ストルツマンの世界 6月1日 文化村
ギター/渡辺香津美、キーボード/ジェレミー・ウォール、ハープ/安楽真理子、ベース/井野信義、写真/ジョン・ピアソン
ガンバ:渋谷は久しぶりだけど、何だかすっかり変わっちゃったわね。
CoCo:何でこんなに人が多いんだ。それもガキばっか。う、いてっ。こら〜、人の尻尾を踏んだら挨拶ぐらいしろよ。
デデ:こぎれいにしようってえのはいいんだけど、何だかいつも工事中だなあ。
ブチッケ:あっしゃあこぎれいにしようってえ了見が好かないね。「らんぶる」なんかは、薄汚くて、ニンニク臭くて、薄暗い路地の奥にあったから、怪しい「アヘン窟」の雰囲気が漂ってて良かったんだけど、今時の「らんぶる」は健康的すぎて・・・デパート帰りのオバタリアンがだべってたりして、まるで環境がなっとらん。
(終演後、「龍の髭」にて)
D:渋谷っていえばやっぱり「龍の髭」。ボクは「麗郷」より好きだな。
C:この前に昔「武満柳」があったよね。
B:あったあった。NHKで武満の新作かなんか聴くと、必ず本人の挨拶があったりして・・・それからぶらぶら井の頭通りを抜けてここまで来ると、彼にそっくりな柳が立って挨拶していた。いつ切られちゃったんだっけ。
C:いつ頃かなあ。もう十年以上になるよね。でもこっちのセンター街寄りの方は、ガキばっかだニャ。
G:道玄坂小路や百軒店の方も同じよ。
D:ところで各々方、今日の音楽会楽しかったニャー。
G:そうそう、それが本題じゃない。デデったら前置きが長いんだから。亡くなったベニー・グッドマンの十八番は何たって“Memories of You”、そんでもってストルツマンの十八番は、これも何たって“Amazing Grace”。てなわけで客電が落ちて真っ暗になった通路から、深く息を吸ってロングトーンをするようにゆったりとしたテンポで“Amazing Grace”を吹きながらストルツマンが登場。低音のまろやかで深い音が印象的だったわ。
C:みんなの注目がストルツマンの方に行っている裏で、ステージ上のジェレミー・ウォールが素敵なシンセを聴かせていたね。
D:えーと、前半はまず、映画音楽のムード・ミュージック風のアレンジもの。「ニュー・シネマ・パラダイス」、「ピアノ・レッスン」、「めぐり逢えたら」それに「A Room with a View」って言ってたから、「眺めのいい部屋」かな。だけどこれはプッチーニの「ジャンニ・スキッキ」の“私のお父さん”だよね。
B:あの映画はきれいだったなあ。「ジャンニ・スキッキ」の方は見たことないけど、「眺めのいい部屋」の音楽がフィレンツェのやけに明るくて乾いた風景とすごくとけあっていたと思うんだな。確か「ハワーズ・エンド」がアカデミー賞だったと思うけど、あっしは「眺めのいい部屋」の方が好きですな。
C:そういえば、「いつか晴れた日に」だっけ?今日封切りだってね。
G:わあ、見たい。
D:映画音楽の後は、ハープの安楽真理子とデュエットでドビュッシーの「第二アラベスク」と「亜麻色の髪の乙女」、ハープのソロでサルツェードって人の曲、デュエットでプーランクの「常動曲」、それから全員で「雨に歌えば」。
G:あのハープのお姉さん、初めて聴く人だったけどすごく乗りがいい人ね。けっこうストルツマンと丁々発止とやってる。
D:ストルツマンと同じクラシック畠の人で、今はメトのオケのメンバーらしいけど、ジャズの連中に混じってもなかなかビートの利いた演奏していたよね。
C:ビートって言えば渡辺香津美はよかったね。もともとすごくテクニシャンだけど、今日はストルツマンと楽器で話をしていたみたい。「ふむふむ、そう来たか、それじゃ私はこう行きましょう」って感じ。特にボサノバやサンバのビートが利いてたね。
G:ベースのおじさんも地味だったけど粋なリフを聴かせたりして。
D:それからストルツマンが連れてくるピアノ弾きってみんなすごいね。ビル・ダグラスとかリチャード・グードとか。今回一緒に来たジェレミー・ウォールって人は、レコードではいつも共演しているけど、実演で聴くのは初めてだったね。
B:経歴見るとフュージョン系のバンドの奏者だったりプロデューサーだったりしているけど、すごく基礎のしっかりした人みたい。PA通しているから断言できないけど、ピアノの音も繊細な人と見ましたな。
D:休憩の後が今日のお目当て、ライヒの「ニューヨーク・カウンターポイント」。これはどうだった?ガンバのお気に入りだよね。
G:うん。それにストルツマンも大好きな曲でしょ。日本でもこれやるの3回目かな。で、今回はクラリネット奏者を10人調達できなかったのかどうか、バック・コーラスは自分で吹き込んだテープ。いつかのカザルスホールでやったときもテープを使ったよね。今日の3曲目だっけ、ピアノ・レッスンはナイマンの曲よね。同じミニマルでもナイマンよりライヒがずっと面白い。ってのは、きっと書き込みがうんと細かいんだわ。
B:ナイマンは雑?
G:そう。ミニマルってカテゴリーで括っても全然おもしろさが違うのよね。で、そうした細かい綾って言うか、ひだって言うのか、そこら辺の表現の仕方がストルツマンは抜群に上手なのよね。テープをバックに使うと、生で吹いているストルツマンが突出してしまうような気がするけど、目をつぶって聴いていると、11本のクラリネットがとけあって、お互いにリードし合い、フォローし合う関係が良くわかったわ。
D:後半の2曲目が渡辺香津美のソロ。3曲目がストルツマンとのデュエット。そのあとまた全員で、“Blue Monk”、“Straight No Chaser”、“In a Sentimental Mood”。ステージ上の配置は、上手側からギター、ベース、キーボード、一番下手にハープ。一応ストルツマンの席が中央にあるんだけど、ほとんど座らなかったよね。
C:そうそう。とくにスタンダードだとリフ毎にソロを取る人のところに歩み寄って、頷いたり微笑んだり。文化村の広いステージの上をあっち行ったり、こっち行ったり。
B:後半はやっぱり、エリントンが良かったかな。この「センチな気分」ってやつ、トミードーシーのバンドのテーマじゃなかったっけ?
D:その通り。
B:あっしは、こういったスイング感のあるジャズが好きですな。どうも70年代以降の、なんつうのか、ヒュージョンっていうやつ苦手ですな。
D:フュージョンだよ。そういえば昨日のFIFAの共催決定を受けて、日本のさる招致委員が記者会見していたけど、この人もともとFが発音できなかったはずなのに、にわか勉強でもしたのか、きのうはちゃんとフィー・ファーって言ってたなあ。昔よくサッカーの解説で、「あれはハールですよ」なんてノタモウておったが。
B:悪かったニャ!こちとら、江戸っ子だい。自慢じゃねえが、「ひ」と「し」の区別はつかねえんだ。
G:ちゃんと言えるじゃない。
B:うるせえ。まあようするに、チック・コリアあたりからジャズがつまんなくなっちまったつうことを言いてえわけだ。わかったかべらんめえ。
G:わかったわよ。確かにそうね。リヴァーサイドとかブルーノートとか言ってた時代のジャズってすごく演奏者の温もりって言うのか、暖かさがあったけど、やたら電気楽器を使って無機的な音でしかも大音響で鳴らすようになって、つまんなくなっちゃったわね。
B:それが言いたかったんじゃ。
D:プログラムはあと三曲あって、武満の「死んだ男の残したものは」、ビル・ダグラスの“Begin Sweet World”、“Feast”。武満のは彼のポップスの方の作品。まああまり面白いってもんじゃない。それに対して、ビル・ダグラス作品はすごく面白かった。この人はきれいなメロディーを書ける上に、リズムがすごく新鮮だね。いつだったかストルツマンと二人で、“Bebop Etude No.11”とかいう人をくったような曲をやったけど、あれもリズムがとても面白かった。
C:アンコールの2曲目がよかったね。1曲目が「ライオンキング」、で2曲目が“Londonderry Air”。アイルランド民謡だけど、ジャズのスタンダードだよね。
G:あれすごかった。渡辺香津美とのデュエットで。ストルツマンがギターの足元に跪くような姿勢で吹き始めて、それにギターが寄り添ってくる。つかず離れず、お互いに楽器でおしゃべりを楽しんでいたみたい。
D:でも、一つだけ話が通じていなかった。ひとしきり二人で盛り上がって、これで終わりって感じで、客の拍手もおこったとき、ギターが大まじめにもとのメロディーのリフを始めちゃって、これにはストルツマンも思わず「プフッ」っと吹いちゃったね。
G:で、結局盛り上がって終わりじゃなくて、すごく静かな終わり方だった。あれすごく心にしみいるようなエンディングだったわ。
D:結果的にそうなっちゃったんだろうけど、面白かったニャー。