クライブ・カッスラー作品のページ


Clive Cussler  1931年、米国イリノイ州生。TV界から作家に転進し、73年「海中密輸ルートを探れ」でデビュー、以後ダーク・ピット・シリーズでベストセラー作家となる。ピットの名車収集癖は、カッスラー自身の趣味。


★ 
これまでの作品について総括

9.古代ローマ船の航跡をたどれ

11.死のサハラを脱出せよ

14.暴虐の奔流を止めろ

15.アトランティスを発見せよ

16.マンハッタンを死守せよ

17.オデッセイの脅威を暴け

18.極東細菌テロを爆砕せよ

 
19.
コロンブスの呪縛を解け

 


   

−これまでの“ダーク・ピット”シリーズについて総括− ★★★

 
 

  

 

最初に読んだのは、1985年3月「氷山を狙え」でした。それから矢継ぎ早に「タイタニックを引き揚げろ」等5冊を読みあげ、一気にダーク・ピット・ シリーズの虜となりました。

その後は「スターバック号を奪回せよ」を経て、「ラドラダの秘宝を探せ」から2年毎の定期的な新刊を待ち望んで読むようになりました。
ダーク・ピットのダイナミックな活躍ぶりやストーリィ展開に驚きつつ読んだという楽しみは、やはり「タイタニックを引き揚げろ」「QD弾頭を回収せよ」「マンハッタン特急を探せ」の初期段階でした。その後の「大統領誘拐の謎を追え」から量的にもパターン化されてきましたが、 「大統領」はそれまでより長くなった分ゆっくり楽しめた、充実していたという印象が強く残っています。

その後の作品では、もはやダーク・ピット、アル・ジョルディーノの超人的活躍は歴然とした事実になっていましたから、どれだけスケールアップした面白さを味わえるか、ということに興味は移っていました。毎回興奮しながら新作に飛びついていた、というのはその頃のことです。
実際、過去のストーリィを探るというプロローグ物語の解明では、とうとう古代ローマ船の航跡を辿れにおいて古代エジプト・アレキサンドリア図書館の蔵書にまで行きついてしまい、この後はどんな歴史上の謎が残されているのかと、思わず心配するほどでした。
その所為か「ドラゴンセンターを破壊せよ」では、ピットの死を最期に暗示して、読者のだれかかった興味をもう一度引き締める、という観がありました。
ピット、ジョルディーノの究極の危機、それを脱出しながら再び酷な闘いに追い詰められるという点では、死のサハラを脱出せよが一番鮮烈でした。また、同作品から、作者のカッスラーが物語中の一箇所に登場するようになったかと思います。「サハラ」での登場は、ピットが偶然に出会う探鉱師でした。

「インカの黄金を追え」では、さすがにもう限界が近づいているなあ、という感じがありました。
そして、「殺戮衝撃波を断て」。この作品は完全に末期症状を示していました。ストーリィの長さの割に中身が薄いこと、ピットが初めて女々しさを見せたこと、最後にそれまでの登場人物が大勢出揃ってピットを慰めるなんて、何という見たくない幕切れかと思いました。芝居における最期のカーテンコールのようなものです。

シリーズももう13作に及びました。ピット、ジョルディーノ、その他NUMA(国立海中海洋機関)の馴染み深いメンバー(ルディ・ガン、ハイアラム・イェーガー、パールマター)たち、いつまでも一緒にいたい仲間です。本当にいつまで会えることができるのやら。

    

9.

●「古代ローマ船の航跡をたどれ」● ★★
 
原題:"TREASURE"


 
1988年11月
新潮文庫刊
上下

1999/01/02

サハラに続いての再読。傑作の後にすぐ読んでいる所為か、ちょっと物足りなさを感じます。
エジプトとメキシコの狂信者による革命騒動とアレキサンドリア図書館の遺物探しを絡めたというスケールの大きいストーリィなのですが、ピット・アルらが直接戦うのはその手先のテロリスト一味にしかすぎない、というのが今一歩の理由。
また、本書におけるピットの相手役リリー・シャープ博士の活躍の場が少なく、マスコット的存在に過ぎない点も理由のひとつ。その代わり、ダークの父ジョージ・ピット上院議員が、国連事務総長のハラ・カミルと並んで主要な登場人物のひとりです。

最初に読んだ時も、少し面白みが落ちてきた気がするとメモしています。再読した今回も同感。でも、終盤のテロリストとの銃撃戦はやはり手に汗握る迫力があります。
なお、ダークのクラシック・カーによるカー・チェイスは、本書から始まったように思います。

 

11.

●「死のサハラを脱出せよ」● ★★★
 
原題:"SAHARA"

   

  
1992年11月
新潮文庫刊
上下

 
1998/12/29

 
amazon.co.jp

本シリーズ中でも群を抜いた面白さ、と思う作品です。今回は再読。
まず、ピット、アルの二人が片時の休みもないまま闘い続けるというストーリィが凄い!
海岸で襲われた国連調査団の
エバ・ロハスを助けるという軽い始まりから、次いで河での船舶間の闘い。そして舞台をサハラ砂漠に移してからは、砂漠からの脱出行、急襲と展開した後、最後の古い砦での攻防はまさに圧巻。

途切れないストーリィ展開、順を追って膨れ上がっていくスケール、日本冒険小説大賞に恥じない作品です。
また、相手役・エバとの情感もさっぱりしていて快い。007シリーズのボンド・ガール同様、ピット相手役の女性によっても作品の風味が変わることを改めて感じます。
そして、歴史に埋もれていた2人の偉人の故国への帰還も、思わず感動を覚える部分。本作品では、単なる歴史の発掘話に終わっていません。
こうして魅力のポイントを書き出してみると、あらゆる部分でベストを充たしている作品であると納得できます。

 ※ 映画化 → 「サハラ−死の砂漠を脱出せよ
 

14.

●「暴虐の奔流を止めろ」● ★★
 
原題:"FLOOD TIDE"

 

 
1998年12月
新潮文庫刊
上下
(各705円)

 

1998/12/03

前作が末期的様相を見せて終わっていたためか、ダーク・ピットの新作を手にとっても、以前のようにワクワクするという気持ちが盛り上がってきませんでした。
でも、そこはそれ、ピットがいつもながらに単独で超人的な活躍を見せ始め、ついでジョルディーノらも登場すれば、いつものピットの世界です。一応、ピット・シリーズ復活と言って良いのでしょさいしょう。

今回は、中国からの不法移民を題材にしつつ、アメリカに謀略を仕掛ける海運王チン・シャンとピットとの対決。
そしてピットの相手役は、移民帰化局捜査官のジュリア・リー
しかし、従来のストーリィと比較すると、敵の正体は最初からはっきりしているため、後はピットとの闘いがどのように行われるかという興味だけ。面白みがかなり制約されてしまっているという気がします。無難にまとめあがった、ダーク・ピット定番ストーリィという印象です。
まあ、14作目まで達してしまっていると、どんなに作者が大掛かりな仕掛けを考えようと、読む方がマンネリ化してしまうのは仕方ないところと思います。
初めてダーク・ピット・シリーズを読む方なら、まだまだ面白いことでしょう。でも、長年の愛読者としてみれば、絶頂期を過ぎてしまったのは疑いない、ちょっと惜しまれるところです。

     

15.

●「アトランティスを発見せよ」● ★★
 
原題:"ATLANTIS FOUND"    訳:中山善之

 

 
2001年11月
新潮文庫刊
上下
(各705円)

 

2001/10/29

本書は“ダーク・ピット”シリーズの第15作目。恒例のプロローグは何と紀元前7120年。シリーズ最古のスタートです。
そんな時代に何が起きたかというと、一個の彗星が地球に衝突、大規模な地殻変動が生じて、地球上の多くの動植物等が死滅し、高度な文明を誇る古代社会も破壊されたという設定。
そこから連想されるのは、当然の如く、謎の大陸アトランティスの伝説です。それが今回の題材。

本シリーズは、常にハラハラドキドキする場面が目白押し、度重なる絶体絶命の危機を、ピット、ジョルディーノらの奇想天外な活躍で切り抜けるという、スリル満点の面白さが魅力です。しかし、本作品ではそんな緊迫感がすっかり抜け落ちたなぁ、というのが印象。長年に渡って本シリーズを読み続けてくると、どんな危機も、過去に同じような場面があったなぁ、ピットらがどうにか切り抜けるのは間違いなし、という安心感が気持ちを覆っています。それに、従来作品と比較して、本書はちょっと大人しい感じがします。その代わり、安定した面白さがあると言えますが、それは冒険小説本来の魅力とは言えないでしょう。
もっとも、上記印象はずっと本シリーズを読み続けてきた故のものであって、初めて本シリーズを読むのであれば、印象は異なることと思います。ダーク・ピットとその仲間たちの活躍、その舞台設定の面白さは、間違いのないものですから。
ストーリィは、紀元前7千年頃にアミーニースという民族が書き残した碑文の発見から始まります。その碑文に書き残された地球の危機、そしてそれを利用して第四帝国を築こうとするヴォルフ一族の野望。それらに対し、南極を中心とした舞台にお馴染みピット、ジョルディーノらNUMAの面々が活躍します。

※なお、冒頭謝辞の中に、G・ハンコックの名前がありました。南極に重要な秘密が隠されているという構想は、彼の「神々の指紋」に書かれていたこと。ですから意外性はあまりなし。

    

16.

●「マンハッタンを死守せよ」●  ★
 
原題:"VALHALLA RISING"    訳:中山善之

  


2002年12月
新潮文庫刊
上下
(705・667円+税)

 

2002/12/07

16作目まで来たか、と思うと感慨深いものがあります。もう20年近く読み続けてきたことになる。その一方、スーパー・ヒーローものとしてはもう限界とも思います。
前半、ピットが鏡を見つめて自分が年取ったことを感じる部分があります。人気スーパー・ヒーローともなると、年をとってもなかなか引退をさせてもらえない。小説中の人物とはいえ、ご苦労様と、同情を禁じ得ません。

ストーリィは経済界の巨魁が、多くの人々を平然と犠牲にして自分の野望を果たそうとするのを、ピット、ジョルディーノの2人が超人的な活躍でそれを阻むという、いつものパターン。
壮大かつ興奮という要素はすべてやり尽くしてしまった観があるだけに、これまでの作品に比べると、ストーリィも敵方もすべて小粒。恒例の過去の物語にしろ、それ程惹かれるものではありません。
なにより、ピットとジョルディーノに野性味が感じられなくなってしまったことが残念。また、ピットがやたらと過去を振り返るようになっている。
それにも拘らず、これまで愛してきた登場人物たちにまた会えることに楽しさがあるのは事実。だからこそ、彼らを最後まで見届けようと、読み続けている訳です。

なお、エピローグのとんでもない展開には絶句。スーパー・ヒーローものとしては噴飯すべきものだと思いますが、う〜ん...

   

17.

●「オデッセイの脅威を暴け」●  ★☆
 
原題:"TROJAN ODYSSEY"    訳:中山善之

  


2006年6月
新潮文庫刊
上下
(各667円+税)

 

2005/06/04

“ダーク・ピット”シリーズ第17作目。
よくぞここまで続いたなぁというのが、すべて。ストーリィ中、ピットとアル・ジョルディーノは何度も体力が落ちた、こんな生死を賭けた体力的にもキツイ活躍はもういい加減やってられないと繰返しますし、サンデッカー提督(NUMA長官)も今後のことを匂わせたりします。
前作からまた一歩、終焉に向かって着実に進んでいる、という巻でもあります。
それでも、ピットとジョルディーノは2人ならではの活躍を相変わらずしますし、本作品での陰謀はこれまでにもない巨大なスケールのものとなっています。
しかし、陰謀のスケールが大き過ぎて実感が伴わないうえに、2人がどんな超人的活躍を示しても2人にとってはもはや日常茶飯事としか思えなくなっている。まぁ、これはもう仕方ないことでしょう。
本巻の陰謀は、中米に巨大なトンネルを掘り、南赤道海流を太平洋に流してしまい、メキシコ湾流の水温を下げてヨーロッパ全体をシベリア北部並みの気候に変えてしまおうというもの。
前巻マンハッタンを死守せよの最後に初めて存在を現したピットの息子ダーク、娘サマーNUMAの一員として登場しますが、相応の活躍をするかと思えばそうでもなく、中途半端な脇役という印象です。
そしてお馴染みの、今回明らかにされる歴史上の新事実は、トロイア戦争後のオデッセウスの航跡。都市国家トロイは英国ケンブリッジにあり、オデッセウスはケルト人だった、等々。

(以下は結末ネタバレ)
本シリーズを長く愛読したけれども、もう最近は読むのを止めたというファンもいることでしょう。読むことは止めても、ピットとジョルディーノの近況には関心がある筈。
ネタバレを承知のうえで敢えて紹介しますと、本巻の最後でピットとジョルディーノは現役引退を宣言。ピットは長年の恋人である下院議員ローレン・スミスに求婚し、2人の結婚式がエピローグとなります。その最中にサンデッカー提督は副大統領候補への転身を告げ、ピットにNUMA長官の後継を託します。
主人公が着実に歳をとり、歴史を刻んでいく、そんな人間味ある部分もまた本シリーズの魅力かもしれません。

※なお、息子ダーク・カッスラーとの共著となる本シリーズの最新作“Black Wind”が2004年米国で発表されており、まだまだ本シリーズは終わらないようです。

   

18.

●「極東細菌テロを爆砕せよ」●  ☆
 
原題:"BLACK WIND"(子息ダーク・カッスラー共著)    訳:中山善之

  


2006年12月
新潮文庫刊
上下
(各667円+税)

 

2006/12/31

 

amazon.co.jp

“ダーク・ピット”シリーズ第18作目。
太平洋戦争末期、日本が米国本土を直接攻撃しようと潜水艦で運んだ細菌兵器。作戦実行する前に米軍艦船に沈没させられたその船体から細菌兵器を回収し、より強力な細菌爆弾を作り上げミサイルで米国を攻撃、米国内が恐慌に陥っている隙に韓国に武力侵攻しようと計画を巡らしているのが北朝鮮、というストーリィ。
その凶悪な計画の指揮者は、元々北朝鮮の工作員で現在は韓国内で成功した企業帝国を率いるカン・テジョン
北朝鮮が悪役になったのは時節柄当然かもしれませんが、そこまで認知されたのか、という気がしないでもない。

肝腎のそのストーリィ、率直に言って面白くないのです。
正確に言うならば、“ダーク・ピット”ファンには面白くない、ということ。
ダーク・ピットとアル・ジョルディーノの名コンビは前作で前線を引退し、ピットはNUMA長官に納まりましたので、本書では息子のダーク・ジュニア&娘のサマー、ピット&ジョルディーノと、主人公を分担しているような按配になっています。そこにつまらないくなった原因があるのですが、具体的に列記すると次のとおり。
・ピット&ジョルディーノは元々空軍将校でしたし、歴戦の強者で超人的な活躍を納得させるだけのタフさを身につけていましたが、それをダーク(ジュニア)サマーに求めても無理というもの。貫禄不足でまるで手応えが感じられない。そもそも女性のサマーに荒っぽい活躍は無理というもの。
・冒頭のカー・チェースは本シリーズらしい見せ場ですが、以前の巻に登場した場面の焼き直しに過ぎない。
・ダークに協力する同僚としてジャック・ダールグレンが登場しますが、ジョルディーノのような無二の相棒には至らない。2人の冗談は、ピット&ジョルディーノを真似しているだけのような虚勢を感じます。
・結局最後の起死回生の一手はダーク・ピットに委ねられるのですが、逆にそれは彼の活躍場面はそこだけに狭まれてしまったということで、それ故つまらないのです。
・要は、ハードな活躍をみせる主人公が分散してしまっていること、誰もピット&ジョルディーノのようなハラハラドキドキ、かつ興奮させる活躍を演じることなどできないのです。

もうこの辺りで本シリーズの読書も止める潮時かな、と思った次第。

            

19.

●「コロンブスの呪縛を解け」● 
 
原題:"SERPENT"




2000年6月
新潮文庫刊
上下
(667・629円)

 

2000/06/12

これまでの“ダーク・ピット”シリーズとは別に、“NUMAファイル”と名づけられた新シリーズの第一作。
ポール・ケンプレコスというミステリ作家を共同執筆者とすることによって、ミステリ要素が新たに織り込まれている、という説明です。

しかしなぁ、というのが正直なところ。
一度、
ダーク・ピットジョル・アルディーノという名コンビの破天荒な (超人的な)活躍ぶりを知ってしまった身には、所詮それ以外のストーリィは物足りないと言わざるを得ません。
本シリーズの主人公は、やはり
NUMAの特別出動班班長カート・オースチン。そして、その相棒はホセ・ジョー・ザバーラ。同じ2人組となれば、どうしたって前2者と比べざるを得ないのです。
ホームズとワトソンの従弟コンビの活躍を読みたいかと問われれば、それよりホームズとワトソンを読みたいと答えるのは、当然のことでしょう。
本シリーズ・2人の活躍ぶりは、如何せんピットに比べれば大人しいものとならざるを得ず、その分NUMAグループ総出での活躍というパターンになっています。いつもの
ハイアラム・イェーガー、パールマターが登場する他に、特別出動班の女性海洋生物学者ガメー・トラウトが、主役2人に劣らない活躍をしています。
本作品のストーリィは、
コロンブスの新大陸発見以前に、既にフェニキア人によってヨーロッパとアメリカ大陸の間に交流があったことを示す遺跡発見と、コロンブスの謎を追うというもの。
冒険小説における読み応えという点では、かなり物足りず。

   


 

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