ミランダ・ジュライ作品のページ


Miranda July  1974年米国バーモント州生、カリフォルニア州バークレーで育つ。両親は共に作家で出版社を営む。高校卒業後、カリフォルニア大学サンタクルーズ校に進学するが中退し、オレゴン州ポートランドに移ってパフォーマンス・アーティストとして活躍。97年から映画製作を開始し、脚本・監督・主演を務めた初の長篇映画「君とボクの虹色の世界」が2005年カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞。2001年頃から小説を書き始め、初の小説集「いちばんここに似合う人」にてフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。


1.いちばんここに似合う人

2.あなたを選んでくれるもの


3.最初の悪い男

 


 

1.

「いちばんここに似合う人」 ★★
 
原題:"No one belongs here more than you."      訳:岸本佐知子


いちばんここに似合う人

2007年発表

2010年08月
新潮社刊
(1900円+税)



2010/09/26



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フランク・オコナー国際短篇集を受賞した短篇集、16篇を収録。

どれもとりとめのないストーリィのように感じますが、いずれも現代社会に生きる人々の、癒されることのない孤独感を描き出した作品ばかり。
男女問わず、老いも若きも、登場人物皆がそんな風。となれば、その孤独感がヒシヒシと伝わってきます。
登場人物がその孤独感を前にしてすっかり諦めている、という訳ではありません。しかし、現実としてそこに孤独感がある以上、そこから抜け出ようと足掻いて彼らが行うことは、妄想を繰り広げることしかありません。
その妄想から覚めてみれば、孤独感は厳然としてそこにあるばかり。それはなんとも絶望的な光景です。

生きる営み=孤独と向かい合うこと=孤独こそ彼らの人生。彼らにそんな姿は、まるで現代社会における殉教者のように感じられます。

16篇の中でも印象に残ったのは、次の4篇。
「水泳チーム」:プールすらない町で、洗面器を床を利用して老人たちに水泳を教えたという思い出が救い。
「妹」:岸本佐知子さん編集の変愛小説集2に収録された、忘れ難い一篇。
「何も必要としない何か」:底知れない孤独の中、それでも生を営み続ける少女の姿を描いた、少し長めの篇。
「動き」:娘に残せるものはたった一つのことしかないという人生の貧しさが心を撃つ篇。僅か2頁という小品である故にかえって本短篇集を象徴する篇のように感じます。

共同パティオ/水泳チーム/マジェスティ/階段の男/妹/その人/ロマンスだった/何も必要としない何か/わたしはドアにキスをする/ラム・キエンの男の子/2003年のメイク・ラブ/十の本当のこと/動き/モン・プレジール/あざ/子供にお話を聞かせる方法

   

2.
「あなたを選んでくれるもの」 ★★
 
原題:"It Chooses You"            訳:岸本佐知子


あなたを選んでくれるもの

2011年発表

2015年08月
新潮社刊

(2300円+税)



2015/09/17



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映画の脚本に行き詰まった作者が、ふと思いついて始めた、フリーペーパー「ペニーセイバー」に売買広告を出しているごく普通の人を訪ね歩いて行ったインタビュー集。
売り出されているものはというと、黒革ジャケット、スーツケース、おたまじゃくし、アルバム、古いドライヤー等々。

ごく普通の人々に対して行った地味で日常的なインタビューと思っていた処、その様相は次第に印象を変えていきます。
考えてみればすぐ気づくことですが、普通の人であればいきなり見知らぬ相手から自宅を訪ねてのインタビュー依頼など、応じない筈なのです。
それに応じるというところから、どの人物もごくフツーの人とは言い難い、依頼に応じるのは誰かに自分の存在を認めてほしいという願望が心底にあるからこそ、と思うのです。
カメラマンと一緒に相手を訪ねて行った作者、時としては、普通だったら同席などしたくない相手、早く立ち去りたいという衝動を堪えるようなこともあったと語られています(一方、中には穏やかな人物もいますが)。

ごくフツーの人たちに比べると、どこかズレてしまった人たち。そんな相手に対して優越感をもつことは簡単ですが、しかし、その当人たちは自分のことをどう感じているのでしょう?
変なところなど何処にもない、自分が問題を抱えているなどとは思ってもいないのではあるまいか。
時に不気味ささえ感じてしまう、これらの人たちとの距離感、どう捉えれば良いのやら。
自分の思いもしない世界がこんなにも広がっているなんて・・・と感じるばかり。
最後に作者が出会った老人ジョーとの関わりには、ホッとさせられるところがあります。

                   

3.
「最初の悪い男」 ★★☆
 
原題:"The First Bad Man"            訳:岸本佐知子


最初の悪い男

2015年発表

2018年08月
新潮社刊

(2200円+税)



2018/09/20



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主人公のシェリル・グリックマンは、43歳、独身、という現代社会における寂しい女性の一人。
現実での寂しさを紛らわすかのようにシェリルは、持ったこともない子供や荒々しいセックス等々、妄想を繰り広げながら生きています。
そんなシェリルが、頼まれて上司夫婦の娘=21歳の
クリーを一時的な居候として受け入れた途端、シェリルのそれなりに安定していた世界は散々に破壊されていくばかり・・・。

ヘンテコと言えばヘンテコなストーリィ。
シェリル、何故クリーに対し、嫌だ、出て行けと言えないのか。無理矢理自分を納得させて我慢しているのだろうか。
妄想ばかり繰り広げているから、現実の難局になんら対応できない、ということなのか。
そのクリー、美人、巨乳とはいえ、だらしないうえに傍若無人、そのうえ足がひどく臭いと、もう最低の同居人。
それだけクリーの存在は、生々しい現実と言えます。

妄想は現実に全く対抗し得ず、シェリルはクリーの前にじりじりと後退を余儀なくされるばかりなのですが、そのシェリルとクリーの関係があれよあれよという間に一転二転していく。
そこは面白いというか、呆気にとられるというか、破天荒な可笑しさがあります。
ところが、そんなシェリルとクリーの2人に、予想もしなかった事態が・・・。

ひょんなことから現実世界での喜びを手に入れたシャリルがその一方で覚悟するのは、いつか捨てられ、また孤独になるのではないかということ。
決して愛が足りない訳ではない、ただ不器用なだけ。そんなシェリルが孤独の再来を予想する心情は、切なく、そしてとても愛おしい。

それなのに、あえて勇気をもって一歩を踏み出したシェリルに、精一杯のエールを送りたい気持ちになります。
※エピローグの場面、胸にじ〜んと届いてくるなぁ。

可笑しさと切なさと、愛しさが籠った作品。是非お薦めです。

 
新潮クレスト・ブックス

   


 

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