エミリー・ロッダ作品のページ


Emily Rodda 1948年オーストラリアのシドニー生、シドニー大学で英文学を学ぶ。「ローワンと魔法の地図」にて1993年度オーストラリア児童図書賞の最優秀賞、3巻目の「ローワンと伝説の水晶」にて同賞の優秀賞を受賞。本名のジェニファー・ロウ名義による大人向けミステリ作品もあり。


1.ローワンと魔法の地図

2.ローワンと黄金の谷の謎

3.ローワンと伝説の水晶

4.ローワンとゼバックの黒い影

5.ローワンと白い魔物

6.スター・オブ・デルトラ1

 


  

1.

●「ローワンと魔法の地図」● ★★☆
 原題:"ROWAN OF RIN"      訳:さくまゆみこ 絵:佐竹美保


ローワンと魔法の地図


2000年08月
あすなろ書房
(1300円+税)

 

2004/12/09

 


amazon.co.jp

児童向けファンタジー冒険物語。
物語の舞台はファンタジーらしく、いつの時代のどこの場所とも判らぬリンの村。牧畜で穏やかに暮らす共同体風の村です。
そのリンの村に、川に山からの水が全く流れてこなくなるという困難が生じます。このままでは家畜のバクシャーばかりか、村人も暮らしていけなくなる。原因をつきとめてこれを解決するためには、竜が住むという禁じられた山に登てみるほかない。
そこで6人の勇者(男女各3人)が山へ向かうことになります。ところが、魔女とも言われている老婆のシバから与えられた、山への道筋を示す地図を見ることができるのは、ローワンという少年ただ一人。
そのローワンはとても臆病で、そのためバクシャーの世話係となっている少年。そんなローワンを加えた7人が、村を救うため山へと向かいます。
山への途中には様々な困難が待ち受けていますが、それを導くのが魔法の地図。この辺りファミコンゲームのような感覚で、いかにも児童向きストーリィ。

そんな本書の魅力は、冒険にあるのではなく、どの子供をも勇気づけてくれるその内容にあります。
主人公ローワンは臆病でそれを羞じていますが、こみあげてくる恐怖感をどうすることもできない。他の勇者6人と対照的です。しかし、どんな勇者にも人間なら何かしら苦手なものがある筈。臆病だからといって、それは責任を成し遂げることができないということではない。本書に篭められている、そんな作者のメッセージが素晴らしい。
ハリー・ポッターシリーズのような心躍る冒険物語ではありませんが、むしろ本書の方が心に訴えてくるものがあります。
楽しく、かつ心の伸び伸びとする作品です。お薦め。

   

2.

●「ローワンと黄金の谷の謎」● 
 原題:"ROWAN AND THE TRAVELLERS"   訳:さくまゆみこ 絵:佐竹美保


ローワンと黄金の谷の謎


2001年07月
あすなろ書房

(1300円+税)

 

2004/12/18

“リンの谷のローワン”シリーズ・第2巻。

第1巻で、山からアランが持ち帰ったヤマイチゴの栽培が進んでいるリンの村に、<旅の人>たちがまたやって来ます。
彼らはかつてリンの村人たちとともにゼバックと戦った同盟者。ジプシーみたいなものか。凧に乗って空を飛ぶ<先駆け>を案内役に、定住せず移動をして回る一族。
それと時を同じくして、魔女とも言われるシバが、リンの村に密かに忍び寄る危険を予知し、怯えます。<旅の人>がその原因なのか、それとも再び<旅の人>と共に戦う時が来たのか。

プロローグ的な部分で2/3程まで過ぎてしまい、ローワンと先駆けのジール黄金の谷を探す冒険部分はほんの僅か。
大人からすると、リンの村に迫る危機もその解決策もすぐ見えてしまい、面白いとは思えない。
でも、子供たちにとっては<旅の人>の語り部であるオグデン、先駆けのジールらの登場は、楽しめるのではないかなァ。

     

3.

●「ローワンと伝説の水晶」● ★☆
 原題:"ROWAN AND THE KEEPER OF THE CRYSTAL"  訳:さくまゆみこ 絵:佐竹美保


ローワンと伝説の水晶


2002年01月
あすなろ書房

(1400円+税)


2004/12/23

“リンの谷のローワン”シリーズ・第3巻。
これまで読んだ3巻の中では、もっとも冒険ファンタジーらしい作品です。

宿敵ゼバックと共に戦った同盟者の残るひとつ、海辺の民マリスの村から、リンの村に使者がやってきます。
3つあるマリスの部族を統率する彼らのリーダー、<水晶の司>の選任者を迎えるために。
代々役割を担ってきたその選任者とは、なんとローワンの母親ジラーだった。まさかの場合の備えとして、後継者となるローワンもまた、ジラーとともにマリスの村へ向かいます。
ところが、何者かの手によりジラーが倒れます。ジラーを救うため、そして3人の候補者から次なる<水晶の司>を選ぶ選任者の役割を果たすため、ローワンが謎に挑みます。

このシリーズ、各巻には必ず子供たちへのメッセージが籠められています。それが子供たちにとっては大切なこと。
最後にそのメッセージを知るのも、読む楽しみのひとつです。

 

4.

●「ローワンとゼバックの黒い影」● ★★
 原題:"ROWAN AND THE ZEBAK"     訳:さくまゆみこ 絵:佐竹美保


ローワンとゼバックの黒い影


2002年12月
あすなろ書房

(1400円+税)

 

2004/12/26

“リンの谷のローワン”シリーズ・第4巻。

ここまでこのシリーズを読んできて、そのしっかりとしたストーリィ構成に感心します。一歩一歩着実に段階を踏んでストーリィは進み、またローワンも成長を遂げています。
ローワンが決して勇者になった訳でなく、恐れを抱きながらも為すべきことをしっかり果たすことができるようになった、というところが本シリーズの素晴らしさでしょう。

今回のストーリィは、ゼバックが偵察に放った翼をもつ巨大な爬虫類グラックによって、妹アナドが攫われてしまうところから始まります。
ローワン、既にお馴染みのアラン、ジール、パーレンの4人が、アナドを救うためゼバックへ向かいます。
これまで3巻でのローワンは、否応なく行動したというものでしたが、今回初めて自分の意思で行動します。それがこれまでとの大きな違い。
そして、潜入したゼバックの地ではリンの村の秘密が明らかになり、最後にはグラックに乗ったゼバックの軍団が空からリンの村を襲うというクライマックスへ。

児童書にふさわしい単純で素直な物語ですけれど、その読み応えは確かなものがあります。

 

5.

●「ローワンと白い魔物」● ★★
 原題:"ROWAN AND THE BUKSHAH"     訳:さくまゆみこ 絵:佐竹美保


ローワンと白い魔物


2003年07月
あすなろ書房

(1500円+税)

 

2004/12/28

“リンの谷のローワン”シリーズ第5巻にして最終巻。

第4巻までで、<旅の人>と海辺の民マリス、そして仇敵ゼバックとの関係が明らかにされ、ひととおりの決着がついたと思っていたのですが、また新たな危機がリンの村を襲います。
今度は厳しい寒さ。
そのためにバクシャーは飢えに苦しみ、長老ランの決断により人々は海辺の村へと避難していきます。村に残ったのは、ローワンを含む僅かに5人のみ。そして、シバから予知能力を授けられたローワンは、村の窮状を救うため再び禁じられた山へと向かいます。ローワンと行動を共にするのはノリスシャーランの兄妹、後から加わったジール。先に山へ向かったバクシャーの後を追うように、4人は山への道を辿ります。
雪と寒さの中から現われた恐ろしい怪物アイス・クリーパーを始め、4人の前には次々と苦難が立ち塞がります。

本巻の面白さは、これまでの物語以上の苦難と、一行4人の固い友情、助け合う心が試されるという展開にあります。
読んでいてこんなにドキドキしたのは、本シリーズで初めてのことではなかったか。本書は児童向けの単純なストーリィですけれど、これだけの興奮を大人にも味わわせてくれるところに、本シリーズの素晴らしさがあります。
最後は、黄金の谷の人々が消え去った謎まで解き明かされ、すべてがすっきりしたという爽快感があります。
今は、このシリーズを読めて良かったという満足感あり。

    

6.

「スター・オブ・デルトラ1−<影の大王>が待つ海へ− ★★
 原題:"THE STAR OF DELTORA1"   訳:岡田好惠


スター・オブ・デルトラ1

2015年発表

2016年11月
KADOKAWA刊

(900円+税)

 


2016/12/24

 


amazon.co.jp

児童向けファンタジー冒険物語、四部作の第1巻。

10年以上前に
ローワン”シリーズ5巻を読み終え、エミリー・ロッダに関しては一区切りついたと思っていましたが、新シリーズ刊行と聞いてつい手が伸びました。
“ローワン”シリーズの世界観が楽しく面白かった、という印象が残っていたからでしょう。

本ストーリィの舞台は、“ローワン”シリーズと同じ世界。ローワンシリーズは、
魔術と謎の王国デルトラの西<銀の海>の向こうにある島が舞台でしたが、本シリーズはその海こそが舞台。
主人公の
ブリッタは、デルの港で最大の大商船団「ロザリン船団」の<スター・オブ・デルトラ号>に乗って、<銀の海>への航海へと乗り出す物語。

第1巻では、主な登場人物の紹介と、主人公ブリッタの訳ありの家族事情が描かれます。そしてそれと共に、ロザリン船団の見習い船員の最終候補者の一人に選ばれてようやく航海に乗り出すまでの経緯が描かれます。

本冒険物語の真価はこれから。
本書では、スター・オブ・デルトラ号の船出にその船上で胸をときめかすブリッタと共に、読み手もまたこれからの冒険に胸がときめくといった具合。これからの巻が楽しみです。


1.魔杖の持ち主/2.ブリッタ/3.<スター・オブ・デルトラ号>/4.チャンス/5.ろうそくの光のそばで/6.港/7.ライバルたち/8.試験/9.発表/10.金貨一枚/11.地下室/12.取引/13.証書/14.星空の下/15.悪意/16.影たち/17.夜明け

 


 

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