ヘンデル:「メサイア」

延原武春指揮、テレマン・アンサンブル
11月4日 紀尾井ホール




私の記憶が確かならば、かつて日本でも、年末に「メサイア」がかなり演奏されたことがあったはず。都響は森正の頃、毎年12月に必ず「メサイア」をやっていた。それがいつの間にやらベートーベンの9番一辺倒になってしまって、しかもママさんパパさんコーラスやらが大流行で、どうしようもない切符を買わされたりして・・・まあですから、12月はなるべく人と会わないようにしております。

ん、ナニ言ってんだ。別に12月ってわけじゃないけど、本当に久しぶり(4年ぶりぐらいかニャー)に「メサイア」を聴きました。本日の演奏にはわざわざダブリン版と添え書きがしてあったんですが、これはダブリンでの初演の版を使っているという意味でしょう。なにやらシンポジウムもあったらしいですが(デデは出席しなかった)、「メサイア」の版の違いは、ヘンデルの生前、実演に際して使える歌手の顔ぶれを見て、アリアにちょこっと手直しを入れる(大抵は移調するだけ)ことが多かったためではないでしょうか。「棄児養育院」版だとかなにやらもっともらしいタイトルが付く場合がありますけど、本質的にはあまり変わらない。ただ、ソプラノのアリア(ダブリン版では16番)の“Rejoice, rejoice”のリズムが多少変わっているとか・・・

さて当日の演奏ですが、コーラスが23人、オケは上から3・3・2・2・1+チェンバロという布陣。そうちょうど10年前にコープマンとザ・シックスティーンという16人の合唱団がやったのとほぼ同じ編成です。たぶんダブリンでの初演も似たり寄ったりの人数だったんでしょう。序曲はなかなか音のふくらみがあってこれはイケルかニャーと思ったのですが、テノールのレチタティーヴォからアリア“Every Valley”と来て、「ん?」という感じ。何が悪いというわけではないんですが、迫力がない。すごくきれいな声だと思うんですが、なんだか箱庭的・盆栽的。そう、アマチュアがきれいにきれいにミスしないように歌っているわけですね。声量が不足しているのは致し方ないにしても、個性があまりにもない。歌詞の英語の意味を理解しているんだろうかと疑いたくなるほど、平板な歌い口なんですね。ついでに言うと(これは日本人の歌手に関して常に指摘されることですが)、あまりにも子音が弱すぎる。きれいに歌おうとする意識が強すぎるために、歌詞の内容を語ろうとしないんですニャ。

独唱者がこうだと、合唱も推して知るべし。事実ソプラノのソロを除いて、他の人たちは合唱団員も務めていました。ヘンデルは声楽を扱うことにかけては超一級の作曲家でしたから、音と言葉が実にうまく一体化する音楽を書いているわけです。“Wonderful, Counsellor, the Mighty God, the Everlasting Father, the King of Kings”は第一部の前半の山場。この弾むような喜びの合唱がなんともベタベタした、締まりのない歌い方になってしまったのは大変残念。ここらあたりから、オケの方もちょっと怪しげになってきて、どうも音が揃わない。ヘンデルは転調の名人でもあるわけで、細かい転調の音のヒダが合わないとなんともグロテスクな音に聞こえてくるわけです。

ところが、ところがですニャー、あーあ、こりゃー来るんじゃなかったなんて考え始めていたころ、ハレルヤ・コーラスになったんですね。ここで、トランペットとティンパニ奏者が颯爽と登場したわけです。これがすばらしかったあ!!!ハレルヤのトランペットはかなり難しいんじゃないかと思うんですが、見事に吹ききってましたニャー。バロックのトランペットは現代の楽器とは全く別のモノで、見た目は現代のトロンボーンに近いでしょうか。もちろん現代のトランペットのようなバルブやピストンは付いていません。高次倍音のところで音階が吹けるようになるわけで、現代の楽器よりもかなり柄がでかい割には、すごく甲高い音が出る楽器です。モダンのオケで「メサイア」をやると、ピッコロトランペット(コルネットとは違うのかニャー?)というちっちゃな楽器を使うんですが、それでもかなり大変な曲。10数年前でしょうか。Nキョの団員がバッハのブランデンブルクをやったことがあるのですが、その時の余興でバロックのトランペットを団員が吹いておりました。それはもう、何ともうしましょうか・・・まあ、こんなものはおよそ実用にはならないニャーと思ったものですが、ほんとにわずかな間に日本でも名人が出現したものです。ジョージ一世ならずとも、思わず感動のあまり立ち上がりたくなるような素晴らしい出来でした。

トランペットは第3部でも活躍します。その名もズバリ、“The Trumpet shall Sound”。この曲も難曲中の難曲。この長大なソロも肩の力を抜いて、しかも豪華な音色で楽しませてくれました。そう、しゃれた装飾まで入って、むむ、おぬしできるニャ。トランペットには付き物のティンパニもリズム感が軽やかで、キレがよく、引き締まった音で、毅然とした演奏。

「ハレルヤ」と「ラッパが鳴りて」を聴いただけで今日の演奏会は大満足。ちなみにトランペットは横田健徳、ティンパニは河野佳代子とプログラムにありました。本日の演奏会の救世主は、ラッパとタイコでありました。



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