純粋培養の神さまなのですから、そこはもう底抜けに明るく微笑ましく、楽しいばかりです。
そんな安那が生き生きと暮している高野町、のどかで、心が洗われる気がします。そんな安那が暮す町を、自然を、その町の雰囲気を大切に守っていきたい、それこそ幸せというものではないか、と感じられます。

なお、“安那殿”を守って常に付き添っている神狐の“
殿”も、本書には欠かせないキャラクターです。
ファンタジーでのどかですこぶる楽しい、私好みの“神さま”物語。
温かでファンタジーなお話が好きな方に、是非お薦め!


鈴の神さま(1996年春)/引き出しのビー玉(1945年夏)/ジッポと煙管(1988年冬)/秋桜(2005年秋)/十四年目の夏休み(2010年夏)

                     

2.

「妖国の剣士 ★☆        角川春樹小説賞


妖国の剣士

2012年10月
角川春樹
事務所刊

(1500円+税)

2013年08月
ハルキ文庫化


2018/02/11


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人間にとっては恐ろしい“妖魔”に対抗しつつ、人間が妖魔と共存する架空世界が本ストーリィの舞台。
そのことを除けば、後は江戸時代のような時代設定。

少年剣士の形をした
黒川夏野・17歳が、実家を出て都へと向かいます。その理由は、幼い頃に行方知れずとなった、当時2歳の弟=蛍太朗と思われる少年を見たという話を耳にしたから。
しかし、その道中に早々と妖魔に遭遇した夏野は、まんまとその罠に引っかかり、何と左目に・・・。

上記の夏野が、この時代劇風ファンタジー冒険物語の主人公と思いきや、どうも軸となる主人公はその後に登場する
鷺沢恭一郎という名の剣士と捉えた方がよさそうです。
その恭一郎の傍らには、
「蒼太」と呼ばれる少年姿の妖魔が何故か居て・・・・。

数々の悪さを仕掛けてきた妖魔対剣士たち、というストーリィと思いきや、読み進むにつれて事態はもっと複雑であることが分かってきます。
要は、妖魔が必ず悪いということはなく、それが妖魔だろうが人間だろうが、邪な心を持つに至り悪計を巡らす存在こそが最も恐ろしい、ということ。

いわば、和風ファンタジーによる剣士の冒険物語。それなりに楽しく読めました。

            

3.

「山手線謎日和 ★☆


山手線謎日和

2017年12月
ハルキ文庫刊

(580円+税)



2018/01/23



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山手線の駅を舞台にした日常ミステリ。
探偵役となるのは、小出版社で営業担当の
折川イズミ、31歳
もう一人は、イズミが山手線車内で見かけた、おそらく山手線に乗り続けて読書にふけっているらしい男性。後に
和泉怜史、42歳と正体が判明します。

ミステリのタイプとしては、ホームズ&ワトソン型。
よくあるパターンですが、男女がコンビとなれば何となく男性側は知的で優しそうな、好感の持てる青年、という設定が多いように思います。
それに対して本作のホームズ役=和泉怜史は、すこぶる曲者的。イズミが受けた印象からすると、慇懃無礼、不愛想、そして身も蓋もない言い方ばかり、という人物。
一方のワトソン役=イズミは、和泉に文句を言いつつも、事件への好奇心から和泉にしがみ付いて離さず、という感じ。

「五反田駅事件」は、ホームで女性が、入線してくる電車に向けて何者かに突き飛ばされ、危うかったという事件。そこに2人とも居合わせたことが、知り合う切っ掛けとなります。
「高田馬場駅事件」は、イズミの同僚女性が痴漢に遭遇しただけでなく、母親の形見であった財布を掏り取られるという事件。
「上野駅事件」は、思わずぎょっとするような化粧をした女性あるいは男性?の訳あり事情に、イズミと和泉の2人が手助けするというストーリィ。

前2篇はそれなりの面白さ。ところが「上野駅事件」となると、イズミと和泉も事件の当事者に巻き込まれ、2人の人の好さ、コンビの妙がはっきりしてきて面白くなります。

なお、連作ミステリで3話だけというのは物足りず。もう少し読みたい、というのが正直な思いです。

五反田駅事件/高田馬場駅事件/上野駅事件

      


   

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