(ぼんやりした空間 一筋の光が、段々はっきりしてくる。木、の様にもみえる。 男(IK)、女(NO)、 女(SK)、女(HD)、女(MD)の順に迷い込んでくる。 五人、それぞれが夢でも見ているかの表情でなにかを確かめている。 いつのまにか、もう一人(FT)ふえている。IK、自分以外の存在に気付く) 1. 今北:いい木ですよね 2. 西岡:緑がきれい 3. 崎久保:大きくなったんかな、この木 4. 浜田:枝が高い 5. 前田:奇麗ですよね 6. 藤田:りっぱな木ですよね 7. 今北:この木ね、団地のシンボルなんですよね。ここの広場でよく遊びました。 |
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8. 西岡:この公園広いでしょう。鬼ごっこしたら逃げる方も追いかえるほうも全力で 走らなあかんから、大変なんですよ。 9. 崎久保:この木ね、いっつもあたしらの遊ぶときの中心やったんですよ。 『鬼ごっこ』するときも、『坊さんがへをこいた』するときも。 いっつもこの木が中心やったんですよね。 10. 藤田:あれジャングルジムかな。滑り台ものぼり棒もついてるけど…… 11. 浜田:ペンキぬりかえたんや滑り台。全然イメージ違う。これはかわれへんけど。 12. 前田:狭いとこ生えてんなぁ。この水どこ行くんやろう。 13. 今北:これ、二股が高いとこあるでしょう、そやから女には登られへんやろって、 団地の男には自慢やったんですよねぇ。 14. 西岡:私この木よく登ったんですよね。すごく小さかったから他の木には登られへんかって。 でもこの木は下に添え木があるから、そこに足掛けてこの枝もったら、 すぐ上の二股に登れたんですよ。 |
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15. 崎久保:私もこの木登りたかったな。この木大きすぎて、何時も見てるだけやった。 この木ね私の家の二階から見えるんですよ。 だから、登られへんからいっつも見てました、この木。 16. 前田:これね田んぼのこっち側からしか枝に触れないんですよね。 だから秋になったら兄ちゃんや姉ちゃんと柿の実取りに来たけど、届かないから、 高枝きり鋏が大活躍だったんですよ。 17. 浜田:二股がこんな低いところにあるから、低学年の子でも登れるんですよ。 私もきっと一年生の時初めて登ったんかなあ。木登りって憧れてたからうれしかった。 18. 藤田:あれ一年生の教室かな。机も椅子も小っちゃくってかわいい。 19. 浜田:ほんまや。 |
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(辺りが霧に包まれて行く) 20. 藤田:校舎消えてゆく 21. 今北:団地隠れていく 22. 浜田:ジャングルジムは? 23. 崎久保:公園のフェンスない 24. 西岡:うんてい見えへん 25. 前田:ここ川ありましたよねえ 26. 今北:広場は、ひろば 27. 西岡:なんも見えへん 28. 藤田:木だけが残ってる |
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(うごきが止まる/木に吸い込まれる瞬間) 29. 崎久保:ここどこ 30. 浜田:私、家帰る途中やったんです、職場から 31. 前田:私、学校の屋上でぼーとしてて。 32. 崎久保:私今から稽古いこうと家出たばっかりやのに。 33. 今北:僕、草野球の最中やったんですよ。 34. 西岡:起きたら9時過ぎてて慌てて洗面所いったのに。はよ用意せんと。 |
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(NO出ようとする) 35. 今北:こんな時に女の子が一人で動かんほうがいいですよ。 36. 藤田:じゃじゃ、ついて行ったら。 37. 今北:じゃ、僕・・・付いてきてください (二人出ていく) 38. 前田:私、もう秋やのにまだ就職決まらなくてどうしようって私、落ちたんやろか。 みんな死んでるんじゃないですか。 藤田、前田を強くつねる 39. 前田:いたい、生きてんのかな 40. 崎久保:生きてるとか、死んでるとかそんなことどうでもいいのよ。 私、仕事をやめて音楽を選べるのは今日しかないに。 でも仕事もあきらめられなくて、選べなくて、相談できなくて。 41. 浜田:ちょっと霧がでてきただけでしょう。すぐに晴れるわ。あの二人は? (二人、別の方向から戻ってくる) 42. 西岡:なんで…… 43. 浜田:どうでした 44. 藤田:道はあった? 45. 西岡:真っ白でなんも見えへん。 |
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(西岡、今北しばく。今北うろたえ始める) 46. 今北:どないなってんねん 47. 藤田:ねえ、この木、この木だけ残ったけど、なんかあったかい気しません? 48. 崎久保:安心する…… 49. 浜田:懐かしい 50. 前田:ちょっと元気湧いてきますよね 51. 西岡:ほっとする 52. 今北:落ち着いてきた |
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53. 藤田:これ、私の大事な思い出の木なんです。子供の頃この木に登ってる人見たんですね、 校庭にあるから、もちろん皆登って遊んでるんだけど、私がその日見たその人だけは特別で そこの枝の上にたって、歩いてるんです。私びっくりして。 そんなこと出来るなんて思わないじゃないですか、 だから、すごい尊敬ってゆうか、なんであんなこと出来るんやろって思って、 そう思ったらすごい胸がドキドキしてきて、ずうっとその人の事見てたんです。 歩いたのほんの数歩だったけど、でも私には出来ないとても凄いことで。 ずうっとその光景が目に焼き付いて離れないんです。始めて人を好きになりました。 |
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54. 西岡:その人とは友達になれたんですか 55. 藤田:話をしたこともないです 56. 西岡:話しかけなかったんですか 57. 藤田:見てるだけでよかったから 58. 今北:声かけられへん時ってありますよね。僕もねえ、友達に遊ぼうって 声かけられへんかったんですよ。 でもね、家におってもおもろないでしょう、そんなときにあそこの枝に登って友達 待ってたんです。 そん時はねえ、すごい不安なんですよねえ。来てくれるやろかって。 でも友達は絶対、ここに来て『おい、コーちゃん遊ぼうや。』声かけてくれるんですよ。 嬉しかったなあ。でも、降りたらね、スターになれるんですよ。 僕、野球は得意やったし、B弾とかも、何でも得意やったから。 59. 前田:スターだったんですか 60. 今北:ええ 61. 前田:何でも得意やったのに、どうして自分からは行かなかったんですか 62. 今北:何でなんでしょうね。自分からは、ずっと声かけられないんですよ |
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63. 浜田:私もいっつも一人で登ってた。でも私は誰かに声をかけられるのを待ってたんじゃなくて、 むしろその逆ってゆうか、別に友達といるのが嫌とかそういう訳じゃなかったんですけど、 でも一人の方が楽やったから。 この木の上に登って一人でボッーと遠く見てるのがすっごい気持ちよくって、 よく一人で登ってたんです。 なんか自分だけの場所ってゆう感じがして。この木の肌の感触も好きやったし。 別に高いところに登るのが好きとか、そういう訳じゃなかったんですけどね。 64. 今北:一人って寂しくなかったですか 65. 浜田:うん、寂しくは無かった。いや、ちょっとくらい寂しかったのかもしれないですけど、 でもそれよりも気持ちいい方が勝ってたから。今だにみんなの中にいるより、 一人の方が楽やと思うし |
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66. 西岡:私も一人で登ってた。でも一人が好きだったわけではない。 母親がねすごく勉強ができたみたいでやってあたりまえテストでいい点とっても 褒めてもらえないんです。 テストだけじゃなくて、なんでもやってあたりまえ、できないのは努力が足りない からって。 家でほっとできなくて。友達多かったんです。ドッチボール強かったから、 何時も最後までのこってて。 でもある日突然友達に無視されて。なんでかわからなくなって。 まだ話せばきっと分かってくれるて思ってたから、私のどこがいやなんて聞いたら、 なんとなく無視したくなった。 なんであんたとしゃべらなあかんのって言われて、あっそうか、なんとなくで無視 できんねんやって、人と関わるのが怖くなった。 何処かで何時も人との距離を置いていた。でもこの木に登ると全部忘れることが できたんです。 |
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67. 浜田:何が見えました? 68. 西岡:空がね、凄く、いつもより近く見えて雲が流れて行って風が気持ちよかったんですよ。 69. 浜田:今でも登りたいですか 70. 西岡:今もまだどっか怖くて、だから、登っているのかのしれないですね 71. 崎久保:わたしもなかなかやりたいこと、分かってもらえなかったんです。 でもねぇこの歳になって、やっと大切に育ててもらったんだと言えるようになったんです。 私のことを何の見返りも無く思ってくれるのは、家族だけやなってそう思えてきたんです。 夏になったら、私、この木にとまっている蝉、一所懸命探すんです。 緑で一杯になったこの木にとまってる蝉、見つけた時、すっごいうれしいんですよね、 なんか蝉がとまっていると、この木が蝉に好かれてる気がしてすごい嬉しかったんですよ。 気がついたら秋になってて、この木バッサバサに切られちゃうんです。 あっ肌寒くなった ってその時思えるんですよ。 で、気がついたら、また夏になって、せいいっぱい大きな木になってるんです。 私、桜の花が咲いて春が来たって感じるよりも、秋になって夏には見えへんかった 公民館の屋根が見えた時、 わたしすごく季節を感じるんです。季節は巡ってるって、この木は教えてくれたんです。 両親がわたしのことを育ててくたように、教えてくれたんです。 72. 藤田:木も家族なんですか 73. 崎久保:季節がめぐることを教えてくれた両親なのかもしれない 74. 前田:家族大切にしてはるんですね 75. 崎久保:大切なのは分かってるんですけどなかなかそう思えなくて。 |
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76. 前田:大切ですか。私、3つ位のとき稲かりの日だったんです。 昔のトラックみたいなもので米をはこんでたんです。この位の山になってました。 家族が危ないからとめたんですけどえでもわがままいってのこったんです。 でここにきた時そこの枝にとどくんじゃないかって手を延ばしたんです。 そしたらずるって滑って落ちたんです。 気づいたら泣いてあばれている自分を病院の鏡の中で見ました。 私びっくりして覚えていないんですけどトラックの前輪と後輪の間に落ちたそうです。 慌てて止めたら私の頭の上で止まったらしいです。 米いっぱいつんでてすごく重くなっているから普通だったら死ぬじゃないですか、 でも生きてたんですよ。傷ひとつなかったんですよ。(MDのメモリー) |
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77. 崎久保:その枝には今でも手がとどかないんですか 78. 前田:……今……この木、もう無いんですよね (木、の様なもの、消え始める) 79. 前田:何度目かの区画整備で切られちゃったんです。 (木、の様なもの消えて無くなる。SK、木を確認する) 80. 前田:……逢いに来てくれたのかもしれない…… 81. 今北:何やったんですか、…… 82. 前田:生きてんねんぞ。ちゃんと見てるからて言われた 83. 西岡:私も、逃げずにちゃんと人と向き合えって言われた気がする 84. 今北:何やったんですか (暴れ出す) 85. 藤田:心を映す鏡やったんと違いますか 86. 浜田:楽なとこばっかり、探してたらあかん、ゆう事かなあ 87. 崎久保:戻るところを分かってるんやったら、そこにちゃんと帰りなさいって、ゆうてくれてるの かもしれへん 88. 前田:なんか、あそこ。何かみえません?光ってる 89. 西岡:どこですか 90. 前田:あっちです。ほら |
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91. 今北:なんも無いですよ 92. 前田:光ってますよねえ 93. 浜田:どこですか 94. 前田:すぐそこですよ 95. 崎久保…… 96. 藤田:行ってみたら 97. 前田:……そうかもしれない……今度は私が逢いに行く……それじゃ (前田出ていく) 98. 今北:消えてしまった 99. 西岡:行きましたね |
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100. 崎久保:帰っていったよね 101. 浜田:あ、あれウチのバス停。帰れってことかなあ、嫌やなあ 102. 藤田:じゃあ、ここにいたら 103. 浜田:でも、明日も仕事やし、私もいきます。おさきに (浜田出ていく) 104. 崎久保:さっき見えへんかった道が見えてきた。この道真直ぐいったらウチの家着くんです。 私、この道まっすぐ歩いていきます。.またどっかで 105. 西岡:そうですね |
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106. 藤田:もう、振り返ったらあかんよ (崎久保出ていく) 107. 今北:ちょっと、……ついていくわ…… (今北、崎久保を追いかけていく) 108. 西岡:みんな帰って行きますねえ 109. 藤田:男の子だけ、戻ってくるんじゃない。 (今北戻ってくる) 110. 今北:ああッ、アレ? 111. 藤田:ついていったん違うんですか 112. 今北:あの人は 113. 西岡:家に帰ったんじゃないですか 114. 今北:なんで僕だけ 115. 西岡:私も、音が聞こえるんですよ。声?みたいな 116. 藤田:見つけた? 117. 西岡:みたいですね 118. 今北:なんも聞こえませんやん 119. 西岡:・・・まだ、ここにいたいけど……あのときもね、一人だけ苛めたりなやって ゆってくれる子がいたんですよ。 だからきっと、心通ずることができる人がいてると思うので。行ってみます。じゃ。 (西岡出ていく) 120. 藤田:皆いちっゃったね 121. 今北:ええ・・・なんか落ち着いてはりますね 122. 藤田:そうですか? 123. 今北:道、道ってなんでしょうね 124. 藤田:きっと、自分にだけ見える道があるんですよ 125. 今北:なんも見えませんやん |
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126. 藤田:あなたは、どうしてあの木を見たんですか 127. 今北:なんかね、ハワイおってボーッとしながらチャンス欲しいな、とかチャンスけえへん かなあ、思っとたんですよ…… チャンス自分から取りに行け、ゆうことですかね……。 あッ……見えてきました。ハワイの海ですよ。青い海ですよ。おさきに (今北出ていく) 128. 藤田:・・・・皆いっちゃった。 (木の様なもの、再び現われる) 129. 藤田:今度はどんな人来るんかなあ |
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『マヨヒガ』 Curtain Call |
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