[第四期=3]

[アイホール演劇学校第八期生終業公演]

「マヨヒガ」台本A班


1. 宮部:葉っぱがキラキラしてますね。
2. 金崎:ごつごつしとるわ。
3. 権野:あいかわらず気持ちよさそうに生えてる。
4. 上村:ちいさいですけど、りっぱですよね。
5. 森本:葉っぱがきれいな緑してる。
6. 加藤:こんなに小さかったかな。
(6名、個々に舞台に登場・舞台中央に集まって…)

7. 宮部:これ私が生まれた記念に植えてくれた木なんですよ。
小さい私を抱いて家族皆喜んで植えてくれたらしいんですよね。
8. 金崎:オレ、昔この家に住んどったことあんねん。
家ぼろいけどこいつが門がわりになって、ちょっとかっこいいやろ。
9. 権野:町のど真ん中なのにこの公園広くって、大きな木が一杯あって別世界よね。
一時期ここ通って学校いってたよ。
10. 上村:この木、私が5歳のときここに植えたんですよ。もうこんなに大っきくなった。
11. 森本:この木ね、アゲハ蝶の幼虫おるわ。
だから、小学校の時にそれ目当てにようここにきて見上げてたわ。
12. 加藤:この中庭の木の芝生立ち入り禁止やけど、気持ちいいからよく入ってたな。
13. 宮部:小さい頃、一人でこの木じいっと見てたんですよ。
そしたら、なんかほんまに皆喜んで植えてくれたんかなって思ってすごくさみしくなったんです。
A班2
14. 権野:この木の下走り抜けながらこの木ってまっすぐ伸びてていいなーて思っていった。
15. 金崎:オレこの木登ろうとした。親父にえらい怒られてな。
 「折れるやないか」ってえらい剣幕やった。
16. 上村:ようこの窓からみてました、もみじ。夕日が沈む頃一番きれいやった。
17. 森本:ここの花壇結構広いし人があんまり人けえへんから気にいってたわ。
 休み時間とか昼休み遊び場にしてた。
18. 加藤:お昼休みには、飼育小屋の兎とかアヒルとか解放されるやん。
ようその木の下座ってこの動物見とったな。かわいいな。
(周囲の景色が消えていく)

19. 権野:『ホテル日光』がない。ラヴホテルいっぱいならんでたのに見えなくなっちやった。
20. 宮部:山がきえてる。
21. 森本:花壇もなくなってる。
22. 上村:もやが、もやがせまってくる。
23. 金崎:なんやねん。
24. 加藤:私、あっ、いそがな。(走れり去る)
25. 金崎:あんまり走りまわらんほうが・・・。
26. 上村:私も急がないとおくれてしまう。
27. 宮部:私、沖縄のキャンプ場におったのに。どうなってんですかこれ。
28. 上村:わたしもね、エステに行かないといけないんですよ。
29. 金崎:あっ、けどあんまり、動きまわらないほうが・・・。迷ってしまいますよ。
30. 上村:迷うったって早く行きたいんですよ。あなたは急いでないんですか。
31. 森本:はい、急いでますよ。お昼買いに行かんと。おなかすいた。
32. 上村:そうですよね。二手に別れて行きましょうか。
33. 加藤:(走れり来る)なんで。
34. 森本:どうしたんですか。
35. 加藤:まっすぐ走って来ただけや。でも、真っ白でなんもみえへんねん。
36. 上村:木だけありますよ。
37. 権野:「オッケー」っていってもらえそう。
38. 上村:なっかしい気持ちになりますよね。
39. 森本:うん。久しぶり。こんなんやってんや。
40. 宮部:小さい頃おもいだしますよ。
41. 金崎:オレも。
42. 加藤:いろいろ思いだす。
43. 金崎:オレ、世間でいうアダルト・チルドレンやねんやんか。アル中親父の息子。
親父は弟だけえこひいきして、暴力を振るった。
家ん中茶碗とか皿が飛んでくるねん。
おふくろが弟だけ連れて逃げたことがあった。
えこひいきするんや。
おふくろにまですてられた。
これからは友達だけを信用するんや、友達だけ頼りにして生きていくんって考えてた。  
けど、そんとき友達と遊ばんと、どうゆうわけか、この木の下にすわっていた。
木の皮はいでた。ただただ、はいでた。
44. 権野:ずっと?
45. 金崎:ん、気、はってたんやろな。
おふくろが夜帰ってきたとき、「ゆるせへん」なんて思わへんかった。
ただ安心してへたってしもた。甘えてたし、信用しててんやろな。
46. 宮部:私はお父さんに甘えてたな。
私この木みてたとき、お父さんにコンサートに連れて行ってもらったんですね。
私は初めてで、すっごい人だかりでミュージシャンがね、
舞台から降りてきてくれたん です。ほんじゃあね、お父さんがね、
ブァーって走っていってその人だかりの所へいったんですよ。
私は訳がわからんくてイスの上にあがってじっとみてたんですね、
不思議な世界やなって。楽しかったけど。
それから何年かしてお父さんのレコードひっぱりだしてきて
私も聞くようになったんですよ。
ほんならね、これやって思ったんですよね。 もう全身鳥肌たつぐ らい。
もしかしてあのときのお父さんもこんな風におもってたんかなって思うと
嬉しくなってね。
レコード聞いてると一人やないっておもえるんですよね。
47. 権野:それなんて人だったの。ガーって鳥肌たったやつ。
48. 宮部:ビリー・ジョエルです。
49. 権野:へぇーそうなんだ。私でもその感じわかる。
この木ってあたしにとってギターみたい。
丁度ここ通ってた頃、夜FMつけててたまたまかかった曲。
下っ手なボーカルって聞いてたら最後のとこで、ギターソロがはいったの。
短い旋律だけなのにすげーパワーで。鮎川誠って人なの。
知ってる?あたし生まれてこのかた家のトラブルメーカーだった。
一人ぼっち。誰もかわいがってくれないい。
小さい頃は勉強ができたからなんとかなった。
それも中学校に進んだ頃からはダメ。何んにもうまくいかない。
誰もわかってくれない。
そんなときにマコちゃんのギターにであったの。
「俺ぁロックンロールが好きだけんこれでよかよ」
このパワーが何なのか知りたくて触れたくてギター買って練習した。
そうするうちに不思議と何もかもがスッキリしていって。
気が付いたら家族ともうまく付き合えるようになってた。
このコとマコちゃんのギターに励まされてあたし勇気をだしてた気がする。
・・・自分のドキドキにまかせてともかく動くようになったの。
50. 上村:私も音楽好きなんですよ。けど、私歌うのが好きなんですよ。
よう歌ってたんですよ小さい頃。
歌手になるのが夢だったんですけどある日、お父ちゃんとお母ちゃんとの会話きいちゃって。
「あの子音痴やのに気付いてるのかな」ってそういう会話してたんです。
私それまで自分が音痴やってしらなかったからもうそれから人前で、歌うの嫌になった。
けど歌好きなんですよ。だから人がいないここで歌ってたんです。木に向かって。
ここやったら素直に歌えるし自分の思うままとっても楽しく歌えてすごく嬉しかった。
51. 加藤:今は歌は?
52. 上村:やっぱり気になって歌えないです。
53. 加藤:そっか。あたしもなりたいもんがあって。宝塚。
宝塚の音楽学校に入りたかって、けどなんか昔から
そんなこと言いだされへんかって。
ある日、将来の夢っていう作文を書かされて、そんとき初めて素直に
書いてみよっておもって、
それで、その作文が参観のときに読むことになって、あたしは
読むことのドキドキより、
素直に書いたことに対する嬉しいような複雑な気持ちで、すごく緊張してた。
それでその日家に帰ったらお母さんが怒ってて、なんで怒ってるか、
はじめは全然分からなくって。
そしたらお母さんが「すごい、恥ずかしかった」っていわれて。
あたし勉強とかできへん子やったし習いごととかも全然続かへん子やって、
さんざんお母さんに恥じかかしてきてたから、すごいもうしわけなくって。
あたしってすごく情けないなって。
だからあたし、ぼけーっとしてるのが好きで。何にも考えんと
誰のことも気にせんと。
54. 森本:今も宝塚すきですか?
55. 加藤:うん。
56. 森本:素直になるのってなんで難しいのかな?木をみてるのが好きでした。
遊ぶのも楽しかったです。この木が好きとかじゃなくってこの木があるのが嬉しかったです。
ここの花壇とかも好きでようきてたんですけど、なんかある日見上げてたら
この葉っぱが虫に喰われててすごい面白かったんですよ。   
ここにこんなんがあるんやって思うと嬉しくなって、そやから好きになったんですよ。
普段も人こないとこ好きやったし、夢中になって。
それだけでうれしかったんですよ。
でも、変なもん好きとかあんまり人のいないとこいこうすることとか
よくないんじゃないかって思いだしたんで、
そんなんやめようっておもったんですよ。
人と合わせるのとかすごい苦手やし、集団行動とかだめなんでつかれました。
やっぱりこういうとこ来ると、すごいホッとするし好きやなって思います。
58. 森本:見たらきっと好きになると思う。でもこの木ね、もうないんですよ。
だから見に行けないんですよ。
(木が薄れて消えていく)
59. 上村:消えていく。
60. 宮部:ない。
61. 森本:ほんまに。
62. 権野:何だったのこれ
63. 上村:でも、今日この木見れてよかったです。楽しく歌ってたのを思いだしまして。
今も心楽しいです。
64. 宮部:私もあの気持ちは一生の宝物なんやってわかった。あっ(道)
65. 権野:ちょっと。
66. 上村:どうしたんですか?
67. 宮部:あそこもやがはれてる。みえますよ。
68. 権野:何かみえる?
69. 宮部:私が住んでた町や。私、あちこち旅行してまわっててこれからどこへ行こうかって 
思ってたんです。もう一度あそこでやってみます。じゃあ。
70. 上村:消えちゃった。
71. 金崎:みえる。
72. 権野:えっ。
73. 金崎:会社の先輩待っとる。オレね、あのころから人信用でけへんようになったんかも。
自分の都合のいい人しか信用でけへんようになってた。もう一回ぶつかってきます。
74. 権野:あっ。
75. 上村:聞こえる。歌聞こえてきませんか?
76. 権野:何を?
77. 上村:聞こえますよ。やっぱり歌や。ママさんコーラスみたいやけどに参加してきます。
      お先です。
78. 森本:海の音ですよね。ほら、見えます。なんか青です。ヤシの実も。
家の中おっても退屈ですね。ちょっとつかってきます。じゃ。
79. 加藤:何もみえへんねんけど。
80. 権野:私にとって、あの木は私自身だったと思うの。あんな風になりたいと思ってたけど
本当は私があの木だった。
ただ自分の姿が見えなくて困っていただけ。みんな行きたいとこに気付いたのかな。     
実は私も見えてるんだけど。あそこなの。見えない?
81. 加藤:見えへん。
82. 権野:私ね、今家族とすごく楽しく暮らせるようになってたの。
もう、十分幸せだっておもってたはずなのに。なんかやっぱ違うなって。
83. 加藤:なんかみえるん?
84. 権野:うん。また家族のトラブルメーカーになっちゃいそう。
でも木と一緒にいたころ、あんなに好きなことに夢中になったら
最後はみんなわかってくれて。ねえ、見えない?
85. 加藤:自分の道は自分でみつけろってことですか?
あたしもう何もかもに対してやる気なくって。
何やってもうまくいかないんだろうなって。
やっぱりあたしは夢みてるだけで、情けないなって。
86. 権野:・・・あたしにとって、あの木はあたし自身だったと思うの。
あんなふうになりたいと思ってたけど、本当はあたしがあの木だった。
ただ自分の姿が見えなくて困ってただけなんだ。実は私も見えてる。あそこ・・・  
87. 加藤:見えへん。自分の道は自分で見つけろってこと。あたしもう何もかもに対しても
やる気なくって。何やってもうまくいかないんだろうなって。
やっぱり私は夢みてるだけで、情けないなって。
88. 権野:私だっていくじなしだよ。見えてるのに・・・
89. 加藤:よく分からないんですけれど、まっすぐな道がみえる。
いつまでもここにいてもしゃーないし。
もうちょっと自分のこと信用して自分の可能性を信用して行ってみようかな。
90. 権野:うん。私も行ってみようかな。あそこにいるのね、別れた男なのよ。
91. 加藤:行くんですか。
92. 権野:行くわ。やっぱ好きだからしゃーないもん。行ってから考える。行く
93. 加藤:行ってみますわ。何があるか分かれへんけど。
94. 権野:じゃあ、行こう。
95. 加藤:じゃあ。

    -END-


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