フランク・コットレル・ボイス作品のページ


Frank Cottrell Boycel 英国リヴァプール生、脚本家。「ミリオンズ」は初めての小説。また、ボイス自身が脚本を書いた映画「ミリオンズ」も完成済。

 


 

●「ミリオンズ」●  ★★
 原題:"Millions"     訳:池田真紀子




2004年発表

2005年3月
新潮社刊
(1600円+税)

 

2005/05/04

元々は子供向けの物語。実際に読んでもそう感じます。でも、大人が読んでもそれなりに楽しめる、サスペンスとユーモア溢れるストーリィ。

主人公となるのはダミアンという5年生。母親が病死して、今は6年生の兄アンソニーと父親との3人暮らし。
このダミアン、自分はフツーの少年と信じているものの、相当に変わった少年です。なにしろ、キリスト教の聖人については百科事典並みに詳しいばかりか、シャツの下にひいらぎを入れたりして苦行に励んでいるという風。現実離れし過ぎていて、ちょっとついていけない、という気もするのです。
そのダミアンが列車の通り過ぎるのを見送ったとき、空からかばんが降ってきます。そのかばんの中にはポンド紙幣がぎっしり、何と約23万ポンドも入っていた! しかし、神様の贈り物だと喜んではいられません、ユーロへ切替できるのはあと17日。それを過ぎると、折角の紙幣もただの紙切れになってしまうのです。

さあ、それから2人はどうやって金を使うのか? たちまち学校の生徒間ではインフレが進行する。一方、家や車を買おうとしても、子供故に2人は相手にしてもらえません。
しかも、貧乏人に寄付したがるダミアンに対し、アンソニーはすこぶる現実主義者で投資を目論見ます。対照的な2人の兄弟のやり取りも楽しい。
子供たち以上に、一旦金を手にするや清貧な筈のモルモン教徒までが最新の電化製品を買い込んだりと、すっかり豹変してしまう大人たちの様子がユーモラス。
しかし、金が何もない処から現れる訳がありませんし、こんなことがいつまでも続く訳がない、というところがスリリング。
もっとも私が一番面白く感じたのは、夢か幻か、ダミアンが幾度も古の聖人たちに出会い、彼らの打ち明け話を聞くところ。中でも聖ペトロが語る、イエス・キリストが僅かな魚とパンで五千人の人々の空腹を満たした奇跡の真相話が傑作。

ユーロ切替を題材にした、斬新な子供たちによる経済冒険譚。
興奮とまではいきませんが、いろいろな小技が楽しい作品です。

※映画化 → ミリオンズ

    


 

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