ジーン・ストラトン・ポーター作品のページ


Gene Stratton Porter 1868〜1924 アメリカの作家。インディアナ州の農場で12人兄弟の末っ子として生まれる。86年薬剤師だったチャールズと結婚、リンバロストの沼地があるジュニーヴァに移り住む。そこを拠点に鳥類などの写真を撮り、コラムを雑誌に掲載するようになる。博物学の野外研究に打ち込み、リンバロスト沼において黒はげたかについてのシリーズを完成。名作「そばかすの少年」は、その時の経験をもとに生まれた小説。


1.そばかすの少年 村岡花子訳(角川文庫版→河出文庫版)

2.リンバロストの乙女

3.そばかすの少年 鹿田昌美訳(光文社文庫版)

   


   

1.

●「そばかすの少年」● ★★★
 原題:"Freckles"         訳:村岡花子



1904年発表

1964年03月
角川文庫刊

第14刷
1972年12月

絶版




2015年04月
河出文庫
復刊


2000/02/05


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私が初めて読んだ中学生の頃からの 愛読書、手許から放すなどと決して考えられなかった一冊です。そして、それは正解でした。まもなくこの文庫は 絶版になってしまったからです。
何故絶版になったままなのか、今も理解できません。それ程までに感動的で、素晴らしい作品です。
少女時代における永遠の名作と言えば、
赤毛のアンがその代表に挙げられると思いますが、本書はそれに勝るとも劣らない作品で、少女向けの「アン」に対して、少年向けの「そばかす」と並び称えたい作品です。

主人公“そばかす”は、アン同様に孤児の少年です。でも、もっと悲惨なことには、生まれたばかりの頃、右手を切り落とされた状態で孤児院の前に捨てられ、自分の名前すら知らないという身の上です。
そんなそばかすが、引き取られた家での虐待から逃げ出し、ようやく得たのが、リンバロストの沼地・森の番人という仕事でした。
大人でさえ恐怖をいだくリンバロストの沼地、森の奥深く、孤独と恐怖、夏の酷暑と冬の厳寒と闘いながら、その勇気と忠誠心によってそばかすは逞しく成長していきます。そして、雇主であるマックリーン支配人、さらに“沼地のエンゼル”の愛を自分ひとりの力で勝ち取り、最後には幸せをつかむというストーリィ。

単なる成長物語ではなく、リンバロストの森、そこに生きる鳥や動物たちの美しさ、自然に対する感動が、この作品には満ち満ちています。
ストーリィの中には、自然の美しさに対するそばかすの愛情、感動が謳われ、そして人の愛情に対するそばかすの渇望が語られ、読みながら幾度も涙が膨れ上がるのを抑えなくてはなりませんでした(こんな時、電車内では困ります)。
ヒロインのエンゼルマックリーンだけでなく、他の登場人物、ダンカン夫妻鳥のおばさん等々、皆忘れられない人達 ばかりです。名作とは、まさにこうしたものではないかと思います。

   

2.

●「リンバロストの乙女」● ★★☆
 原題:"A Girl of Limberlost"         訳:村岡花子

リンバロストの乙女画像

1909年発表

角川文庫刊
絶版

2014年08月
河出文庫
復刊
(上下)

2000/02/05
2011/01/01

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そばかすの少年の姉妹編と言うべき物語
主人公はエルノラ・コムストックという、リンバロストの森近くに住む少女。

エルノラの父は早くに死んでおり、彼女は母との2人暮らしで育ちますが、その母は夫の死の原因をエルノラに転嫁し、娘に対しずっと冷たい仕打ちを繰り返してきた女性。
そんな境遇にも関わらず、エルノラは優しく、気品のある美しい娘に成長していきます。
前半は、母親から学資の援助を得られないエレノラは、蒐集した蛾の見本等を鳥のおばさんに買い上げてもらって学資とし、自分の力で高校を卒業します。
リンバロストの森を愛し、その恩恵を受けて自立していく姿は、やはり“そばかす”の後継者というに相応しい。

後半は、エレノラの恋が中心となるストーリィ。
病気療養をかねてこの地に都会からやってきた好青年フィリップ・アモンが、エレノラの前に姿を現します。
エレノラと意気投合したフィルは、彼の滞在中エレノラの蒐集作業を手伝うという名目で、エレノラと毎日を共に過ごします。しかし、フィルには既にエディス・カーという婚約者がいて・・・。終盤、エルノラはフィルから逃れて、一時そばかすとエンゼルの家庭に身を寄せます。エンゼルとの間に息子、娘を得て、幸せな家庭生活を築き上げたそばかすの後の姿を見られるのは、ファンとしては嬉しいことです。

リンバロストの森という自然の中で学び、成長し、自立心と気品を身に着けた少女の成長物語という点では、むしろ前半の方が魅力あると言っても良いかもしれません。
「そばかすの少年」と合わせて味わいたい、名品です。

※2014年08月、待望叶って河出文庫から復刊されました。

  

3.

●「そばかすの少年」● ★★★
 原題:"Freckles"         訳:鹿田昌美


そばかすの少年画像

1904年発表

2009年05月
光文社文庫刊
(895円+税)


2009/06/08


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私が最も愛している小説のひとつ、長年待ち望んでいた村岡花子訳の復刊ではなく、新訳の刊行です。とても嬉しい。

孤児院育ち、しかも片手がないというハンデをもつ“そばかす”が、木材会社を経営するマクリーンに雇われ、リンバロストの森の番人という孤独で辛苦の多い仕事に耐え忍び、やがてリンバロストの森の美しさを発見するとともに、人間として大きな成長を遂げていくという少年の成長ストーリィ。

舞台となる、太古からの森とも言うべきリンバロストは、知らない人間にとっては恐怖尽きない場所です。
他に生きていく場所を持たないそばかすは、恐怖、孤独、寒さと戦いながら、森の番人という役割を必死で果たしていく。
そしてその結果として、マクリーン、ダンカン夫妻、
湿地のエンジェル、バードレディら多くの人たちから信頼と愛情を勝ち取ります。

本作品に感動するのは、どの頁を読んでも、そばかすの懸命さ、忠実さ、誠実さ、謙虚さ、そして勇敢さに打たれるからです。
そしてそれと共に、背景として描かれるリンバロストの森の美しさが、いつまでも忘れられません。

少女の成長を描いた名作は数多くありますけれど、少年の成長を描いた名作はそれ程ではありません。
本書は、是非読んでいただきたい名作です。

   


 

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