リチャード・ノース・パタースン作品のページ


Richard North Patterson  1947年米国カリフォルニア州パークレー生。弁護士として活躍する一方、79年処女長編「ラスコの死角」にてMWA(アメリカ探偵作家クラブ)最優秀処女長編賞を受賞。その後弁護士業に専念していたが、92年「罪の段階」の発表により人気作家となり、現在は執筆活動に専念。


1.罪の段階

2.子供の眼

3.最後の審判

4.サイレント・ゲーム

5.ダーク・レディ

作品一覧

 


   

1.

●「罪の段階」● ★★☆
 
原題:"Degree of guilt"  訳:東江一紀




1992年発表

1995年10月
新潮社刊

1998年11月
新潮文庫
(上下)

 

2000/10/08

本書は、渾身の迫力に充ちたリーガル・サスペンスです。
ピュリツァー賞作家
ランサムが銃殺され、現場に留まったTVインタビューアー・メアリは、レイプに対する正当防衛を主張します。本作の主人公である弁護士パジェットは、そのメアリから脅しまがいの弁護依頼を受けます。パジェットの息子カーロの母親がメアリであるという秘密から、パジェットはやむなく弁護を引き受けることに。しかし、警察の捜査はメアリの供述の矛盾を突き、メアリは謀殺による起訴を受けることになります。果たしてレイプは本当に在ったのか、そして、メアリはいったい何を隠そうとしているのか。
本作品は単なるサスペンス・ストーリィに留まりません。パジェットとカーロの親子の絆を重要な軸としつつ、パジェットの片腕として活躍する女性弁護士テリーザの家庭関係も描く等により、 人間ドラマとしての深みも充分に備えています。
後半は、予審法廷を主舞台として、スリリングな法廷闘争が展開されます。レイプ未遂事件の担当判事キャロライン、検事シャープ、パジェットと組むテリーザ、そして被告メアリと、主要面子がいずれも女性であることが、 緊張感を高めています。
これぞクライマックスという場面はありませんが、最初から最後まで緊迫感が少しも途絶えない点はお見事! 脱帽せざるを得ません。分厚すぎると感じる上下2冊ですけれど、余計な部分は少しも無く、最後まで全く目が離せないという充実感に充ちています。
人間ドラマを内包した上質のリーガル・サスペンスと言える傑作。続編である子供の眼が楽しみです。

1.殺人(1.13)/2.取り調べ(1.14-1.22)/3.証人(1.27-2.10)/4.訴追(2.10-2.12)/5.答弁(2.13-2.19)/6.法廷(2.19-2.22)

   

2.

●「子供の眼」● ★★☆
 
原題:"Eyes of a Child"  訳:東江一紀




1994年発表

2000年9月
新潮社刊
(3200円+税)

2004年2月
新潮文庫化
(上下)

 

2000/10/09

罪の段階の最後からそのまま引き継がれる続編です。
本作品における主人公は、
クリストファ・パジェットテリーザ・ペラルタの2人と言って良いでしょう。そして、更に2人の子供たち、カーロエリナを巻き込む、迫真のストーリィとなっています。
ストーリィは、別居に至ったテリーザとその夫リッチーとの間における、エリナの監護権をめぐる争いから始まります。このリッチーの悪辣さ、偽善者ぶり、破廉恥ぶりには、読んでいても憤りを耐えかねる程。 ディケンズ作品のユライア・ヒープペックスニフに勝るとも劣らず、といった具合です。
更に、そのリッチーが殺害され、前作での主人公パジェットが殺人犯として逮捕されるに至ると、もはや小説中のこととは思えず、まるで自分自身のことのように憤怒を覚えざるを得ません。そこからは、ストーリィから離れることなど、全くできなくなりました。
後半における法廷場面も、読み応え充分です。前作における判事キャロライン・マスターズが、今回はパジェットの弁護士として、検事側と法廷における丁々発止の面白さを充分に味わわせてくれます。私はペリー・メイスンで法廷推理の面白さを知りましたが、陪審制度あっての緊迫感であり、それ故のスリリングな面白さでしょう。
結末は如何にもアメリカ的で割り切れなさも残るのですが、前作同様、緊迫感の途絶えることのない、読み応えのあるリーガル・サスペンスであることに何ら変わりありません。「罪の段階」に併せて読むことを、是非お薦めしたい作品 です。

悪夢(10.16)/脱出(10.19-10.24)/取調べ(10.27-11.30)/陪審(2.1-2.2)/公判(2.3-2.16)/子供の眼(2.17-2.19)/家族(翌年4月)

   

3.

●「最後の審判」● ★
 
原題:"The Final Judgment"  訳:東江一紀



 

1995年発表

2002年9月
新潮社刊

(2500円+税)

2005年6月
新潮文庫化
(上下)

 
2002/10/14

罪の段階」「子供の眼に続くパタースン“法廷三部作”の最終巻。本巻では、上記2作にも登場した判事→弁護士のキャロライン・マスターズが主人公となります。
舞台は、サンフランシスコを離れて、キャロラインの故郷であるニューハンプシャー。したがって、本巻は前2作とは関係をもたない、独立したキャロライン・マスターズの物語です。
キャロラインの姪であるブレット22歳が、恋人謀殺の嫌疑をかけられ逮捕される。そのため、事情あって23年間一度も帰らなかった故郷にキャロラインが呼び戻されるところから、本ストーリィは始まります。

ストーリィ内容としては、ブレットの弁護と並行して、キャロラインと父親、義姉夫婦との間に横たわる問題が過去への回想を含めて明らかにされていくのですが、正直言って月並み。
過去2作が興奮する面白さに充ちていただけにこの最終巻にも期待していたのですが、率直に言ってがっかり。
中盤過ぎて真相が読者にほぼ見えてしまうのでは、サスペンスとして物足りないのは当然でしょう。法廷場面も僅かでしかなく、殆どはキャロラインの過去の因縁話に終わってしまった、という観あり。「一族に秘められた過去の愛憎劇」というのなら、アーサー・ヘイリー「殺人課刑事の方がずっと面白い。
前2作のような醍醐味もなく、期待はずれだった一冊。

ふたりの女/帰郷/1964年夏/証人/1972年夏/予審/最後の審判

    

4.

●「サイレント・ゲーム」●  ★☆
 
原題:"Silent Witness"  訳:後藤由季子




1997年発表

2003年3月
新潮社刊

(2800円+税)

2005年11月
新潮文庫化
上下

  

2003/08/11

パタースン得意の法廷サスペンス。
主人公トニーは、かつて高校生の時に恋人アリスン殺害の容疑者とされ、苦しんだ経験をもつ弁護士。悪夢というべきその記憶が残る故郷オハイオ州スティールトンを離れて28年後、それと似た女子高生マーシー・コールダー殺人事件が起こり、かつての親友サムが容疑者とされます。
親密だったサムとその妻スーを助ける為、トニーは故郷に戻り弁護活動を開始しますが、それは同時にかつてのアリスン殺害事件を再燃させることでもあった、というストーリィ。

アリスン殺害の容疑者とされ、町中、そして学校中の疑惑の目に必死で耐えるトニーを描く第一部は、読み応えがあります。
それに対して、現在の事件および法廷場面を描く第二部・第三部は、くどい位に長い。必要以上に長過ぎると言わざるを得ません。そう感じる理由のひとつには、サムが本当に無実なのかどうか、トニーも読者も最後まで確信を持てない、という処に尽きます。
結末のあっと言わせる逆転劇は、そこに至るまでのその長さあってこそのことと言えますが、それだけの為にこの長さを読まされたのかと思うと、釈然としない気持ちが残ります。
逆転劇の鍵となるのは、結局犯人の異常性欲と言う他ないのですが、最近のアメリカ小説はセックスを題材とすることなしに書けないのか、とひとこと苦言を呈したい処。
なお、本作品において秀逸なのは、トニーの敵方となる検事補ステラ・マーズの人物設定。ありがちな頑迷かつ敵対的な検事像に非ずして、パートナーとして信頼できるような公平な女性である点に好感が持てます。

プロローグ トニー・ロード(現在)/第1部 アリスン・テイラー(1967年11月〜1968年8月)/第2部 マーシー・コールダー(現在)/第3部 サム・ロブ(現在)/第4部 スー・ロブ(現在)

トニー・ロードは既存作「サイレント・スクリーン」に登場した野心的な弁護士。また、ステラ・マーズは次作ダーク・レディにて主人公となるそうですが、さもありなんと言えるだけの魅力ある登場人物です。

  

5.

●「ダーク・レディ」● ★★
 
原題:"DARK LADY"  訳:東江一紀




1999年発表

2004年9月
新潮文庫

上下
(各667円+税)

 

 2004/12/02

かなり陰鬱なストーリィ展開。これまでのパタースン作品と異なり、アメリカ社会の多様な側面を描くと共にシリアスな人間ドラマになっています。
所詮好みの問題なのですが、読んでいて楽しい気分にはなれない。それでいて、主人公
ステラ・マーズへの読者の関心をそらさずに引っ張っていくところ、最後に高まる息苦しいような緊迫感、重厚感はさすがパタースン!

主人公ステラ・マーズは、検察局殺人課長の職にある女性検事補。犯罪者に対する追求の厳しさから“ダーク・レディ(黒婦人)”の異名をとる。
そのステラのかつての雇用者であり恋人であった麻薬専門弁護士
ジャック・ノヴァクが、ガーターベルトと黒ストッキングを着けた変死体となって発見されます。一方、新球場建設の工事責任者もまた黒人街娼と共に麻薬中毒死体として発見される。事故か、それとも殺人か。ステラが事件を担当することになりますが、ステラを囲む状況は極めて厳しい。
ステラ自身、かつてのジャックとの関係を問われかねない。そのうえ、信頼する上司
ブライトは市長選に立候補中で、市長選挙および事件の行方は後任の郡検事ポストを目指すステラの今後をも左右しかねない。しかも、長年スティールトン市の裏社会を牛耳ってきた麻薬組織ボスの触手はどこまで及んでいるか判らず、検察局・警察の誰も信用することができない。おまけにアルツハイマーの父親の入院費負担で貯蓄は減る一方。ここまでやるかと思うくらい、ステラは過酷な状況に置かれます。

極めて陰鬱なストーリィであって、それでも読み続けるか、というところなのですが、最後まで読み続ければ相応の読み応え、満足感は得られる、というのがこの作品。
恐怖に脅えくじけそうになりながらも、最後まで信念を貫き通す女性検事補ステラ・マーズの人物造形がお見事。事件の背後に横たわる奥深い闇、孤独感、すべてをひっくるめステラ・マーズ在ってのストーリィであり、「ダーク・レディ」という題名は真にこの作品にふさわしい。
パタースン作品の新たな局面を示すものとして、ファンにとっては見逃せない渾身の一冊。

1.アーサー・ブライト/2.ジャック・ノヴァク/3.トミー・フィールディング/4.ナサニエル・ダンス

   

 

パタースン作品一覧

 

 

1979 The Lasko Trangent(ラスコの死角)   ハヤカワ・ミステリ文庫
1981 The Outside Man  (アウトサイド・マン)
ハヤカワ・ミステリ文庫
1983 Escape the Night (ケアリ家の黒い遺産) 
扶桑社ミステリー
1985 Private Screening(サイレント・スクリーン)
扶桑社ミステリー
1992 Dgree of Guilt  (罪の段階
1994 Eyes of a Child (子供の眼
1995 The Final Judgment(最後の審判)
1997 Silent Witness  (サイレント・ゲーム)
1998 No Safe Place
1999 Dark Lady     (ダーク・レディ)

2000 Protect and Defend
2003 Balance of Power

 

 


 

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