前回までの検証でMiToには純正で高度な定圧レギュレタ式減圧システムが装備されている事が判明した。
レデューサ取り付けで良くなると思われる条件は皆無で、すべてのデータが悪い方向に行くと予想される。しかし、実際のデータが理論通りに計測出来るのか、誤差に埋もれてしまう程度の微細な差しか無いのか? 興味はそこに集中する。
当初、MiToの低負荷時のブローバイはこう流れていると思われたが、それは間違いだった。
正しくはこうなっていた。どちら側もワンウェイバルブ内蔵の一方通行、両方とも逆流を許さない構造。低負荷時にはマニ側が負圧になるのでそっちに引かれ、高負荷時にはサクションパイプ側の高速な空気の流れに引かれる。重要なのは高負荷と低負荷で負圧が発生する方向が逆になる事。それをどちらも利用しているのがMiToの純正システムで、クランクケースが常に負圧になるように作用している。
レデューサはこうなっている。 マニ側に吸われている力はクランクケースには作用していない。サクションパイプ側から逆流してマニに吸われているだけ。マニ側へ吸わせているのはリードバルブの結露と凍結を防ぐ為にリードバルブの下流を換気しているに過ぎず、エンジン側に負圧は作用していない。凍結防止の意味を考えないならマニ側は無いに等しく、外してメクラにしてもレデューサとしての機能や性能に変化は無い。要するに減圧に作用しているのはサクションパイプ側の高速流に引かれる力のみ。
レデューサの低負荷時の流れはこうなる。青いのがリードバルブの位置と向き。マニ側ホースはリードバルブの下流になるので、サクションパイプ側が逆流してしまい新気をマニ側に吸わせてしまう構造。マニの負圧はクランクケースに作用せず、サクションパイプの空気を逆流させる。
高負荷時にはこうなる。マニ側は負圧が無くなりワンウェイが閉じるので流れはストップ。サクションパイプ側に発生する高速な流れに引っ張られてブローバイガスが抜ける。ちなみにサクション側にリードバルブなんか無くても同じ流れになる。以上の原理と動作を理解して以下を読んで欲しい。
クランクケース内圧測定まずはクランクケース内圧を実測してみた。ホントに負圧になるのか?(^^;
HKSの機械式ブースト計をオイルレベルゲージのガイドチューブに接続。オイルレベルゲージはクランクケースに直結しているので正確な数値が読めるハズだ。 ちなみに上の写真で負圧方向に針が振れているが、コレが大気圧の位置。ゼロ点が狂っている。クランクケース負圧 測定結果
ノーマル レデューサ アイドリング 10mHg 大気圧 高回転低負荷 10mHg 大気圧 高回転高負荷 10mHg 15mHg以上? 実際に測定してみると、ノーマルはアイドリングでも負圧側に僅かに振れている。オイルレベルゲージからメータを抜き挿しすると針1本分くらい負圧側に振れているのが確かに確認できる。目盛りから読むと針1本分は10mHgほどだろうか?
そのままベタ踏み全開でレーシングして6000回転まで上げるとマニ側にはブーストが掛かるが、サクションパイプ側に高速な吸入空気の流れが出来るのでそちらに引かれ、やはりクランクケース圧力は負圧方向に振れる。アクセルオフで回転が下がっていく過程でもマニ負圧が大きくなるのでそちら側に引かれてクランクケース内は負圧方向に振れる。基本的に負圧側に作用しいてる。
ところが、レデューサはマニ負圧を利用していない為、基本的にクランクケース内は大気圧になり、負圧側に振れる事は無い。全開の高回転側ではサクションパイプ側の流速に引かれる為、負圧側に振れる。この時の負圧の大きさはノーマルより大きい。コレは減圧レギュレタを利用しているノーマルが一定以下の負圧にならないように制御されているのに対し、レデューサは成り行きの負圧になってしまう為だ。全開高回転のフルブースト時にはもっと大きな負圧が掛かると思われる(それが良いか悪いかは別として)。
構造と理論から予測される結果と、実際の測定結果が完全に一致。理論的に破綻していない。
さて、このクランクケース内圧の測定結果を踏まえ、次以降の測定データを考えてみよう。
エンジンブレーキによる中間減速タイム 3速60-40Km中間減速タイム
多くの先人達、メーカ、発売側、すべてが版で押したように「エンジンブレーキの効きが悪くなった」と言う。確かめて見ねばなるまい。
3速60-40Km (3000-2000rpmに相当) の中間減速タイムを測定した。実用的な回転域と速度域に近いと思う。
私はそんなもん体感出来るわけが無いと思うので、体感的なフィーリングは語らない。ちなみにGセンサを使用して減速Gを測定したのだが、XYZ軸それぞれのノイズにまみれて計測不可能だった。GPSデータロガを使用して減速Gを求める事も考えたが、減速Gが小さ過ぎて計測不能。いろいろ考えた結果、減速タイムをストップウォッチで手動計測。ほぼ無風の信濃川堤防道路で測定。それでも念の為、風や勾配の差を考慮し、同じコースを行きと帰りで8本ずつ測定した。誤差を考え16本計測し、大きく外れた上下3つのデータを除いて10本分を平均化するつもりだった。
意外と計測制度が高くて大きく外す事もなかった。以下の結果。
ノーマル レデューサ 悪化率 全16回平均値 9.18秒 8.52秒 7.2% 中心値10回抽出平均値 9.24秒 8.55秒 7.5%
レデューサ付きの方がエンジンブレーキが強く効いているのがハッキリとデータで現れた。それだけ抵抗が大きくなったという事。ノーマルシステムはマニ負圧を利用している為、エンジンブレーキ時にもクランク内が負圧になる。レデューサはサクションパイプ側の流れを利用する為、アクセルOFFではサクションパイプに流れが発生しないのでクランクケースが負圧になる事は理論上有りえない。もちろん実測でもそうだったわけで、悪化するのは間違いないのだが、これほどハッキリしたデータが現れた事に驚く。
コレを多くの先人達は「エンジンブレーキが効かなくなった」 というわけで、いかにプラシーボ効果が大きいかを改めて示した結果とも言える。
ちなみにエンジンブレーキタイム測定結果の生データは↓以下。意外なほど測定バラ付きは小さい。手動計測も捨てたモンじゃないと思った(笑)。
ノーマル レデューサ付 1 9.2 8.6 2 9.2 8.6 3 9.0 8.6 4 8.8 8.2 5 8.7 8.5 6 9.1 8.5 7 9.4 8.7 8 9.5 8.0 9 9.4 9.0 10 9.3 8.6 11 8.8 8.5 12 9.3 8.6 13 9.4 8.6 14 9.4 8.4 15 9.2 8.3 16 9.3 8.7 全16回平均値 9.18 8.52 中心値10回抽出平均値 9.24 8.55 レデューサ付きで測った1本目、8秒台が出て計測失敗だと思った。しかし、3本連続で8.6秒を記録、その後も8秒台を連発。あまりにも明確な差が出た事に驚いた。
実は差なんか出ないと予測してた。理論的にはエンジンブレーキが効くようになるハズだが、たかがクランクケースの10mHg程度の圧力差がエンジンブレーキの強弱として測定できるわけが無いと。ビックリの結果です。
続いてオンボードダイアグノーシスを利用してエンジン制御データをリアルタイムで読み出し、その結果を比較。生データはこんな感じ。ここから有意なデータを抽出して比較してみる。
アイドリング時 生データ
2000rpm時 生データ
燃料消費率1分間の燃料消費量がリアルタイムで読み出せるので、それを比較してみた。
燃料消費率 ノーマル レデューサ 悪化率 アイドリング 16.4cc/min 16.9cc/min 3.0% 2000rpm 32.6cc/min 33.2cc/min 1.2% 当然ながらレデューサでは悪化すると予測されたわけだが、見事なまでに悪化データが測定できた。ノーマル比でクランクケース内は増圧されているので抵抗が増したと言う事。エンジンブレーキ測定データとも結果の方向性が一致し、矛盾はない。
エンジン負荷率
読んで字の如く、今現在エンジンにどれだけの負荷が掛かっているかと言う事。全開なら全負荷なので100%となる。
エンジン負荷率 ノーマル レデューサ 悪化率 アイドリング 16.1% 16.5% 2.5% 2000rpm 10.6% 11.0% 3.8%
アイドリングでもエンジンに掛かっている抵抗が大きいほどこの数値は大きくなる。例えばエアコンをONにするとか、ヘッドライトを付けるとか、オイル粘度が高いとか、そういった差がエンジン負荷率となって現れる。
今回の計測では当然ながらレデューサの増圧効果によりエンジン負荷が増えた事を示す結果と言えるだろう。ここまで、すべてのデータの方向性は一致しており、計測データと理論に矛盾はない。
スロットル開度
コレは電子制御スロットルが今現在どれほど開いているかという数値。アクセルペダルの開度ではない。アイドリングなり2000rpmなりの回転数を維持するのに必要な空気量が計算され、コンピュータが実際に開いているスロットル開度だ。
スロットル開度 ノーマル レデューサ アイドリング 13.7% 12.9% 2000rpm 15.7% 15.7% アイドリングではレデューサの方がスロットル開度が小さくなっている。これは他のデータと方向性が逆であり矛盾しているかのように見えるカモしれないが、実はコレには明確な理由が有り矛盾は無い。
ノーマルシステムはサクションパイプ側にリードバルブが有るのでマニ側に新気を吸わせない構造。しかし、レデューサはサクションパイプ側からマニ側に新気を吸い込んでしまう構造。従って、余計な新気を吸気してしまうのでエンジン回転が上昇してしまうのだ。コレをフィードバックしたコンピュータは目標アイドル回転数を維持する為にスロットルバルブを閉じる方向に制御する。なのでアイドリング時のスロットル開度が小さくなっているわけ。
だが、2000rpm時には吸気量がかなり増える為、レデューサの小さなマニ側ワンウェイバルブが吸う空気の量が小さ過ぎて無視できる程度になるので差が出ないと思われる。
レデユーサはマニ負圧をクランク減圧に利用していないが、オイルセパレータケース内を換気する目的で小さな容量でマニ側に空気を流している。その差がアイドル時のスロットル開度となって計測されているわけ。
この場合、スロットル開度が小さい事と吸気量が少ない事は同義ではない。単に別系統から空気を吸わせているに過ぎない。従って、今までのすべての測定結果と同じ方向性であり、矛盾は無い。
長岡〜新潟間 約60Km エコランアタック
例年の320Kmのエコランアタックをやる時間も無いので簡易的にやってみた。誤差が少ないバイパス国道区間と高速道路をメインに、ほぼ同じ条件で揃えるようにやってみた。新潟出張プロジェクトの時に何回も測定したのだが、再現性は非常に高かった。 参考までにノーマルでのエアコンONとOFFの差も載せてみた。
レデューサとの比較は以下。
長岡〜新潟間 60Kmエコラン ノーマル レデューサ 悪化率 A/C OFF 22.6Km/L 21.4KmL 5.3% A/C ON 22.1Km/L --- --- 今までのデータの傾向からレデューサで燃費が悪化する事は容易に想像出来たと思う。しかし、意外と大きな差になった事が驚き。なにしろエアコン負荷を超えるほどの悪化なのだから。
条件が違うのでノーマルと比較出来ないが、レデューサ取り付状態のまま新潟からの帰りにもアタックしてみたのだが、21.5Km/L でほとんど同じ数値だった。新潟出張プロジェクトの時は22Km/Lを下回る事が無かったのだが、レデューサでは22Km/Lに届かなかった。
以上、すべてのデータが矛盾無く同じ方向性を示した。理論的にもすべて説明が付くし破綻しない。これは計測誤差ではないと私は思う。それでも先人達は興奮気味に絶賛しているわけで、プラシーボ効果の大きさを改めて感じる。私はこの検証を通して抽象的な「フィーリング」ってヤツを一回も書いてない。そんなフィーリングを語る事に意味が無いと思っているから。だが、あえて言うなら、
「まったく体感できなかった」
とだけ。良くなったとも悪くなったとも感じませんでした(笑)。
しか〜し、コレ、MiToだからこの結果が出ただけで、フツーのクルマだったら良い結果が出たカモしれない。良くはならないまでもデータとして悪化する事は無いんじゃないかな?(オイル劣化問題は別、PCVシステムを変更すればオイルは確実に劣化します)
サクションパイプ側に引かれてクランクケース内が負圧になる事は確認できたわけだが、それって実はリードバルブなんか無くても負圧になる。むしろリードバルブは抵抗になってるわけで、単なるパイプだったらサクションパイプ側へ引かれる力は強くなるハズだ。
当初、レデューサはマニ側負圧も利用してクランクを減圧しているのだが思っていたのだが、実際にはマニ側負圧は利用していないわけで、マニ側はメクラにしてもレデューサの動作的にはナニも変わらない。マニ側のホースは無視してサクションパイプ側だけを考えると解りやすい。ここにリードバルブを付ける意味が私には解らない。無い方が負圧は大きくなるハズなのだが?
ちなみに33Zがシャシダイナモで7馬力アップを計測したというデータも有るそうです。全開高回転側で効果が出る場合もあるんでしょうね。でも低負荷低回転では効果は望めないと思います。また、エンジンブレーキが効かなくなるなんて事も無いでしょう。だって、アクセルOFFでサクションパイプ側に負圧は発生しませんから。
MiToは特別な例でしょうけど、通常のPCVシステムを装備したクルマの場合、減圧バルブ取り付けでオイルの劣化は避けられません。バルブ凍結によるオイルシール吹き抜けやオイルレベルゲージ発射のリスクも有る訳で、例え全開高回転で僅かにパワーアップするとしても、高価な品代を払ってまで付ける意味は...? 私には疑問です。
本来、今回のテストは 「クランクケース減圧システムは理論的に効果が有っても不思議は無いが、その差は小さ過ぎて体感はもちろん計測することすら出来ない」 という私の予想を確かめたくてやったモノです。しかし、予期せずMiToに純正で高度な定圧式減圧システムが装備されていた為、純正比で大幅に悪化する結果となってしまいました。通常のPCVシステムのクルマならまったく違う結果が出ると思います。今回の結果がすべてではありません。
今回の結果から、通常のPCVシステム車での結果を予想するのは難しくありません。例えばクランク内圧測定結果にPCVシステム車の結果を予測して書き加えるなら、
MiToノーマル レデューサ PCVシステム車 予想 アイドリング 10mHg 大気圧 大気圧 高回転低負荷 10mHg 大気圧 大気圧 高回転高負荷 10mHg 15mHg以上? レデューサと同等
となるハズです。高回転高負荷域ではサクションパイプ側の高速な空気の流れに引かれますので、リードバルブが有ろうが無かろうが負圧気味になります。むしろ無い方が抵抗が無くなる分だけ負圧は大きくなると思われます。この圧力から動作原理を考えれば、結果は見えてきませんか?
以上、読者の皆さんが減圧バルブシステムをどう判断するかはお任せします。マニ負圧を利用しないなら大きな減圧効果は期待できず、マニ負圧を利用するならMiToのような定圧レギュレタシステムが必要になると思います。MiToが純正で採用している以上、クランクケースを減圧する意味は有るんだと思いますし、実際に大きな差を計測出来ました。しかし、マニ負圧を利用しないシステムで減圧云々って言っても大した効果は...?(笑)
オマケ
すべてのテストが終了し、レデューサを外してみた。
気になっていたのは小さなオイルセパレータの性能。ブローバイガスに混じっている霧状のオイルを分離させてオイルをエンジン側に戻す役割なのだが、純正の大容量オイルセパレータに比べたら飾り程度にしか見えない。
案の定、オイルセパレータの下流はオイルまみれで、サクションパイプ側までトロリとした液体のオイルが回っていた。純正は巨大なセパレータを通してから減圧レギュレタのダイヤフラム室に入る為、ダイヤフラム室以降には液状のオイルはほとんど見られなかった。オイルセパレータが必要なMiTo(アバルトの500やプントも含む)だけに影響する話ですがね。
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