皇帝について



皇帝は『帝国の逆襲』と『ジェダイの復讐』に登場します。皇帝の名前は映画には出てきませんが、1作目『新たなる希望』の小説版に既にパルパティーン(パルパタイン)という名で言及がありました。そして、共和国時代には元老院の議員であったが、策略をめぐらして最高権力者になり、そのまま帝政を確立したという設定も既にこの時点で定まっていました。



今回『ファントム・メナス』に登場するパルパティーン議員が後の皇帝であることは周知の事実であり、皇帝とそっくりなダース・シディアスと同一人物であることもほぼ間違いないでしょう。『ファントム・メナス』を注意深く観ていれば、音楽やカメラ・ワークなどからもそれを知ることができます。以下に、パルパティーン、ダース・シディアス、銀河皇帝の3人が同一人物であると判断できる根拠、あるいは同一人物であることを示す演出を列挙します。

パルパティーンを演じているのは、スコットランド出身の元シェイクスピア俳優のイアン・マクダーミドです。実はこの人は、『ジェダイの復讐』の皇帝役と同じ人です(『帝国の逆襲』では別の人)。まさか16年後になって、同じ役の約40年前の姿を演じることになるとは、本人も全く考えていなかったそうです。

左:皇帝、中:ダース・シディアス、右:パルパティーン
3人が同一人物であることは公然の秘密。

『ファントム・メナス』では、ダース・ベイダーの少年時代が描かれることばかりが話題になっていますが、実はそれだけでなく、一議員であったパルパティーンが如何にして権力を掌握したのかも語られているということを見逃してはなりません。




何だか意味ありげなカメラ目線。自分の本性を隠すためにみんなから顔を背けたのでしょうか。あたかも他の劇中人物を超越して、歴史の先を見越しているかのような印象を与えるさりげない演出でしょうか。実は画面手前から近づく女王の船に目をやっただけですが、なんとなく気になる目線です。

あまり話題にはなっていないようですが、パルパティーン役のイアン・マクダーミドの演技はなかなか素晴しいものです。舞台出身というだけあって、あの朗々とした語り方がなんとも心地よいですし、正義の人を装いながらも時々ちらっと見せる邪悪な表情の演技は、他の俳優陣の群を抜いており、『ファントム・メナス』の格調を高めるのに貢献しています。

議会の席で女王を巧みに誘導して議長交代まで持っていくあたりなど、ともすればわざとらしくなってしまいがちなところを、実にうまく演じていました。また「To be realistic, Your Highness, I'd say we're going to have to accept Federation control for the time being.」(現実的に申しまして、陛下、一時的に連合の支配を受け入れざるを得ないのではないでしょうか。)などという、とんでもない発言をいとも簡単に言う場面がありますが、あまりにさりげなく何でもないことのようにさらりと言ってのけるので、女王はもちろん、観客にも疑いを抱かなかった人が多いのではと思わせます。

既にダース・ベイダーというかなり強烈な悪役が存在したためか、『ジェダイの復讐』での皇帝はちょっとインパクトが薄いというのが当初の大方の意見でした。しかし、ここでもマクダーミドの演技によく注目すれば、観る者を引き込む迫力があることに気付くはずです。皇帝は、ルーク(そしてベイダーも)が心の中で葛藤を続けている間中、ずっと邪悪な言葉を語り続けます。わりと仰々しいしゃべり方をしますが、わざとらしさと迫真の演技、下品と上品のぎりぎりの線の綱渡りが、なかなかの見所です。

皇帝は、最期はベイダーに吹き抜けの穴の中に放り込まれて死ぬわけですが、悪の帝王があんなに呆気なく終わってしまうなんてという不満を抱いた人が多かったようです。しかし、個人的にはあれこそ最高の終わり方だったと思っています。悪の皇帝を倒すのは、超能力や科学兵器ではなく、まさに人間そのものの力だったのです。さらに言うなら、単なる人の力ではなく、悔い改めた人の力でもあり、考えれば考えるほど奥が深くなります。(かなり極端に大きなまわり道はするけれども、最終的にシスを滅亡させるのはアナキンなわけで、その点ではやはり予言にうたわれた存在ということでしょうか。)

今回の『ファントム・メナス』のエンディングは、通商連合に対する勝利と、ナブーとグンガンの連帯を祝い、最後の場面ではみんなそろってめでたしめでたしというかたちになっています。これは『新たなる希望』のエンディングとよく似ています(実際のところ『ファントム・メナス』の物語展開は全体的に『新たなる希望』とそっくりになっています)。ただし、『ファントム・メナス』の方はそう単純ではないところがあります。この場面で流れる曲は、やたら能天気で明るく楽しげな曲なのですが、よく聴いてみると実は『皇帝のテーマ』を明るく変調したものになっています。つまり、戦争が終わってみんなが大喜びしている陰では、今回の事件の裏で皇帝の座に一歩近づいたパルパティーンも喜んでいるのです。そして、その場で喜んでいる連中はみんな、誰も気付かぬうちにパルパティーンの影響下に置かれてしまっているのです。愉快などんちゃん騒ぎの中に、暗黒の未来が示されているとは。この物凄い演出を理解するかしないかで、物語解釈が全く違ってきます。


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Ver.1 1999.12.12
Ver.3 2000.5.6
Ver.4 2000.6.20

ダーク・フォースのともにあらんことを
ベン・アンティリーズ