シプリアン・カツァリス ピアノ五重奏団
97年1月23日 紀尾井ホール


モーツァルト:ピアノ四重奏曲第一番ト短調
マーラー:ピアノ四重奏曲イ短調---断章
フランク:ピアノ五重奏曲ヘ短調


(デデのひとりごと)

12月、1月の喧噪が終わって久しぶりに音楽会のシーズンが戻ってきた。で、トコトコと出かけていったのがカツァリス五重奏団なる演奏会。カツァリス自体はとてつもなくうまいピアニストなのだが、室内楽は実演では初めてのはず。レコードではツェートマイヤーやハーノイの売り出しに一役買ったことがあるにはあるんだが・・・あ、それからピアノ版の「大地の歌」も最初に弾いたのはカツァリスだったニャー。

カツァリス以外のメンバーはヴァイオリンがセベスチェンとブレム、ヴィオラがシュトレーレ、チェロがヘンケル。と書いてみて、ご存知の人はいますか?かろうじてヴィオラのシュトレーレは確かベルリンフィルの首席だったかいなあ・・・と思い出す程度。つまりかなり年輩の手だれた連中を寄せ集めたといった感じ。

カツァリスと言うとフランス人なのにドイツ物が凄くうまい。で、最初のモーツァルトを結構楽しみにしていたんだが・・・はっきり言おう。ピアノ以外のメンバーはさほど個性的だとか、魅力あるといった人たちではない。ただやはり自分たちの血肉となった音楽のせいか、そつがない。ピアノ四重奏、五重奏は、特に演奏会の場合弦とピアノとのバランスが崩れたアンサンブルが多いんだが、そこはカツァリスが図抜けてうまいということもあって、バランスは申し分なし。つまりどんなに強く弾いても絶対にピアノが弦を消してしまう瞬間がない。しかも弱音での音色のコントロールがずば抜けて上手なピアニストなので、ピアノが引っ込んだ感じにもならない。

第一楽章、弾き始めの全奏からピアノが飛び出してくる瞬間がたまらなく好きなんだが、ここが何だかちょっと違う。弾き進んでいっても何だか物足りない感じがするのは何故だろう。なんて考えていたんだが、どうやらホールの響きに問題があるような気がしてきた。というのは紀尾井ホールの響きが悪いというのではない。公演日程では前日にカザルス・ホールで(たぶん)内輪の演奏会をやっているのだ。あそこでやった翌日というわけで、紀尾井ホールに来てもどうしてもペダルが長めになってしまったのではないだろうか?というわけで、ちょっとばかり重くるしいモーツァルトになってしまった。ヴァイオリンはセベスチェンが弾いていたがこの人はたぶん長年オケマンをやっていた人なのだろう。そつはないが、あまり魅力的なヴァイオリンでもない。一番楽しめたのは第二楽章。弦の裏側でピアノがブツブツ言うくだり。あそこら辺の音色とタッチのコントロールはさすがといったところ。

2曲目がマーラー。これは何といったらよいのだろう。ブラームスを気取ったマーラーというのか、要するにマイフェアレディーのような曲。つまり何もかも全く身に付いていないといった作品。学生時代にコンクール用に書いた曲だというのも宜なるかな。たぶん、コーダの直前のヴァイオリンの一くさりが、後のマーラーを唯一暗示している箇所かもしれない。ここはブレムが弾いたがなかなか思い入れたっぷりで楽しめたニャ。

休憩の後がメインエヴェントのフランク。実はこいつが一番楽しみだったんだが・・・。よく考えてみると、カツァリスはどうもショパンにしろドビュッシーにしろ、フランス物はあまり相性が良くない。しかも周りはみんなドイツのおじさんばっかり。もしフランスにロマン派というカテゴリーが立てられるとすれば、おそらくフランク、フォーレあたりがその中心なんだろう。確かにフランスの奏者が弾くと、実に熱いフォーレを聴かせてくれる。ところが今回のフランクは、何とも粘りけが無くて、かと言ってよく流れるというわけでもなく、かなりゴツゴツした奇怪な音楽であったな。

これも、結局楽しめたのは第二楽章のピアノのブツブツ。かなりがっしりとした構造の音楽の割には重さが足りない。おいらはレーシストってわけじゃないけど、どうもこの演奏を聴くと、演奏者との相性ってものがあると考えざるを得ないんだな。それで、アンコールに弾いた2曲、ブラームスの第三楽章、ボッケリーニの第三楽章、この二つが文句無しに楽しめた。特にブラームスのスケルツォはかなり速めのテンポでグイグイ押して、しかも疑似対位法の形がくっきりと見えて、よかったニャー。弦四本にカツァリスが加わるとまるでオーケストラのように多彩な音が鳴り出すんじゃ。そういえば、カツァリスってもともとピアノ一台でベートーヴェンの第九を弾いちゃう人だったんだよね。


デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールmatufuji@mail.at-m.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)