旧3部作で銀河を統治する銀河帝国の最高権力者は、言うまでもなく皇帝です。一方、「ファントム・メナス」の舞台となるのは帝政が確立する以前の旧共和国時代で、もちろん皇帝の位は存在せず、全権を掌握する独裁者はいません。この時代には銀河元老院が(既に麻痺していましたが)政治的決定機関として機能し、その代表として議会を取り仕切る最高議長(Supreme Chancellor)が、銀河の最高権威とみなされていました。最高議長はあくまでも、法の上では議会の進行を司るいわば司会役に過ぎず、決して皇帝のような権力や特権を付与されているわけではありません。しかし現実には、議会を自分の思う方向に導くことも可能なわけで、事実上は最高権力者と見ても間違いではないでしょう。
ヴァローラムは正義と真実を求める真の政治家として、広大なる銀河共和国の諸問題に取り組んできました。代々、有力な政治家を輩出してきた家系の誇りをもって、自ら持てる力をすべて銀河市民のために注いできました。しかし「ファントム・メナス」の時点では、パルパティーンの策略によっていわれのない汚職疑惑がかけられており、すでにヴァローラムは権威を失いかけています。毎日容赦なく浴びせられる非難や中傷に耐え、おそらくは査問会での弁明も余技なくされていたことでしょう。このような状況で膨大な公務も果たさねばならないのですから、心身ともに疲れ切っていたことでしょう。それを裏付けるように、侵略の事実を訴えるためにコルサントに落ち延びたアミダラ女王を迎えた時のヴァローラムは、なんとも虚ろな目をした抜け殻のような状態でした。それでも自分の職務を投げ出すことなく事態を重く見て、女王のために緊急の特別議会を召集します。しかし、議会はいまや複雑な手続きにがんじがらめになっており、ただでさえスムーズな進行が難しくなっている上に、パルパティーンの画策によって各方面から横槍が入り、議事進行はままなりません。すべては邪悪なパルパティーンの差し金なのですが、そんなこととは微塵も気付かぬヴァローラムは、良き理解者にして協力者のパルパティーンを銀河の平和と共和国の安泰を憂い、議会の堕落を嘆く高潔の士と思って疑いません。遂にアミダラ女王から不信任案が提起された時には、ヴァローラムはまるで覚悟していたかのように力なくへたり込んでしまうだけですが、脚本ではパルパティーンに向かって恨みの一言をぶつけています。
- VALORUM: Palpatine, I thought you were my ally... my friend. You have betrayed me! How could you do this?
ヴァローラム「パルパティーン、君は私の味方……友だと思っていた。私を裏切ったな! どうしてこんなことをする?」
−−−「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス:スクリーンプレイ」
かくして、銀河最高の経歴をまっとうすることなく、ヴァローラムは失脚し、歴史の闇へと葬り去られてしまうのでした。(おそらくエピソード2以降にはもう出てこないでしょう。)
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- Valorum was a tall, silver-haired man of indeterminate age, neither young nor old in appearance, but something of each, his bearing and voice strong, but his face and startling blue eyes tired and worried.
−−−「STAR WARS: EPISODE I: THE PHANTOM MENACE (小説版)」- ヴァローラムは背が高く銀色の髪をした、若いようにも歳を取っているようにも見える男だった。物腰と声は力強いが、彼の顔と真っ青な目には疲労と心労の色が濃い。
−−−「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス(小説版)」- A lifetime of preparation led to Finis Valorum's election as Supreme Chancellor of the Galactic Senate. Valorum inherited the legacy of a family whose greatest members had each represented more than 1,000 worlds. Centuries ago, a Valorum served as Supreme Chancellor. Finis Valorum has now equalled this achievement, ruling the entire Republic from the galactic seat on Coruscant. However, he has also inherited a government grown weak from its own success: the galactic representative have become distanced from their people and now the entire system is degenerating.
−−−「STAR WARS EPISODE I THE VISUAL DICTIONARY」- 幼少のころからしかるべき教育を受けてきたフィニス・ヴァローラムは、予想通り銀河元老院の議長に選出された。ヴァローラム家は、昔から元老院議員を輩出する名門の家柄で、1000以上の惑星の代表をつとめる有力議員が何人も出ている。そして数世紀前からは、元老院議長を代々つとめるようになった。フィニス・ヴァローラムは、首都コルサントから共和国の統治にあたり、歴代の議長に負けない業績をあげてきた。しかし、繁栄のつけともいえる統治機構の弱体化をくいとめることはできなかった。議員たちは市民から遠い存在となり、元老院システムは堕落の一途をたどった。
−−−「スター・ウォーズ エピソード1 キャラクター&クリーチャー」- Increasingly, Supreme Chancellor Valorum has been influenced by senators such as Palpatine to compromise what he knows is right for the sake of approved procedure.
−−−「STAR WARS EPISODE I THE VISUAL DICTIONARY」- パルパティーンはじめ一部議員の発言に影響されたヴァローラム議長は、しだいに信念をまげて、妥協を重ねるようになる。
−−−「スター・ウォーズ エピソード1 キャラクター&クリーチャー」- The well-meaning politician who served as the head of the Galactic Senate until he was removed from office by a Vote of No Confidence. Descended from a line of Galactic Senators, Valorum had seemingly achieved the pinnacle of political success when he was elected Supreme Chancellor. However, the Senate was corrupt and ineffective when Valorum took office. Bound by procedure and hounded by baseless accusations, Valorum's power proved inefective against the greedy Trade Federation's insidious machinations.(良い意味での政治家として銀河元老院の首席を務めてきたが、不信任投票によって職務から退けられた。代々銀河元老院議員の家系で、ヴァローラムが政治的成功の頂点を究めるのは、最高議長に選出された時である。しかし、ヴァローラムが職務に就いた時には、元老院は腐敗し効力を失っていた。手続きに縛られ、事実無根の告発に追及され、ヴァローラムの権力は貪欲な通商連合の見えざる陰謀に対して無力であることがわかった。)
−−−「STAR WARS: EPISODE I: INSIDER'S GUIDE」(アンティリーズ訳)- Troubled Leader: Head of the government, Chancellor Valorum strives for good, yet is endlessly hampered by unfounded accusations and baseless scandals.(苦しむ指導者:政府の長であるヴァローラム議長は正義のために努力しているが、根拠のない告発や汚職容疑が跡を断たず、悩まされている。)
−−−「THE ULTIMATE STAR WARS: EPISODE I: STICKER BOOK」(アンティリーズ訳)
ヴァローラム最高議長を演ずるテレンス・スタンプは、日本ではあまり有名ではないようですが、割とコンスタントにスクリーンに顔を覗かせているベテラン俳優でもあります。眼光鋭く知的だが冷酷な印象があり、大抵は殺し屋やテロリスト、あるいは犯罪組織の大物など極悪人の役が多いのも特徴です。また、SF作品にも関係の深い人で、「スーパーマン2」のゾッド将軍や、「エイリアン・ネイション」のウィリアム・ハーコート(マフィアのボス)などで知られています。このテレンス・スタンプが「ファントム・メナス」で旧共和国の議長役として出演すると聞いた時には、どんな重要な活躍をしてくれるのだろうかと大いに期待したものです。それまで悪役として知られてきた人が、今回は善良で高潔な旧共和国の最高権威者を演ずるのですから、とても意外なことです。ちょっと話がそれて恐縮ですが、スタートレックの映画版第6作目「未知の世界」では、惑星連邦大統領をカートウッド・スミスが演じました。カートウッド・スミスは「ロボコップ」でとんでもない極悪非道の人非人クラレンス・ボディッカーを演じた人で、この人が銀河系全種族(*1)の理性の象徴とでもいうべき連邦大統領の役を品良く知的に演じ切ったのですから、その印象は新鮮で強烈でした。今回「ファントム・メナス」でもこれと同じことが期待されていた、というか少なくとも私は期待していましたが、蓋を開けてみればなんとも不甲斐ない役に終わってしまったのは周知の通りです。最高議長は、パルパティーンの策略により登場時点ですでに権威を失っており、不信任案の提起というとどめの一発を食らって、最後にはだらしなく椅子にへたり込んでしまいます。テレンス・スタンプ自身もインタビューなどでは、自分の出番に不満を抱いているともらしてします。
(*1)全銀河ではなく「アルファ領域」のみだという下らない揚げ足取りはせず、ここではあくまでも修辞的文彩として受け取ってください。
確かに出番自体も少ないし、そのただでさえ少ない出番で失脚してしまうのですから、不満も無理ありません。しかし、ここでヴァローラムという役自体をその背景までをも含めて改めて眺め直してみると、実はなかなか重要な人物であるということがわかります。冒頭の解説文中でさらりと書かれていますが、通商連合の違法な封鎖に困窮するナブーへクワイ=ガン・ジン、オビ=ワン・ケノービの2名のジェダイ特使を派遣したのは他でもないヴァローラムその人です。
- While the Congress of the Republic endlessly debates this alarming chain of events, the Supreme Chancellor has secretly dispatched two Jedi Knights, the guardians of peace and justice in the galaxy, to settle the conflict. . . .(共和国議会が次々に起こる緊急事態をはてしなく討議し続けているなか、最高議長は紛争調停のために、密かに銀河の平和と正義の守護者・ジェダイ騎士の2人を派遣した....)
−−−「スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス」冒頭より(アンティリーズ訳)
地域紛争の解決のためにジェダイを派遣するのは銀河元老院の権限で行なわれます。厳密に資料などに明記されているわけではありませんが、おそらくジェダイ騎士団自身の判断で遠征することは、あまりないのではないかと思います。あくまでも執政機関である元老院の指示に従うことに徹して、自ら権力を行使するようなことはないでしょう。今回のナブー封鎖問題では、ジェダイの派遣を決定し騎士団に指示を出すべき元老院は、パルパティーンの裏工作によって延々と無駄な議論を繰り返すだけでした。そこへきて、ヴァローラムは密かに個人的に騎士団にジェダイ派遣を要請したのです。最高議長の権限がどこまでなのかはよく分かりませんが、これはおそらくは自らの権限を越えた行為であり、これが発覚すれば議会から弾劾され、自らの地位も危うくなったことでしょう(実際にはその必要もなく失脚しましたが)。ヴァローラムは自分の地位を犠牲にする覚悟で、銀河の平和を憂慮して行動を起こすだけの勇気ある人物だったのです。ナブーの一件にジェダイが絡んだお陰で、その裏に忍び寄るシスの存在が明らかになりました。結局は、どさくさに紛れてパルパティーンは皇帝の座へと着実に近づいてしまいましたが、シスの存在に気付かぬままそうなってしまうよりは、幾分ましでしょう。そしてそれ以上に重要な出来事に、フォースの強い奴隷少年アナキン・スカイウォーカーが発掘されたことがあります。アナキンが奴隷のまま終わっていればダース・ベイダーも登場することはなかったでしょう。これが良いことなのか悪いことなのかは何とも判断がつきません。歴史とはかつてそこにあり、今もそこにあり、これからもそこにあり続けるものであって、それ以上でも以下でもありません。「ファントム・メナス」から「ジェダイの復讐」までつづく遠大なる歴史の流れを考えると、このヴァローラムの英断も歴史を動かす小さな歯車の1つに過ぎませんが、この歯車は歴史という巨大な装置を動かすためには非常に重要な部品であったと言えるのではないでしょうか。ヴァローラムの行為もフォースの意志によるものだったのでしょうか。
...ブルースクリーンの前での撮影風景
(ブルースクリーン撮影なのに、ローブの目の覚めるような鮮やかな青色が再現できたのは、やはりコンピュータのお陰なのでしょうか?)
ヴァローラムがジェダイ騎士団に個人的に出動要請を行なった理由については、各資料によっても違いがあります。未邦訳のオリジナル・ジュニア小説「STAR WARS EPISODE I JOURNAL: Queen Amidala」では、重い腰をなかなか上げようとしない議長に対して、アミダラ女王が再三再四に渡って催促をしてやっとジェダイを送ってもらったとなっています。しかし、これにはちょっと納得しかねる気もします。そもそもオリジナル小説なので、正規の資料として見るには無理があるでしょう。これよりももっと信頼のおける、というか正真正銘の正規の資料として、ルーカスフィルム公式サイト(www.starwars.com)があります。このサイトのジェダイ評議員アディ・ガリアの解説文中に、この件に関する記述があり、やはりこれを真実とするべきでしょう。ここでは、アディ・ガリアが政府筋のコネを通じて、通商連合がナブー封鎖を行なっている事実を知り、これをヴァローラム最高議長に通報し、その結果として議長はジェダイの派遣を要請したことになっています。もちろん、劇中にはそのような言及はありませんが、おそらく議会が牛歩の如く堂々巡りを行なっている最中に、非公式に封鎖の事実確認を行なった議長が、やはり非公式にジェダイ派遣を決意したといったところでしょう。
- Just a few days ago, I contacted Valorum, Supreme Chancellor of the Senate. I told him that I am holding him personally responsible for the suffering of my people. Every day he delays he takes bread out of the mouths of the starving children of Naboo.
I must say, Valorum turned pale. I could tell from his hologram that I'd shocked him. Fine with me. I'd meant to.
( つい先日、ヴァローラム元老院最高議長に接触して、こう伝えた。わが人民の受難について、あなたには個人的に責任があると考えている。あなたが毎日解決を延ばすたびに、ナブーの飢えた子供たちの口からパンを奪っているのだ、と。
まさにヴァローラムの顔は青ざめた。ホログラムからは、彼がショックを受けていたのがわかった。私にとっては好都合だったわ。そのつもりでそう言ったのだから。)
−−−「STAR WARS EPISODE I JOURNAL: Queen Amidala」(アンティリーズ訳)- Gallia possesses a deep understanding of the Republic's complex political system, and has carefully developed a network of contacts and informants throughout the government, making her one of the Supreme Chancellor's most valuable intelligence sources. Through her contacts, Gallia gained knowledge of the Trade Federation's plans to invade Naboo. She promptly warned Supreme Chancellor Valorum, who in turn asked the Jedi Council to send ambassadors to deal with the situation.(ガリアは共和国の複雑な政治制度を深く理解しており、政府のいたるところにコネや情報提供者のネットワークを慎重に張り巡らして、最高議長にとって最も重要な情報源の1人となった。このコネを通じて、ガリアは通商連合のナブー侵略計画の情報を得た。ガリアは直ちにヴァローラム最高議長に通報し、次に議長はジェダイ評議会に、特使を送って事態に対処するように要請した。)
−−−ルーカスフィルム公式サイト(アンティリーズ訳)
この退陣を余儀なくされた最高議長のフルネームはフィニス・ヴァローラム(Finis Valorum)と言います。finis はあまり馴染みはありませんがれっきとした英単語で、[ファイニス]と読み、finish「終わり」と同根の語です。上品でちょっと浮世離れしたような響きのある名前ですが、その意味を考えると、旧共和国最後の最高議長(厳密にはパルパティーンが最後)にはいかにもふさわしい名前です。一方、姓のヴァローラムの方は、実はルーカスがスター・ウォーズ1作目のために書いた脚本の初期稿に登場する名前です。この初期稿では、シスの黒騎士ヴァローラム王子(Prince Valorum, the black knight of Sith)として登場します。このヴァローラムは、おそらく valor「勇気、勇猛」という語に、-um という語尾を付けて名前にしたものでしょう。英語はラテン語から、この -um という語尾を(ちょっと中途半端に)受け継いでおり、よく単語の後ろにこれを付加して、名前っぽくすることがあります。「勇気」とは、表面的には名前負けしているように見えますが、上述の通りジェダイ派遣を決断したという点では、やはり相応でしょうか。
アナキンやオビ=ワンなどの主要人物のフィギュアの顔が不細工なのに対して、このヴァローラムをはじめ、パルパティーン、リック・オリー、シオ・ビブルなどのオジサン・キャラたちのフィギュアの出来の良いことといったら、美術品の域に手が届きそうなくらいです。このヴァローラム・フィギュアもテレンスおじ様を見事なまでに再現しています。オジサン・フィギュアだけでは子供たちが納得しないとの企業判断なのか、なぜか奇妙な笏がおまけに付いています。議長席の全面に描かれたマークを先端に冠した、中途半端な長さの杖です。さすがにモフ・ターキンやピエットのようにブラスターをもたせるわけにもいきませんからね。
悪名高きボトルキャップ... 猫も杓子もみんな狂ったように買いあさり、コンビニは荒され、高値で裏取り引きされ、消費者の財布は痩せ細りお腹は膨れる... いいことなんか1つもないぞ! ボトルキャップは悪の根源だ! 巨大資本に踊らされるな! 私は全部集まらなかったぞ! せめて半年くらいは続けろ! (要するに全部集まらなかったから、怒ってるだけだったりして...)
日本ではペプシ・コーラの缶の絵柄は6種類でしたが、アメリカでは4種類の飲み物に計24種類の絵柄で登場しました。標準の絵柄に加えて数の少ないヨーダ缶や、ベイダーの陰を落とすアナキンの図柄の缶などもあるそうです。缶の図案だけで売り上げ倍増を企むとは、そちもなかなか悪よのう... ちなみに、ボトルキャップは日本だけの企画だったので、アメリカのファンたちは日本をうらやましく思ったようです。日本はスター・ウォーズ先進国だ! ペプシ・ジャパン、ありがとう。(上と言ってることが違うぞ。)