江戸料理百選タイトル   

*** 第2回 ***

たけのこ

【主な登場人物】
お武家様  その下男=可内(べくない)  隣りのお武家様

【事の成り行き】
上方落語にはお武家様の登場するものが少ないという枕を、米朝師匠が語られます。その少ない噺の中から、夜中、一人でトイレに立つのが恐い侍が奥方を脇に控えさせて「その方、そこで待つのは恐くないか?」「いいえ」「天晴れ、それでこそ武士の妻じゃ」……
ど突いたろかしら、思いますなぁ。

こんな噺もあります。と、脱線講義常習の名物教授がいつものように脱線していくように語られたのが次の噺です。

                * * * * *

●これこれ可内(べくない)、今日の昼飯の采は何じゃ?▲筍でございます
●ほ〜ぉ、筍とは珍味じゃが、いずかたよりか到来を致したか?▲到来は致しませんので●しからば八百屋にて買い求めたか?▲買い求めも致しませんので。

●買い求めもせず、到来もせぬ筍が、どうして家(うち)にあるな?▲いや、お隣りの筍がね、こっちの庭へ頭出しよりましたんで、それを掘り取りましたんで●何ということを致す。渇しても盗泉の水を飲まずとは古人の戒め、 隣家のものを無断にて掘り取るという事はあるものか。たわけめ。

●……とは言ぅものの、ワシもそういう事は好きじゃ▲あぁビックリした。 旦那お好きですかいな……●しかし一応隣家へこたえねばいかん、これから 行って参れ▲何と言ぅて参りますかいな?●そうじゃな……慌ただしゅう走り込め。

「不埒でござる、不埒でござる。不埒憤妙、不埒不体(ふらふったい)でござる。ご当家様の筍が手前屋敷へ泥脛(どろずね)を踏み込みました。戦国の世ならば間者(かんじゃ)も同様な奴、召し捕って手討ちに致します故、その段ちょっとお断りを致します」

●そう言ぅてこい。ワシは鰹節のダシを取っておくからな▲……おもろい旦那やなぁ、うちの旦那。慌ただしゅう走り込むんか……「えぇー、不埒でござる、不埒でござる。不埒憤妙、不埒不体でござる〜〜」

◆これは隣家の可内、慌ただしゅう何事じゃ?▲ご当家様の筍が手前屋敷へ泥脛を踏み込みました。戦国の世ならば間者も同様な奴、召し捕って手討ちに致します故、その段ちょっとお断りを致します◆不届きな筍の振る舞い、お手討ちは止むを得ぬが、……遺骸はこちらへお下げ渡しを願いたい。

▲(そら何を言ぅねや、遺骸がいるんやがな)……うちの旦那、鰹のダシ炊いて待ってまんねやが◆何ならば、ダシもろともにても苦しゅうない▲……さいなら、向こうの方が一枚上手や。

                * * * * *

▲え〜、行てきました●ん、何と出あったな?▲え〜「不届きな筍、お手討ちは止むを得ませんが、遺骸はこちらへ下げ渡してくれ」言ぅたはりまっせ。「うちの旦那、鰹のダシ炊いて待ってまんねん」言ぅたら「ダシもろともにても苦しゅうない」言ぅたはりますが。

●ふん、敵も中々やるのう……。もう一度行ってこい。「不届きな、けしからん筍は既に当方において手討ちに致しました。遺骸はこちらにて手厚く腹 [墓]の内へと葬ります。骨は明朝、高野(山)[厠]へ納まるでございましょう」これは筍の形見じゃと言ぅて、この竹の皮をばらまいてこい▲……段々オモロなってきたなぁ、こら……

                * * * * *

▲え〜、お隣りの◆おぉ、可内。鰹のダシは?▲いやいや、そやおまへんね。え〜、あの〜「けしからん筍は既に当方において手討ちに致しました。遺骸はこちらにて手厚く腹の内へと葬ります。骨は明朝、高野へ納まるでございましょう。これは筍の形見でございます」(バラバラ、バラバラバラ)

【さげ】◆いやはや、お手討ちに相成ったか。あぁ、可哀や、かわいや…………皮や

                   ♪♪♪♪♪


このページの全ては上方落語・世紀末亭様の御協力で掲載させて頂きました。

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