武満徹:カトレーンII
武満徹:ビトゥイーン・タイズ
メシアン:世の終わりのための四重奏曲
クラリネット:リチャード・ストルツマン
ヴァイオリン:パメラ・フランク
チェロ:ヨーヨー・マ
ピアノ:ピーター・ゼルキン
9月30日 東京オペラシティ
どうもこの二つの経営母体は別らしく、コンサートホールに置いてあるパンフレットには二国のことは一言も書いてありません。まあともかく、どちらも自前の楽団がいるわけではない、いわゆる「貸し小屋」です。
さて、この日のメインはメシアンの大作「世の終わりのための四重奏曲」。70年代にもっぱらこの曲を演奏するためのTashiというアンサンブルがありました。ストルツマンとピーター・ゼルキンはこのTashiのオリジナルメンバー。今回はチェロにヨーヨー・マ、ヴァイオリンはパメラ・フランクです。
第一楽章の頭からピチュピチュと鳥がさえずり始めるメシアンらしい曲。ここで特筆したいのは、ゼルキンのピアノ。Tashiの時代のゼルキンはどちらかというと、ヒッピー風、かなりエキセントリックな表現が目立った記憶があるんですが、今回久しぶりに聴いてみて、なにやら風格というのか気品というのか、そんなものを感じさせる端正な演奏になっておりました。(ちなみに彼の風貌も、何やらサラリーマン風。「ビル・ゲイツのような感じだニャー」と隣のオニーサンは呟いておりました。)音の一つ一つが磨き抜かれて実に美しい。ピアノ残響に乗ってクラリネットやチェロがブツブツとしゃべり始める、そんな瞬間がすごくエレガントでした。もちろん、このような点はメシアンの意図したところでもあるわけで、今回のメンバーはそんな音楽の官能性を十分に引き出したのではないでしょうか。
圧巻だったのは第三楽章のクラリネットのソロ。速いパッセージが次第に後退していって、ほとんど時間の感覚がなくなるような深いロングトーン。それも、pが4つぐらい付く最弱音からfが5つぐらい付く最強音まで、音色を連続的に変化させるストルツマンの技は驚異的。それでいて、まるで技術を感じさせない音楽的な共感から生まれてくる音そのものの美しさ。難解と言われるメシアンの作品を当日の聴衆は本当に楽しんだと言えるでしょう。
第五楽章のチェロのソロも見事。朗々と歌うというのとはちょっと違う、どこか厭世的で、白けたムードを漂わせるマのソロにかぶさって響くゼルキンのピアノは、そう、何となく弔いの鐘のように思われましたんですニャ。むむ、世紀末。
当日は前半に武満の「カトレーンII」と「ビトゥイーン・タイズ」の2曲が演奏されました。いやあ、かなりずっしりと重い演奏会で、かなり疲れましたですニャー。