演劇に初めて出会う人達に対して、『俳優の基礎技術』を少しでも理解してもらう為、 第一期・第一講から第三講までを費やしました。 これからは基礎技術の具体的な練習に入っていきましょう。 まず集団の創造のために必要な組織的行動の理解を醸成します。 ■一人一人の行動の調律を目的に、アンサンブル体験を修得します。 集団による創造活動に不可欠な、基本的習性「アンサンブル」への理解と獲得をめざすのです。 与えられた課題を速やかに実行する[仕事の組織性]と[意志の訓練]、心と身体を積極的に集団の目的に 合理的な行動へと導く習性を獲得することを目指します。 ○注意点…内面的集中や組織力、協調、仲間との連帯感等、積極的に演技創造へ取組む心構えを求めます。 簡単な行動による組織性の獲得、同時性、速やかさ、静かさ、軽快さ、優美さ、正確さが求められます。 集団の中での役割の理解と的確な相互行動(コミュニケーション)を身につけて行くことを求めます。 |
★課題 アンサンブルの理解を行為から求めます。 ただなにも条件付けしないで、俳優達に椅子を並べて座るように求めます。 A 一列に並べる B ランダムに並べる C 舞台上のアクティングエリアを確保して並べる D 美しく静かに並べる E 美しく舞踊的に並べる(BGMなどをいれて) F なぜ、椅子を並べるのか、理由をつくり出して、(演技としてリアリティーを持って)椅子を並べる (課題の復習)(もし…ならばという状況設定、目的設定等) ○注意点…演劇のリアリティと現実とは全く異なる事を理解し、様々な異なった要素が集まって、 全体で一つの作品となることを理解するよう求めます。 ★応用課題 俳優や生徒達の好みの音楽に合わせて、歩くことから様々な行進や座る立つなど ダンスレベルまでのマスゲームを創作してみよう。 ■アイホールでは中間発表「公開稽古」で、このマスゲームを作品として発表しました。 群読と組み合わせたり、音楽を使ってダンス作品として、生徒の創意工夫を生かしたものとなった。 其の中で一番問題となったのが一人一人のテンポリズムの違いです。 生活環境や年齢、性別の違いから、一人一人の固有のテンポリズムが大きく異なります。 特に、全員で調和を保つマスゲームでは、その違いを克服していかなくてはなりません。 本来のアンサンブルは、其の違いを保ったまま調和を醸し出していくことが必要なのです。 |
マスゲームでは集団創造の修得を目的とする特殊なケースとして、テンポリズムを同調させることが求められます。 そこに自分のことだけではなく、他の人達とどうやって協調していくかを学習していきます。 また、他の人と自分との差違を認識して、自分から自分をどう変えていくかが問われています。 それに失敗したときには、どうやって皆でカバーしていくかを学んでいきます。 失敗するというのは当然のことですから、失敗しないようにというのは間違っています。 いつ、どこで誰が失敗しても誰もがカバーでき、立ち直れるように練習をしっかりすることが大切です。 |
★課題 ・詩や散文を全員でテンポリズム良く朗読します。 (草野心平詩集「蛙」より 1万年の誕生祭)蛙の詩を集めて、誕生と死・祭りと葬送・四季を感じる掌編にしました。 声を出さずに読んだり、他の合図で各パートの声が別々に輪唱のように朗詠されて行くような、 合唱の技術を生かした全員での朗読を求めました。 ●例題…草野心平「蛙の詩集」…北原白秋「祭り」・・群読 (大谷潔企画 岩崎正裕作構成) 「言い伝え・口伝え」等 |
■アイホールでは中間発表「公開稽古」で草野心平「蛙の詩集・誕生祭」などを詩劇として捉えて、 言葉と集団の動きが、それぞれ独自のメッセージを持つ手法で表現しました。 問題は、全員の動きの滑らかな統一感と、読む声の調和、顔の表情や様々な姿勢の美しさを醸し出すことにあります。 整然とした朗読というのではなく、ダンスのように起伏のある行動や朗詠に、俳優達の感情が反映することを目指しました。 |
呼吸・発声について、一人一人に最適な方法の発見を目的として学びましょう。 呼吸や発声は人間の感情、衝動、肉体の諸機能に大きな影響力を持ちます。 その為一人一人が自分の生理的条件にもっとも適した呼吸発声状態を把握できるように練習します。 ○注意点…呼吸法は一般に腹式・胸式の二種類があるとされています。 しかし充分な観察に基づけば子供や動物が身体全体を使って呼吸している事が分かります。 これを全体式呼吸と呼びます。 全体式呼吸(腹式・胸式)が幼児や動物に見られるのはそれが一番自然で健康的で合理的であるからです。 俳優の呼吸法は原則的に全体式呼吸(腹式・胸式)を身に付けるよう練習しましょう。 しかし人によっては日常的習慣となった呼吸ができない為に、身体が呼吸法として受け付けない事もあります。 過度の酸素欠乏や過多を招いて頭痛や胸痛、腹痛吐き気をもよおすこともあります。 そのため出来るだけ全体式呼吸法を習得できるようしつつ、俳優個々に適した呼吸法を、 俳優自身が発見できるよう訓練を続けていく必要があります。 ○注意点…発声は、俳優の心理的要因や肉体的要因によって個人差が大きいため、大きい声を出そうと無理をしたり、 ノドの炎症や不安感を招かないように注意する必要があります。 ■アイホールでは、十分な発声・発音練習はできませんでした。 アイホールでは誰に向かって話しかけるのか、何処まで声が届いていなければならないか、を体験的に学べました。 ホールを持った演劇学校として、アイホールは舞台を使った講義を度々実施して、稽古場ではつかみきれない空間の把握を 学ぶことができました。 |
[リラックス]リラックスは、もう誰もが大切だ感じている時代ですね。20年前までは、リラックスという言葉じたい、中々理解してもらえませんでした。 リラックスとは、心と身体のコンデションの「ある特殊な状態」を表現しているのですが、 演技創造では、筋肉の抑圧の克服に必要な技術として、訓練していきます。 筋肉の抑圧の克服とは、緊張しているときに一番現われやすい症状、無意識の筋肉の興奮やこわばりを 解消することと考えてください。 リラックス訓練の目的は、脱力して、全く力を抜いてしまう訓練では有りません。 演技の創造・ヴィジョンやイメージの想像に、障碍となるものを排除したコンデションと捉えましょう。 問題は、筋肉や心のこわばりが、自分の思いのままにならない『緊張』という現実なのです。 これをなんとかしようと試みるのがリラックスの技術修得です。 ●筋肉の抑圧の克服(初歩のリラクゼーション)を目的に、身体のコントロールを可能とする基本的習性の獲得を目指します。 心身を積極的に合理的な行動へと導く習慣を身につけるためにも、心理的緊張による肉体の緊張を防止する手法を発見し、 思わぬ事態による心身の緊張から素早く抜け出せる手法を獲得する必要があります。 ○注意点…少しずつ前進するつもりで、注意深く内面的集中力と克己心の醸成を計っていきましょう。 一度に長時間続ける事の無いように気をつけましょう。其の中で、積極的に演技創造へ取組む姿勢を獲得していきましょう。 |
【特別解説】 リラックス・交感神経と副交感神経 |
Exercise・[リラックス体験]★課題床に「大の字」に寝て、筋肉の「コリ」や「こわばり」、余分な「リキミ」や無意識の「収縮」を 自分の中に発見しましょう。 (1)足の脱力……仰向けに寝て、足から力を抜く。 力を一杯にいれたり抜いたりしながら、より沢山力を抜いていくように。 点検…膝を上から押さえて足を持ち上げる。足裏が床をすべるようになる。 そのまま膝を回転させると、力が入っていた場合は抵抗感が生じる。 (2)腕の脱力……肩から両腕が、水の袋のようにぶらさがっているように力を抜く。 力を一杯にいれたり抜いたりしながら、より沢山力を抜いていくように。 点検…指先をつまんでゆっくり持ち上げる。力が入っていた場合は抵抗感が生じる。 肘を支えて手首を持ち上げてまわす。力が入っていた場合は抵抗感が生じる。 ○注意点…練習のリズムは呼吸のリズムと一致させるように気をつける事。 全身の筋肉に力がはいっていない状態を把握するようにします。 [顔の表情・首、肩・両手・背中・足、膝など]に余分な力が入り易いので、注意が必要です。 ●自分がリラックスしている状態を、自分自身記憶する事を目的に[リラックス・緊張の緩和]の方法を修得します。 リラックスはあらゆる人間の創造的作業にとって、必須の基本となるコンデションです。 リラックスの無い所に、自由なのびのびとした発想も行動もありません。 その為リラックスの課題は、自分の心と体の状態が今どのような状態なのかを把握し、余分な緊張や抑圧から どのように自分を解放していくかを自分自身で発見する、ただそれだけの事です。 また、自分のリラックスしている状態を記憶し、それと異なるコンデションの自分をより素早く発見する能力の獲得でもあります。 リラックスの技術は、筋肉の解放や脱力、緊張からの解放と呼ばれているものですが、ここでは心と身体のバランスのための、 自分自身のコントロール技術として修得します。 リラックスは、座禅のように『無』になることではありません。 自分自身の中の、今まで気がつかなかった筋肉の緊張(コリやストレス等も含む)や日常的な無意識の緊張を、 積極的に解放することです。 より自分自身を知るためのテクニックであり、普段の生活の中に生かし続けて欲しいと思います。 |
Exercise・[リラクゼーション]軽いリラックスは、椅子の上でも立ってでも出来ます。深い呼吸の調節で力を抜いて穏やかな心の状態、パッシブ(受け身・受動的)な心の状態を作りだせれば良いのです。 稽古場や自宅で恥ずかしさを感じない状態で、椅子に座って力を抜いていきます。 身体が左右対照にならないように気をつけます。 そしてゆっくりと片足づつ膝から上げて日常的な動きにならないように気を付けながら、動かし続けて力を抜いていきます。 必ず一つづつゆっくり動かすことに注意します。 リラックスの深度が深まると「身体を動かすのが面倒になる」「周囲との関わりが感じられなくなる」 逆に「周囲が気になり過ぎる」「身体に痛みが生じる」などの障害が生じます。 この状態を乗り切るには、克己心が必要です。 自分の集中が脇道にそれてしまった時には強く息を吐き出したり、大きな声を出して集中を取り戻す必要があります。 体が痛むときは、課題を中断して痛みがなくなってからリラックスを継続して下さい。 更にリラックスが深まると怒りや悲しみ、あるいは自分でもわけの分からない感情がこみ上げてくる事があります。 そのような時にはその感情を吐き出す努力をします。 座っていた椅子を殴りつけ、何か大声で叫んでもかまいません。 ただ、感情に浸りきることだけは避けなければなりません。感情の沸騰が落ち着いたら、またリラックスを継続します。 |
俳優の緊張は人に見られる、舞台に立つことから始まります。つまり立っている時に緊張してい.場合が多いのです。 舞台上で、普通に歩くことや、立っていることだけで、リラックス時のコンデションを取り戻せたらと 「スタンディングリラクゼーション」の手法を考案しました。 ○注意点… リラックスできている状態を記憶して行くことが大切です。 緊張し易い状況で、自分のコンデションが、緊張しているのかリラックスしているのか、 SRをつかって理解し、緊張から素早く解放されることが大切です。 Exercise・[スタンディングリラクゼーション](SR)★課題……立ったまま、呼吸に気を付けながら立っていられるだけの力を残して、力を抜いていきます。 足を肩幅に開いて膝をゆるめ(膝の力を抜いて軽く曲げた状態)、頭や胴体がしっかり腰に乗って、背筋がのび、 体重が足の裏できっちりと感じられるように直立し、目を閉じ、全身の平静な状態を長呼吸によって作っていきます。 そのままゆっくりと両腕から力を抜いて、指先から手首、肘、肩背中及び胸まで、立っていられるだけの力を残して脱力していきます。 力が十分に抜け切らない時には、両腕を肩に水平に上げ脱力してゆき、腕の重さを確認しつつ両脇に下ろして行くようにします。 頭、首、背骨が確実に腰にのっていることを確認する。 更に顔面の緊張を取る為、様々な表情(顔の筋肉を動かし、大きく口を開けたり、すぼめたりして)をつくったり、 緊張している部分(顔・首筋・両腕・背中・足の裏)を点検していきます。 力の脱力具合が判らない時は、力を強く入れてまた抜くということを繰り返します。 また腕、肩、胸など、身体の部分に注目して、部分毎にゆっくりと動かして脱力します。 身体を動かさずにいると凍りついた状態になって、脱力状態が判断できない状態に陥ることが多いので、 常に身体の一部分が動いていることが必要です。 ○注意点… 1.心理的緊張の現れやすい部分[顔面][腹][肩][手][膝]の緊張具合を確認する事が大切です。 2.俳優がリラックスの訓練の中で、感情的な衝動や解放しきれない緊張に襲われた時は、 大きい声やジブリッシュ(感情音声)によって感情の吐き出しを求めます。 此の状態からは、素早い指示をもって俳優の混乱を解消することが必要です。 |
[トワレット} {スタンディングリラクゼーション] |
■アイホールでは、リラックスが理解できたら、SRの手法を重点的に、毎レッスン繰り返し行います。 リラックスできる能力は、リラックスしていない自分の発見と、リラックスする手法の修得にかかっています。 ですから日常的にリラックスする事が必要ですし、リラックスすることが癖にならなければなりません。 またリラックスするのに時間や場所を選ぶこともできません。 どこでも瞬間的にリラックスできる力が必要です。 そのため、立ったままリラックスするという、日本のメソッドらしい東洋的な手法を開発したのです。 アイホールでは、スタンディングリラクゼーションは大変簡単でありまた難しいものとなりました。 スタンディングでリラックスできていると思うことは簡単なのです。 しかし床や椅子の時以上にリラックスするためには、安定した正しい姿勢と、凍り付かない(現状に甘んじない) 克己心が必要です。 安定した姿勢を把握する事は、O脚やX脚、猫背の解消や骨盤の傾きの確認を必要とする為、それなりの筋力が必要です。 更に正しく立つためには、バランスなど注意の集中が必要です。 その過程では、当然痛みや筋肉の緊張が発生します。 それを克服して安定した姿勢を保てるようになった時、リラックス修得のための注意の集中ができるようになります。 リラックスと単なる脱力とを混同することなく、緊張している自分の発見と緊張から脱っする自分だけの方法の開発が必要なのです。 スタンディングリラクゼーションは、歩行姿勢と同様に、俳優に新しい自分創造の努力を強いていくのです。 |
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