思えば遠くへ来たもんだ
(モンテヴェルディのマドリガル二題)

デデで〜す。突然ですが、ナディア・ブーランジェってご存じ?知ってる人は知ってる。知らない人は知らない。あ、そう。それじゃ。(おいおい、終っちまうぜ。)

経歴:フランス人、1887〜1979(←ずいぶん長生き。猫も“A cat has nine lives”なんて言うけど)。フォーレ、ヴィドール、ヴィエルヌに師事。作曲家、オルガニスト、ピアニスト。パリ・エコール・ノルマル、フォンテンブロー音楽院、パリ音楽院などで教鞭をとる。

ここまでは、そんな人、いかにもいそうだなって思う。ところがその教鞭とやらでムチ打たれた人たちが、すごいん駄ニャ、これが。作曲家のコープランド、作曲家兼指揮者で日本にもお馴染みのマルケヴィッチ、ピアニストではリパッティ、それに今をときめくガーディナー・・・数えだすと、オレもオレも、オレー・オレ・オレ・オレー、って感じでまだまだ出てきそう。一体何を教えていたんじゃ、この婆さん?



(CoCoがチェンバロを調律しています・・・)
ツンコロ、ツンコロ・・・

(一時間後、やっと調律が終わり、弾きながら歌い始めます。)
ジャラ〜ン

CoCo:オイメー、ボクのいとしい紅マグロ〜ちゃ〜ん♪♪♪

ガンバ:やめなさい。ったく〜。タクアンが腐るよ。ほらもうこんなに酸っぱくなっちゃってる。バリバリ、ボリボリ。

C:オイメー、どこへ行っちゃったの!

G:やめなさい!!!ブチッケが怒り出すよ。(←ブチッケはアタゴオルで一番耳が敏感な猫です)

ブチッケ:今晩は。ブチッケでーす。ウー、ウー、ワオ、フギャー。何の音じゃ。

C:紅マグロちゃんの歌を・・・

B:馬鹿たれ!そんなもん歌じゃないわ。ところでちょっと面白いCDを見つけたんだが、一緒に聴いてみないか。モンテヴェルディのマドリガルが入ってる。ナディア・ブーランジェ指揮+通奏低音、1937年録音というもんだが(Pearl, GEMM CD 9994)。

G:ワーッ、ブチッケったらえらく古いもん見つけてきたわね。

B:まあ、ものは試しってことで。(ブチッケはCDをセット。音楽が流れ始めます。)

G:あら、まあ、おやおや。(目を白黒)

C:音が悪いのは仕方ないとして、今の演奏とは全然違うね。まずチェンバロじゃなくてピアノを使ってる。テンポもずいぶんとゆったりした感じ。ビートも弱い。

B:でもこの演奏は、モンテヴェルディの蘇演と言われているものらしい。“a musical and recording milestone, a revelation”ってジャケットには書いてある。

G:確か、第一次大戦でハプスプルク王朝が倒れて、ウィーンの宮廷からモンテヴェルディの失われたオペラ、『ウリッセの帰還』の譜面が発見されたのが1920年頃だったかしら。そんなこともあって、ごく一部でしょうけど、モンテヴェルディって実験的にというか研究的に、演奏されてたらしいわね。

C:でもこの演奏は学問的って感じとはちょっと違うね。ずいぶんロマンチックによく歌ってる。

B:そう、今時の演奏とは全然違うけど、モンテヴェルディのオペラ的性格っていうのか、劇的な側面を出そうとしている意図は感じられるね。テンポの変化とか、cresc./dim.の付け方なんか。

G:うん。現代の演奏の原型ってとこかな。ここでやってることを、大胆に推し進めたのが、現代のモンテヴェルディの演奏になっているんじゃないかしら。

C:そうかなあ???それはそうと、モンテヴェルディのCD、一枚だけ聴くとしたらどれがいい、なんてよく聞かれるよね。

B:それはもう決まっとります。マッギガンの指揮で、カペラ・サヴァリアの演奏してるやつ(フンガロトン、HCD 12952)。

G:そうそう、そうよね。ギー様が歌ってるし(と、うっとりした目つき)。

B:グイ・デ・メイとかギ・ド・メとかギー・ド・メーとか、日本語で書くとなんだか変な名前だけど、すごくいい声だねえ。

C:この声があって、モンテヴェルディが現代に甦ったって感じ。

G:モンテヴェルディのマドリガーレで面白いのは、何たって後期の7巻から9巻よね。このレコードはその中から特に名曲ばかりを選んでる。

B:そう、初期のは合唱曲って感じが強いけど、後期になると通奏低音を使って、モノディー様式っていうのか、歌の方も語りの要素が強くなってくる。まさにルネサンスからバロックに突入ってとこかな。

G:その究極の語りが『タンクレディとクロリンダの戦い』。すごいね。「講釈師見てきたような嘘を言い」なんていうけど、ここのギー様は講釈師顔負けね。

C:これは、詩人タッソーが乗り移ってます。タンクレディとクロリンダの必死の戦いの情景に合わせて、音楽も時々刻々変化していく。時に叙情的、時に叙事詩的、激しく、優しく、歓喜、悲嘆、マッギガンのチェンバロを始めとして、音楽の作りもすばらしいよね。

G:タッソーが乗り移っているっていうより、もっとすごい。モンテヴェルディとギー様の勝利よ。ブーランジェの頃からすると、ずいぶん遠くまで来たもんねえ。

B:タンクレディもいいんだけど、これを聴くとちょっと疲れちゃう。ボクは『西風が戻り』とか『すてきな羊飼い』、『ニンフの嘆き』なんかが好きだなあ。よく言われることだけど、この頃の宮廷には田園趣味って言うやつがあったでしょう。

G:そうそう、自然やら田園やらを桃源郷みたいにやたらと理想化して歌うやつね。羊飼いやら、ニンフやら少女趣味よね。牧歌劇とかいっちゃって。

C:まあまあ。そこまで言わなくても。要は音楽の問題だよ。

G:いや、詩です。

C:音楽だ。

B:まあまあ、夫婦喧嘩は犬も喰わないって言うじゃないか。いい加減やめろよ。「音楽が先か、言葉が先か」って問題は永遠のテーマだけど。それにしても、このタクアン、酸っぱいなあ。バリバリ・・・



ギ・ド・メイ(Guy de Mey)ベルキー生まれのテノール。古楽の好きな人だったら、数年前「東京の夏音楽祭」でルネ・ヤーコプスとコンチェルト・ヴォカーレが『ウリッセの帰還』を上演した際、イーロを歌って一場をかっさらってしまった歌手って言えば思い出してくれるかな。主役のプレガルディエンとフィンクより大きな喝采を浴びていた(と思う)。あの時の「自殺のモノローグ」すごかったニャー。実はその数日前に、上野の石橋メモリアルで、『タンクレディ』を歌ったんだけど、これがまた、鬼気迫る名演。

ギー様のレコードは、コンチェルト・ヴォカーレと共演したものがハルモニア・ムンディ・フランスからでているほか、サヴァールのところの『ヴェスプロ』、ベルギーのリセルカールからでている『ドイツ・カンタータ全集』などたくさんあるよ。現在進行中のトン・コープマン指揮のバッハ・カンタータ全集でも、プレガルディエンと交替で歌ってる。これから楽しみだニャ。(デデ)


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