おばけがっせん

作  遠賀香月(おんがかつき)


 小さな山が、いくえにも重なり、山はみどりにおおわれ、とてもきれいです。その山の木がおいしげっている暗い中に、一本のけもの道がありました。
 夏の日がおちて、すずしくなつた夕方、岩のあなぐらから出てきたタヌキが、けものみちをあるいていると、キツネとばったりであいました。
 タヌキがさきに。
「キツネさん、どこにおでかけですか?」といい、つづいて
「どうじゃね、どちらがばけるのがじょうずか、あそんでみませんか?」
 キツネは、びっくりしましたが、キツネもばけるのに、じしんがありましたので。
「いいよ、どちらがかつかやってみよう。」と、こたえました。
 そこでタヌキは。
「それじや、どちらがじょうずか、しんぱんをだれかにたのもう。」
 と、いって、タヌキとキツネは、しばらくかんがえていました。
 タヌキが、
「ああ、そうだ。それはフクロウさんがいいだろう。」と、いいました。
 キツネも、
「うん、そうだね、フクロウさんなら大きな目をしているし、それに首もよくまわるから、まちがいない。」と、いって、フクロウをいっしよに、さがすことにしました。
 ほうぼうの木を、たずねあるきまわってるうち、ようやく大きな木の、上のほうのあなの中で、ひるねしている、フクロウをみつけました。
 さっそくフクロウに、タヌキがおおごえで。「フクロウさん、フクロウさん、もうすぐよるですよ、おきてください、おねがいがあるんだが。」と、きもちよさそうにねていた、フクロウをおこしました。
 ねむそうなかおをして、フクロウは。
「なんのようじやね。」
 こんどは、キツネが。
「タヌキさんと、ばかしあいするのだが、どちらがじょうずか、みてくれませんか。」と、 おねがいしました。  フクロウは。
「ひるはだめだよ、ひるねのじかんだから、よるでよければいいよ。」と、いってくれました。
 タヌキとキツネは、よろこんで、フクロウといっしょに、そうだんをしました。
 そして十五夜のばん、むこうの高い山の上に、あつまることをきめました。
 三日月もだんだん、まるく大きくなって、とうとう、十五夜のまん月の、きれいなばんがやってきました。
 タヌキと、キツネと、フクロウもきました。 そしてこのうわさをきいた、ほかのけものも、どこからともなく、おおぜいあっまってきました。
 フクロウが。
「では、だれがさいしょにばけるか、ジヤケンできめよう。」と、いいだしました。
 タヌキとキツネは、ジャンケンをして、タヌキがまけて、さいしょにばけることになりました。
 タヌキは。
「では、さきにばけるよ、ウニャ、ウニャ、・・・・」と、いって、タヌキはりっぱで、おおきな“チャガマ“にばけました。
「これでどうじゃ。」と、いいました。
 キツネはたいそうりっぱな”チャガマ”に、 かんしんしていました。
 こんどはキツネのばんです。
「よし、それではこれでどうじゃ。ウニャ、ウニャ、・・・・」と、火にばけて、タヌキがばけた”チャガマ”の下に、もぐりこみました。
 タヌキは下の方が、だんだんあたたかくなって、きもちよくなりました。
 タヌキは。
「これはいいきぶんだ。」と、いっていましたが、火はどんどんもえてくるばかりで、あつくなってきました。
 じっとがまんをしていましたが、とてもあつくてやけどしそうになり、とうとうがまんができなくなって。
「あっつ。」と、いってとびあがりました。 キツネは。
「どうじゃね、こっちのかちどろう。」と、ほこらしげにいいました。
 これをみていた、フクロウは。
「しょうぶあった、キツネさんのかち。」と、ぐんばいをキツネにあげました。
 けんぶつの、ほかのどうぶつたちは。
「ハァ、ハァ、ハァ、・・」と、はらをかかえてわらい、おもしろくて、てを。
「パチ、パチ、パチ、・・」と、たたいてよろこびました。
 そしてフクロウは。
「こんどはキツネさんのばんだ。」と、いいました。
 キツネは。
「では、タヌキさんばけますよ。ウニャ、ウニャ・・」といって、”はなよめ”にばけました。
「どうだね、きれいだろう。」と、いってじまんしました。
 こんどはタヌキのばんです。
 タヌキは。
「これはりっぱな”はなよめ”だ。」と、いって、しばらくかんがえていましたが。
「ウニャ、ウニャ・・・」と、いうと。
“とっくり”にばけ、水をいっぱいいれ、キツネの、”はなよめ”の上から、ざあざあと水をかぶせました。
 せっかくきれいにした、けしょうも、きものも、びしょびしょにぬれ、あまりさむくてかぜを、ひきそうになりました。
 キツネは。
「やめてくれ!やめてくれ!タヌキさんまけました。」と、こうさんしました。
 これをみたフクロウは、おおごえで。
「タヌキさんのかち。」と、ぐんばいをタヌキにあげました。
 また、けんぶつのどうぶつたちは。
「ハァ、ハァ、ハァ・・」と、わらい、おもしろくて、おどるものもいました。
「パチ、パチ、パチ、・・」と、てをたたいて、ほめました。
 そして、フクロウは。
「これで一たい一で、しょうぶなしだ。」と、えがおで、さけびました。
 タヌキは。
「もういちど、やってみようよ。」と、いいだしましたが、フクロウは。
「そんなにあらそうことはない。」そして、「それでは、こんどはおとを、だしあってみないか。にぎやかになるだろう。」と、いいだしました。
 タヌキとキツネは、さんせいしました。
 フクロウは。
「では、こんどはキツネさんが、さきにはじめてください。」
 キツネは、のどをはりあげ、「コン、コン、コン、・・・」と、いっしょうけんめいに、なきはじめました。けんぶつにきていた、キツネの子どもたちも、おもしろくなつて、いっしょになきはじめました。
 これをみていたフクロウは。
「では、タヌキさんもどうぞ。」
 タヌキは、おなかを大きくふくらませ、「ポン、ポン、ポン、・・・」と、たたきはじめました。
 こちらも子ダヌキが、よろこんで、おなかをいっしょに、うちはじめました。
 けんぶつの、いのししや、しかやなども、はねまわって、しずかなもりは、おおにぎわいです。
 フクロウは、じっとこれをきいていたが、「タヌキさん、キツネさん、このしょうぶも、ひきわけだ。」
 そして、そばの木にのぼり、タヌキをはじめ、みんなのどうぶつにむかって。
「こんやのように、山のどうぶつは、大しぜんのなかで、みんななかよく、くらしましょう。
 では、わたしのやくめは、おわったのでかえります。みんなげんきでなあ!」と、いって。
「ホウ、ホウ、ホウ、・・・」と、みながびっくりするようなこえが、山々にひびき、フクロウは、むこうの山にとんで、きえていきました。



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この物語の著作権は遠賀香月が所有します。
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