ジョージ・エリオット作品のページ


George Eliot 1819〜80 本名:メアリー・アン・エバンズ。19世紀イギリス文学を代表する作家。
英国ウォリックシャーで不動産業者の娘として生れる。2年間にわたるヨーロッパ旅行から帰国後した51年より「ウェストミンスター・レビュー」誌の書評欄を担当、後に副主筆。その仕事を通じて、ジョン・スチュワート・ミル等思想家と知り合う。その内の一人であるジョージ・ルイスと恋愛関係に陥ったが、ルイスが既婚者で離婚不可だったため、正式な結婚はしなかったものの事実上の結婚生活をルイスの死まで続けた。その後20歳も年下のジョン・クロスと80年に結婚したが、7ヶ月後に死去。
57年処女作「エイモス・バートン師の不幸」を発表。筆名を男性名のジョージ・エリオットとし、何年もの間正体を隠していた。主な作品は「牧師生活の諸相」「アダム・ビート」「フロス河の水車屋」「サイラス・マーナー」「ロモラ」「フェリックス・ホルト」「ミドルマーチ」「ダニエル・デロンダ」。


1.サイラス・マーナー

2.ミドルマーチ

 


 

1.

●「サイラス・マーナー」● ★★★
 原題:"SILAS MARNER"      訳:土井治




1861年発表

岩波文庫
1998年8月
改版刊
(660円+税)

 


1977/10/03
1983/11/05
2006/01/10

 


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職工のサイラス・マーナーは信じていた親友に裏切られ、婚約者も彼に奪われて、神を疑いながら生まれ故郷を後にします。
落ち着いた先のラヴィロウでは隣人との付き合いもせず、ただ一途に仕事に打ち込み、その結果として貯まっていく金貨を毎晩眺めることだけがマーナーの喜びとなっていました。
しかし、ある晩その大事に貯めておいた金貨を根こそぎ盗まれるという事件が起きます。呆然と座り込んだままのマーナーの元によちよち歩いて現れたのは、金貨が姿を変えたような金髪の巻き毛をもつ幼い子供でした。
母親を失ったその女の子エピーを神からの授かりものとし、自分の手で育てることを決心したマーナーの生活は、それまでと一変します。
信仰や人との関わりを捨てていたマーナーが、幼い娘エピーを得ることによって再び人間らしい生活を取り戻していくというストーリィ。

これだけ気持ち良く読め、そして感動に浸れる作品は、そうあるものではありません。余計な装飾や無駄なストーリィを置かず、人間社会のありのままの姿を描いているからでしょう。そうした意味でとても完成度の高い作品。
地主のカス家の人間たち、村の居酒屋に集う村人たち、本書における役割の軽重はあっても、どの登場人物も等距離で現実そのままに描き出した点で見事なものです。それは、主人公であるサイラス・マーナー、一方の重要人物であるゴドフリー・カスにしてもそれは変わりません。 
圧巻は、ゴドフリー・カスとナンシー夫妻がエピーを引き取ろうとマーナーの家を訪れた場面。エピーを含めての4者の対峙は、単に綺麗ごとに終わらず、かといって一方を悪玉と作為的に語ることもありません。サイラスとエピーとの間に結ばれた愛情の強さ、いたわりと思いやり、上流階級の人間である故のゴドフリーの身勝手さ、その間に立つナンシーの気遣いと、4人の人物ありのままの姿を映し出したものとして、これ以上の場面はありません。 
ひとりの女性作家が、このような小説世界を展開せしめたこと、それも近代小説初期の段階であることに、驚嘆の念を抱かずにはいられません。
気持ちよく感動できる名作、お薦めしたい一冊です。

 

2.

●「ミドルマーチ」● ★★

 

1871年発表

講談社版
世界文学全集
全2巻
(絶版の様子)

1998年8〜11月
講談社文芸文庫
全4巻

 


1977/03/27

全体の印象として、ジェイン・オースティンの小説と似たものを感じます。どちらも田園地方における中流階級の生活を題材にしています。
とは言っても、オースティンは中流階級の生活を生き生きと描き、そこにユーモアもいっぱい詰めて人間の欠点をからかったような楽しい小説を書いたのに対し、エリオットは深く人間を探求することを目的としているという印象を受けます。
人間とは如何なるものか、それがこの小説のテーマと言って良いでしょう。したがって、本作品は、一人の主人公に偏って描かれることはなく、ミドルマーチという町に住む様々な人々の生活を、公平かつ深く追求し、現実の生活の断面を様々に描き出しています。登場人物各々の性格の違いなども鮮やかに描き分けられ、感嘆する程です。
しかし、エリオットには、
サマセット・モームが指摘するように、その長所と同時に短所があります。モームはそれを「情熱が欠けている」と評しましたが、表現は大袈裟であるもののその通りであると感じます。
エリオットは作中人物の誰に対しても、温かさ、好意を示すことがありません。それだけ客観的に登場人物を描いていると言えますが、一方において誰一人として魅力的な人物を見出すことが出来ない、という不満もあります。
しかしながら、この作品の素晴らしさは、やはりエリオットが多くの登場人物を見事に客観的に描き分けていることにあると言えます。

 


 

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