|
|
1.灰色の輝ける贈り物 Island 2.冬の犬 Island 3.彼方なる歌に耳を澄ませよ No Great Mischief |
●「灰色の輝ける贈り物」● ★★☆ |
|
|
作者の全短編集「Island」の前半8篇を収録した短編集。
作者の育ったケープ・ブレトン島を舞台に、そこで暮らす炭鉱夫や漁師ら、そしてその家族を主に描いた短編集。 その象徴とも言えるのが、表題作「灰色の輝ける贈り物」です。無学な両親ですけれど、子どもに対する深い愛情、敬虔な生き方を全うしようとする姿勢には、深い感銘を覚えざるを得ません。教養や富裕であることが人生や人間の価値ではないのだということを、切実に感じさせられる一篇です。 本書に収録されているいずれの作品にも、必ずしも恵まれているとはいえない人生に真っ正面から向かい合って地道に生きてきた人たちの姿が、オーソドックスに描かれています。 船(1968)/広大な闇(1971)/灰色の輝ける贈り物(1971)/帰郷(1971)/秋に(1973)/失われた血の塩の贈り物(1974)/ランキンズ岬への道(1976)/夏の終わり(1976) |
●「冬の犬」● ★★★ |
|
|
作者の全短編集「Island」の後半8篇を収録した短編集。
「灰色の輝ける贈り物」にまして、本書に描かれる素朴な人々の姿にしみじみとした感動を覚えます。 とくに本書では、スコットランドのハイランド出身という流れ、ゲール語を使う人々の存在が特徴的です。「完璧なる調和」「幻想」「クリアランス」がその代表的な3篇ですが、代々にわたって受け継がれてきた、人が生きるという営みの歴史に触れる思いがします。 8篇の中で忘れ難い作品のひとつは、表題作「冬の犬」。 もうひとつは、短篇集本来の表題作である「島」。 稀有な、珠玉といえる作品集。本書を読めたことを幸せに思います。 すべてのものに季節がある(1977)/二度目の春(1980)/冬の犬(1981)/完璧なる調和(1984)/鳥が太陽を運んでくるように(1985)/幻影(1986)/島(1988)/クリアランス(1999) |
●「彼方なる歌に耳を澄ませよ」● ★★★ |
|
|
18世紀末、スコットランドからカナダ東端の島、ケープ・ブレトンへ渡った一家がいた。 誇り高いハイランダー(スコットランド高地人)の気質を備えたキャラム・ルーア55歳と妻、12人の子供たち。 故郷を捨て、途中で妻を亡くして辿り着いた新しい土地で、キャラム・ルーアは根を張って生きていく。 本書は、そのキャラム・ルーアを筆頭に、“クロウン・キャラム・ルーア(赤毛のキャラムの子供たち)”と呼ばれる彼の子孫たち一族の歴史を描き出した長篇作品です。
本書の語り手は、オンタリオで歯科医を開業している「私」ことアレグザンダー・マクドナルド。 キャラム・ルーア一家がスコットランドから船に乗って漕ぎ出したとき、置いていかれようとした一家の犬が海に飛び込んで彼等を目指して懸命に泳ぎ続けます。 両親を早く亡くした私と双子の妹を育ててくれた、父方の無骨なおじいちゃんとおばあちゃん、生真面目だが敬愛を集めていた母方のおじいさん、キャラムを初めとする野性的な兄たち。 本書は13年かかって書きあがられた作品とのことですが、崇高にして親しみ深く、作者マクラウドその人を象徴するような作品と感じられます。是非お薦めしたい名品です。 ※なお、スコットランド、ハイランダーの歴史を知らないともうひとつ理解できないところがあるのですが、その点は訳者の中野さんが「あとがき」で説明してくれていますので、心配はいりません。その意味で、最初に「あとがき」を読んでおいた方が読みやすいと思います。 原題は「たいした損失ではない」という意味で、かつてハイランダーたちを指して言われた言葉とのこと。ハイランダーたちの孤高さが偲ばれる題名です。 |