5月16日 紀尾井ホール
デデ:くうっ〜。デュメイのヴァイオリン泣かせるねえ。
ガンバ:最初がグリーグのソナタ第3番。出だしの低音をグイグイと引っ張るところから呆気にとられちゃった。それと対照的な第2主題の優雅な歌い回し。
CoCo:それに、ピリスのピアノもよかったよ。ピリス御用達のヤマハがあんなにきれいに鳴ったのは、ボクの聞く限り初めて。
D:そうそう、あのホール楽器の長所をよく引き出すね。1階の前の方で聴いていたんだけど、あんなに粒立ちのいいヤマハって初めて。けしてピアノを聴くにはいい場所じゃなかったけど。
ブチッケ:デュメイのヴァイオリンの太い低音と、緊張感の強い高音との対比が見事なコントラストを生んでいたね。どちらかというと攻撃的なデュメイの音楽を、ピリスも発止と受けとめて、投げ返す。この二人どう考えても音楽的なセンスは対照的なんだけど、それがどういうわけかうまくかみ合ってしまうんだよね。
G:センスが対照的かどうかは別として、ピリスも出るべきところはちゃんと出てくる。
C:というか、ソリストと伴奏者って関係じゃないから、一緒に音楽を作っているっていう雰囲気がいいよね。
D:ボクが印象に残ったのは第2楽章の出だしの一くさり、あのボソッ・ボソッって感じのピアノの弾き出しだね。なんかこの楽章はすごく透明で、ノルウェイの澄んだ空気の中にとけて上っていくような感じがしたよ。
G:一つの旋律をひとしきり展開してグチャグチャになってくると、半音階的に転調するのよね。そうするとすばらしく澄んだ世界が開けてくる。どんよりと曇った空がぱーっと晴れ渡るような感じ。そこら辺がワグナーの転調と違うのよね。それに、和音がおもしろいよね。
C:うん、よくわからないけど、普通クラシックではあまり使わない増音程の和音をよく使ってるね。ピアノでその和音だけ取り出してみると、一体どうやって解決したら良いんだろうって思うけど、北欧の民族的な旋律とうまくマッチしてるんだな、これが。
B:ところで2曲目のアルペッジョーネ・ソナタを弾いたジャン・ワンつうの、なかなかよかったですな。
G:なかなかどころかすごいチェロ弾きよ。
D:中国人らしいけど今はアメリカにいるのかな。かつて、ロストロポーヴィッチとかマイスキーとかロシア・ユダヤ系の、どちらかと言えば熱演型のチェリストが一世を風靡したけど、彼らと対照的なのがヨーヨー・マとか、このジャン・ワンみたいな中国系のチェリストだね。
G:うん。ヨーヨー・マなんかすごく熱演って振りすることもあるけど、汗一つかいていない。
C:中国人は汗かかないのかあ???
G:何馬鹿なこと言ってんのよ。そうじゃなくて、すごく冷静で余裕があるってこと。
D:このジャン・ワンって人も飄々とした感じで、でもその音楽は雄大で歌心が溢れていたね。ピアノの一くさりに導かれて第一主題を歌い出すところなんざあ、ただ者じゃないって気がしたね。いきなり目一杯弾きたくなるところだけど、p〜mfくらいの範囲で静かに弾き始める。でもよく聴いていると、その弱音の中にffからppまでの起伏が隠されているんだ。
C:うん、そうかあ。今まで熱演型のチェロばっかり聴いてきたせいか、なんだかすごくクールって気がしたんだけど、確かに音楽はすごく雄大だったね。
G:第2楽章をたっぷり歌った後、スビトで第3楽章に入る、あの場面転換が見事だったわ。
D:とにかく涼しい顔してすごいことやっちゃう人だね。
B:さてみなさん。この二曲もすごかったけど、休憩の後、超弩級の名演が飛び出したね。
D:そう。ブラームスのピアノ・トリオ第1番。
G:最近同じメンバーでCDも出たから聴いてる人も多いと思うけど・・・何から話したらいいかしら。余りにいろんなことがあって・・・
C:ピアノに導かれてチェロがゆったりと歌い出す第1楽章。デュメイの太い低音が入って来るんだけど、それがチェロの音質と違和感がなくて。
G:すごく雄大な広がりを感じる出だしね。
B:だんだん熱を帯びてきて第二主題のターンをユニゾンで弾くところなんざあ、熱くてやけどしそう。それにデュメイの高音のフラジオレットのきれいなこと。それを受けてチェロの泣きが入る。
G:デュメイもピリスも若いチェリストを育ててやろうってな感じで手加減するんじゃなくて、真正面から挑みかかって、容赦なく鋭く切り込むような弾き方だったよね。
C:それを、ジャン・ワンは発止と受けとめたり、軽くいなしたり。とにかく面白いトリオだね。
D:ピリスのピアノもすごくスケールがでかいって気がしたね。とにかくこの長大な第1楽章があっと言う間に終わっちゃった。
B:くどいようだけど、このホールで聴くとピアノの音がすばらしいね。粒立ちがよくて、低音の迫力も満点。
G:それがよくわかったのが、第2楽章の小粋なスケルツォ。ブラームスってピリスの音楽からは一番遠くにあるような感じがしたけど、そんなことないんだわ。この楽章はヴァイオリンとチェロの軽やかさもすてきだった。
C:中間部では三人ともたっぷり歌って、またスケルツォに戻る。弦の弓を飛ばす軽やかさがたまらんね。
D:第3楽章のAdagioは不思議な曲。ボザールだったらたっぷりヴィブラートをかけて弾くところだけど、このトリオはほとんどヴィブラートをかけずに不思議なほど透明なハーモニーを紡ぎだした。
C:コラールのような和音の連結が延々と続くけど、なんだか古楽器を聴いてるような感じがしたな。
G:ヴィブラートをかけずにハーモニーを決めるのってすごく難しいのよ。
D:それにヴァイオリンとチェロのユニゾンも。終楽章はブラームスのエキスがたっぷりとつまっている。ロマン派的な歌とハーモニーの裏に、古典派的な理詰めの顔がチョロチョロ。
C:ネズミみたいだニャ。
D:ピアノのメロディーの背後で、チェロとヴァイオリンが逆行したり平行したり。
G:それがだんだん一つにまとまってメラメラと燃え上がる。
B:最後はあっしも興奮しましたな。
G:うん。帰り際にメロディーを口ずさみながら歩いていく人がいたよ。
5/18 紀尾井ホール シューベルト:弦楽三重奏(ヴィオラ店村真積)/ シューベルト:歌曲「岩の上の羊飼い」(ソプラノ高橋薫子、クラリネット山本正治)/シューベルト:五重奏「ます」(コントラバス吉田秀)
デュメイ&ピリス デュオリサイタル
5/20 武蔵野市民文化会館