1861年発表
岩波文庫
1998年8月
改版刊
(660円+税)
1977/10/03
1983/11/05
2006/01/10
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職工のサイラス・マーナーは信じていた親友に裏切られ、婚約者も彼に奪われて、神を疑いながら生まれ故郷を後にします。
落ち着いた先のラヴィロウでは隣人との付き合いもせず、ただ一途に仕事に打ち込み、その結果として貯まっていく金貨を毎晩眺めることだけがマーナーの喜びとなっていました。
しかし、ある晩その大事に貯めておいた金貨を根こそぎ盗まれるという事件が起きます。呆然と座り込んだままのマーナーの元によちよち歩いて現れたのは、金貨が姿を変えたような金髪の巻き毛をもつ幼い子供でした。
母親を失ったその女の子エピーを神からの授かりものとし、自分の手で育てることを決心したマーナーの生活は、それまでと一変します。
信仰や人との関わりを捨てていたマーナーが、幼い娘エピーを得ることによって再び人間らしい生活を取り戻していくというストーリィ。
これだけ気持ち良く読め、そして感動に浸れる作品は、そうあるものではありません。余計な装飾や無駄なストーリィを置かず、人間社会のありのままの姿を描いているからでしょう。そうした意味でとても完成度の高い作品。
地主のカス家の人間たち、村の居酒屋に集う村人たち、本書における役割の軽重はあっても、どの登場人物も等距離で現実そのままに描き出した点で見事なものです。それは、主人公であるサイラス・マーナー、一方の重要人物であるゴドフリー・カスにしてもそれは変わりません。
圧巻は、ゴドフリー・カスとナンシー夫妻がエピーを引き取ろうとマーナーの家を訪れた場面。エピーを含めての4者の対峙は、単に綺麗ごとに終わらず、かといって一方を悪玉と作為的に語ることもありません。サイラスとエピーとの間に結ばれた愛情の強さ、いたわりと思いやり、上流階級の人間である故のゴドフリーの身勝手さ、その間に立つナンシーの気遣いと、4人の人物ありのままの姿を映し出したものとして、これ以上の場面はありません。
ひとりの女性作家が、このような小説世界を展開せしめたこと、それも近代小説初期の段階であることに、驚嘆の念を抱かずにはいられません。
気持ちよく感動できる名作、お薦めしたい一冊です。
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