己の本能を信ぜよ。
Trust your instincts.
DujlIj yIvoq.

クリンゴンの指揮官クルーグは、エンタープライズ号への攻撃の後、この主義をよりどころにして、この連邦航宙艦が実害をまぬがれていると推定した。具体的な証拠はなかったが、彼は『俺は自分の本能(勘)を信じる』[訳注1]と言った。

同様に、自分たちの(盗んだ)船が爆発する寸前にエンタープライズ号に転送収容されたクリンゴンの反逆者コリスとコンメルは、ウォーフにクリンゴンと連邦の同盟を捨てて自分たちの仲間になるように誘い込もうとして、この考えを引き合いに出した。『本能が我々を導くのだ』[訳注2]とコリスは言った。『文明人とやらの間で暮らしていても鈍ることのない本能だ』[訳注3]とコンメルは説明を付け加えた。

本能(instincts)に相当するクリンゴン語はDujであり、文法的には単数(いくつかの本能を一まとまりに指す)として扱っても複数(各種本能を別々のものとして指す)として扱ってもよい[訳注4]。Dujはまた「船、器」(ship, vessel)という意味もあるので、この金言は『己の器を信ぜよ』とも解釈できる。この場合、器(vessel)によって自分自身を象徴できよう[訳注5]。クリンゴン人に対して、これは奥の深い真理を示す。

スタートレック3:ミスター・スポックを探せ!
(Star Trek III: The Search for Spock)
ザ・ネクスト・ジェネレーション:さまよえるクリンゴン戦士
(The Next Generation: Heart of Glory)


【訳注】
  1. ビデオの字幕では『直感なのだ』となっています。
  2. テレビの吹き替えでは『本能が呼んでいる』となっています。
  3. テレビの吹き替えでは『文明社会とやらでも生き続けた鋭い本能がな』となっています。
  4. Dujの訳語が単数形のinstinctではなく、複数形のinstinctsとなっているところからの説明であると思われます。
  5. 英語の vessel の基本的な意味は「器、容器」ですが、その他「船、艦」「管、チューブ」などいろいろあります。何か、特に液体などを入れる容器を表わします。「管」という場合も、中を液体が通るようなものを指し、例えば血管などにも使われます。「船」の意に使われるのは、その器状の形からであると思われます。そういえば、日本語でもお風呂の浴槽のことを「湯舟」と言いますが、ここでも「器」と「舟」の関連性が見い出されます。湯舟は中に水を入れ、舟は周りを水に囲まれて中には水を入れないので、互いに相反するもののように思えますが、形に注目するとよく似ています。話がちょっと脱線しましたが、 vessel のもう1つの意味として比喩的に「人、人物」を表わすこともあります。これは、人間を何らかの精神的特質を入れる器として見ているわけです。もっと簡単に言えば、肉体は精神の入れ物であるということです。日本語でも、「彼はリーダーの器ではない」とか「大器晩成」など、人間を器に例えた表現があります。

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第1版 1998年8月30日
東京都板橋区
コウブチ・シンイチロウ