エリザベス・クレグホーン・ギャスケル作品のページ


Elizabeth Cleghorn Gaskell
 1810〜65 英国の小説家。ロンドンに生まれ、結婚前はエリザベス・スティーブンソン。処女作「メアリー・バートン−マンチェスター物語」(1848)にて注目される。ディケンズ、シャーロット・ブロンテとも交流あり。作品は、上記の他、「荒野の小屋」(1850)、「女だけの町−クランフォード」「ルース」(1853)、「北と南」(1855)、没後出版された「妻と娘」(1866)等。


1.女だけの町

2.ギャスケル短篇集


日本ギャスケル協会 → http://wwwsoc.nii.ac.jp/gaskell/
 


  

1.

●「女だけの町−クランフォード」● ★★
 原題:"CRANFORD" 




1853年発表

1986年8月
岩波文庫刊

第3刷
2000年9月
(660円+税)

  


2002/05/30

 


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原題は「クランフォード」、本作品の舞台となる架空の田舎町の名前です。
この町に住むのは何故か女性ばかり。たまに夫婦が越してきてもいつのまにか男性はいなくなってしまう、というのこの町に関する説明。それなりの年配で、かつ純朴な女性ばかりが集まっているからには、女性特有の狭い交際社会がそこには展開されます。
作者のギャスケル夫人は、幼くして母親を失った為、田舎町の親戚の間で育ったとのこと。のちに牧師と結婚する訳ですが、彼女が知っていた社会はおそらく狭い範囲のものだったでしょう。その点、イギリスを代表する女流作家であるジェイン・オースティンと似たところがあります。しかし、オースティンが恋愛・結婚を題材にして、ストーリィに明快な起伏があるのに対し、本ストーリィは日常的で、ごく平凡なものといった観があります。その為、あまり目立たない作品であろうと思います。しかし、まとまりの良さ、小説としての出来は、オースティンに劣るものではないと思います。
随所随所に、穏やかなユーモアを感じます。作品全体が、まろやかなユーモラスに包まれていると言って過言ではありません。登場する様々な女性たち。どの人物に対しても等距離で、しかも温かい作者のまなざしを感じます。
ストーリィの語り手は、メアリー・スミス。クランフォードの住民ではなく、時折滞在する若い女性らしい。したがって、クランフォードの住民たちを客観的にみる視点が保たれています。
登場人物の中で中心となるのは、ミス・マティという独身の老婦人。正直かつ素直で、心根の可愛らしい女性。クランフォードの雰囲気を代表するような人物と言えます。
特別に面白いといった作品ではありませんが、たまにこうした作品を読むのも、気持ちの良いものです。

  

2.

●「ギャスケル短篇集」● ★★★         編訳:松岡浩治




2000年5月
岩波文庫刊

(700円+税)

 


2004/12/15

 


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女だけの町を読んだ後ギャスケルの他の作品も読んでみたいと思っていたのですが、ちょうどよく在ったのがこの短篇集。
これはもう、読めて良かったと喜んだ一冊です。
何より小説が上手い。この上手さ、私の好きなJ・オースティンに十分匹敵します。

ただ、オースティンの人物描写が軽妙でユーモアたっぷりなのに対し、ギャスケルの方は信仰の篤さという点から人物たちを実直に描いています。そもそも本書に収められている各篇自体、神の教えにしたがうことの大切さを諭すストーリィが多い。この教訓癖、編者の松岡さんによるとギャスケルが牧師の妻だったことを考えれば仕方ないとのことであり、すんなり納得。
だからといって、ギャスケルの作品は決して謹厳過ぎるということはありません。読んでいて充分面白いのです。
人物が良いにしろ悪いにしろ、どの登場人物にも親しみを感じます。明るさ、温かみがそこにあるからと思うのですが、それこそまさに作家の筆力と言うべきなのでしょう。

8篇の中では、冒頭の「ジョン・ミドルトンの心」が最も読み応えあります。敬虔な少女ネリーとの関わり次第で、人生を真っ当に過ごしたか、道を誤ったかの大きな違いが生じたというストーリィは、とてもドラマチック。
感動のあまりつい涙しそうになったのは、「異父兄弟」。母の亡き後邪険に扱われていた異父兄が、皆に愛されている弟を救うため自らを犠牲にするというストーリィ。ありきたりな話にもかかわらず胸熱くなってしまうところが、ギャスケル作品の素晴らしさです。
なお、ギャスケルの作品刊行については、編集者ディケンズの力に寄るところが大きかったとのこと。そんな繋がりがあることを知ったのも楽しい。

ジョン・ミドルトンの心/婆やの話/異父兄弟/墓堀り男が見た英雄/家庭の苦労/ペン・モーファの泉/リジー・リー/終わりよければ

 


 

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