カルミネ・アバーテ作品のページ


Carmine Abate 1954年イタリア南部カラブリア州の小村カルフィッツィ生。少数言語アルバレシュ語の話される環境で育ち、イタリア語は小学校で学ぶ。バーリ大学で教員免許取得、ドイツのハンブルクでイタリア語教師となり、84年ドイツ語で初の短篇集を発表。その後イタリア語で執筆した91年「サークルダンス」にて本格的に小説家としてデビュー。2012年「風の丘」にて第50回カンピエッロ賞を受賞。現在イタリア北部トレント県で教鞭を執りながら執筆活動を継続。


1.風の丘

2.ふたつの海のあいだで

3.海と山のオムレツ

 


                

1.

「風の丘」 ★★★                カンピエッロ賞
 原題:
"La Collina del Vento"  
 訳:関口英子


風の丘画像

2012年発表

2015年01月
新潮社刊

(2100円+税)



2015/02/27



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イタリア半島最南端、海を望み、赤い花の咲き乱れるロッサルコの丘を守って暮らし続けたアルクーリ家の人々を、四世代に亘って描いた物語。

本書の語り手である「
」は四世代の一番最後であり、曽祖父アルベルト祖父アルトゥーロ父ミケランジェロとアルクーリ家の祖父たちが辿った道のりを順々に語り出していきます。
アルクーリ家の人は、男性たちだけではありません。アルベルトの妻
ソフィア、アルトゥーロの妻リーナ、ミケランジェロの妻マリーザ、そしてミケランジェロの妹ニーナベッラ
そしてロッサルコの丘の下に
古代都市クリミサの遺跡が眠っていると信じて疑わない考古学者のパオロ・オルシもアルクーリ家に親しむ一人です。

悪どい地主の冷酷な仕打ち、ファシスト主義者の暴力、そして犯罪まがいの手口で脅す観光開発業者等々、父祖から引き継いだロッサルコの丘をただ守ろうとする一家に様々な困難が降りかかります。
それでもアルクーリ家の人々は厳然と結束して少しも揺るぐことがありません。この一族にとっては土地を守ること=家族を守ること、家族の一人一人を愛することに他ならない、まさにそう言った印象です。
一途に土地と家族を守り、誇りを棄てることなく生き続けてきた家族の物語。その姿は愛おしく、そして永遠性を体現しているかのようです。
家族代々の物語というと、アリステア・マクラウド作品を連想しますが、マクラウド作品が峻厳なイメージを纏っているのに対して、本作品は軽やさが印象的です。
本書題名のとおり、丘を吹き渡っていく風の爽やかさを感じる気分です。是非お薦め。

約束/香り/似た者どうし/風/確証/夢/赤/発掘/真実/エピローグ

          

2.

「ふたつの海のあいだで ★★★
 原題:"Tra Due Mari"         訳:関口英子


ふたつの海のあいだで

2002年発表

2017年02月
新潮社刊

(1900円+税)



2017/03/27



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初めて読んだ風の丘が素晴らしかった、アバーテの2冊目。
しかし、刊行順としては本作の方がずっと前で、長編3作目に当たるとのこと。

本作の主要舞台はイタリア南部の
カラブリア地方、ちょうど長靴のつま先に当たる部分です。
その
ロッカルバで、イオニア海ティレニア海の両方を望む丘の上にかつて建っていた宿屋<いちじくの館>
本ストーリィは、焼失したその館の再建をずっと生涯の目的としてきた
ジョルジュ・ベッルーシと、その孫のフロリアンを中心として語られていきます。
主人公となるのはフロリアンで、ハンブルクに暮らす少年。母親はジョルジュの娘
ロザンナで、父親はかつて若い頃にジョルジュと一緒に南イタリアを旅して回ったことのある写真家=ハンス・ホイマンの息子クラウス

ストーリィはフロリアンが母親に請われてロッカルバへ向かうところから始まり、その後4つの「旅」を以て構成されています。
祖父ジョルジュが若かりし時に経験した旅の話、フロリアンがロッカルバにやって来ての話、去る事情から刑務所に7年半収監されていたジョルジュが故郷に戻ってきて館の再建を始める話、再建が叶った後再び旅に出たジョルジュの話。
4つ章に分けられているものの、実際にはそれ以上の数の物語が本書一冊の中に盛り込まれています。
ジョルジュ・ベッルーシの数奇な人生、ジョルジュとハンス・ホイマンの稀な友情、父クラウスと母ロザンナのロマンス、そしてフロリアンと
マルティーナの若々しい恋模様に、ついに祖父ジョルジュと孫フロリアンが気持ちを通じ合わせるまで、そしてその後のフロリアンの奮闘、等々。
登場するジョルジュとフロリアンの一家、その一人一人が魅力的と言って過言ではありません。

熱い心をもったジョルジュ・ベッルーシという人物がとにかく魅力に富んでいるのですが、それ以上に魅力的なのは本ストーリィ全体を通じて感じる、ロッカルバという土地の空気、風です。
フロリアンの住まいであるハンブルクと、母の故郷であるロッカルバという土地の対比があるからこそ強く感じられること。
鮮烈な叙情に溢れた本書、「風の丘」に通じるものがあります。
お薦め!


旅立ち/第一の旅/第二の旅/第三の旅/第四の旅/《いちじくの館》での滞在

             

3.

「海と山のオムレツ ★★★
 原題:"Il banchetto di nozze e altri sapori"     訳:関口英子


海と山のオムレツ

2016年発表

2020年10月
新潮社

(1900円+税)



2020/11/25



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アルバニア系イタリア人である作者=アバーテの自伝的連作ストーリィ。
祖母の創作料理である“海と山のオムレツ”をパンで挟んで弁当とし、祖母に連れられて主人公が先祖アルバレッシュ人が最初に流れ着いたアリーチェ岬の砂浜へ出掛けた印象的なシーンから、本連作ストーリィは始まります。

故郷での成長期には、常に伝統的な郷土料理が身近に有り、家族団らんや隣人たちと一緒に美味を楽しむという、日々の喜びと人々との繋がりが感じられます。
やがて主人公は故郷を離れ教員養成高校へ、さらに大学へ。そしてドイツでイタリア語教員となる。
その頃には、出稼ぎでドイツで働く父親を追って家族もハンブルク暮らしとなっています。
中でも主人公は、イタリア~ドイツ国内を転々とし、さながら一人で放浪を続けているかのようです。

放浪というと何やら、居場所を失ったもの悲しさがあるようにも感じられますが、主人公にそうした気配は感じられません。
その傍らには常に美味しい料理が有り、それらを美味しいと味わえるなら人は大丈夫だ、と感じられるストーリィだからです。
決して贅沢な豪華料理ということではありません。庶民的で故郷の味、家族や土地と繋がっている料理・・・だからこそ、本ストーリィは明るさに満ちています。

邦題は冒頭篇の題名ですが、原題の
「婚礼の宴と、そのほかの味覚」の方が本ストーリィの内容をよく表していると思います。
少年の時出席した婚礼の宴で、アルバレッシュ料理作りを差配していた
“アルベリアのシェフ”の存在が見逃せません。
料理人ではなく本業は農家なのですが、郷土料理を皆に伝えている人物。主人公はこの“シェフ”と3度に亘り出会うのですが、このシェフが語る言葉が凄く良い!
まさに人生を明るくする、魔法の香辛料のような名言です。

難しく考えることは全くありません。次々と登場する(読むだけでも)美味しそうな料理の数々を追いかけているだけで、自然と主人公の人生行を共にしている、という風です。

これだけ読んでいて楽しく、明るい気分になれる小説は滅多にありません。 是非お薦め!

~アリーチェ岬での前菜 ANTIPASTO A PUNTA ALICE
海と山のオムレツ
~第一の皿と、その他の味覚 PRIMI E ALTRI SAPORI
アルベリアのシェフと婚礼の宴/不思議な香りのじゃが芋/クリスマスの十三品のご馳走/喜びの味/巨大なスイカ/一緒に食べていったら?/アンナ・カレーニナを知った夏
~第二の皿と、そのほかの味覚 SECONDI E ALTRI SAPORI
アルベリアのシェフと、美食の館/カネデルリ/ポレンタとンドゥイヤ/水の奇蹟/ルカのオリーヴの家/大蒜とオイルと自尊心と/アルベリアのシェフと秘密のレシピ
~アリーチェ岬でのデザート DESSERT A PUNTA ALICE
クツッパと茜に染まった卵
注記と献辞と乾杯と

  



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