荒山 徹作品のページ No.2



12.風と雅の帝 


【作家歴】、十兵衛両断、柳生雨月抄、忍法さだめうつし、友を選ばば、柳生黙示録、砕かれざるもの、白村江、秘伝・日本史解読術、神を統べる者−厩戸御子倭国追放篇−、神を統べる者−覚醒ニルヴァーナ篇−、神を統べる者−上宮聖徳法王誕生篇−

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12.

「風と雅の帝 ★★☆   


風と雅の帝

2023年09月
PHP研究所
(2300円+税)



2023/10/09



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本作題名、隆慶一郎「花と火の帝のオマージュでしょう。
しかし、無理矢理こじつけた題名ではなく、読了した後になって実に相応しい題名だと得心した次第です。

舞台は、天皇家が
持明院統(嫡子帝系)【北朝】大覚寺統(弟帝系)【南朝】に別れて対立した南北朝時代。
主人公は、明治時代に南朝が正統とされたことから歴代天皇の系譜から抹消された
北朝初代=光厳天皇(量仁:かずひと)

鎌倉幕府滅亡後に南北朝という動乱期があったことは歴史の知識として知ってはいましたが、恥ずかしながらその経緯・顛末については殆ど知らず。
その点では興味を惹かれて当然という処ではあるのですが、もうひとつ気が乗らず読もうかどうか迷いました。しかし、結果的に読んで大正解。
※なお、荒山徹さんというと、隆さん同様、伝奇小説というイメージが強いのですが、本作は歴然とした歴史小説です。

元々天皇家内の混乱から持明院統と大覚寺統に分かれて対立、皇位を交互に継承するという異例の状態だったところ、<建武の親政>に失敗した
後醍醐天皇足利尊氏によって配流された隠岐を脱出し、吉野宮で帝位にあると主張したことから、光厳天皇と並存することとなり、南北朝時代が始まったという経緯。
その後、光厳帝が廃位(帝位抹消)されたのも、尊氏が北朝を裏切って南朝と手を結んだため、というのですから、天皇の正統は尊氏によって翻弄されたと言えるようです。
本作で描かれる尊氏、やたらフラフラしている人物と映ります。

しかし、本作、対立、抗争を描くことだけで終始した作品ではありません。そこが素晴らしい。
光厳帝、上皇として15年に亘る院政で徳政(<
貞和徳政>)を行い、「風雅和歌集」の親撰も行ったという。

廃位された後の光厳帝、南朝との対立が続く中、天皇とはどうあるべきかと考え続けます。
そして、その結果導き出された考え方が、現在の皇室にも受け継がれているとのことですから、光厳帝の存在は無視できません。
一方、その意味で後醍醐天皇とは、天皇の在り方を懐古に戻そうとした人物。具体的には、時代の進展を認めず過去に拘ったあまり時代を混乱させた人物として描かれます。
当時、もはや武士の時代、武士を無視して天皇親政など、既に時代錯誤に他ならなかったのでしょう。

光厳帝の考え方に基づくのなら、天皇として重要なのは“天皇の在り方”を継承していくことであり、万世一系とか、女性宮家・女性天皇を認めようとしないのは、後醍醐天皇と同様、過去に囚われた考え方と言うべきなのでしょう。

単なる歴史物語にとどまらず、現在の皇室にも繋がる歴史小説の逸品。是非お薦めです。
※今上陛下が深い感銘を受けたと述べられていた
「誡太子書」、叔父である花園天皇が皇太子である量仁のために記した書だそうです。

序ノ章−野風はげしみ/薫風ノ章−ゆきてかよふ夢てふものの/血風ノ章−身こそあらめ/疾風ノ章−わたりえぬ道ぞ/凄風ノ章−朽ちてのちしも/烈風ノ章−むかひなす心に/傷風ノ章−世の色のあはれは/霜風ノ章−あすともなしの/雅風ノ章−おのが色なき雪の深山べ/付−ながれの末は

       

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