デュメイ&ピリス(4月25日王子ホール)

デュメイのブラームスのコンチェルト(4月30日サントリー)



(休日の昼下がり、猫の集会場カフェ・コルベーユにて)

デデ:ぽかぽかあったかい連休だね。

ブチッケ:あったかくなってくるとやたら毛が抜けて、むずむずしますな。

CoCo:おれ、もう冬毛のコートはクリーニングに出したよ。

ガンバ:あたいも。

B:ちぇ。夫婦者はいいなあ。おれなんざ天涯孤独で。ときどき変な人間が掻いてくれるんだけど、そりゃもう気持ちよくて(猫の小部屋の写真参照)。

D:そういえば、独立独歩の演奏家だったデュメイとピリスがコンビを組んでまた来日しているね。

G:今回は長期滞在なんで、東京にマンションを借りて自炊生活だとか。

D:ところでこの前の王子ホールのリサイタル、いまいちだったね。

B:うん。場所が場所だからね。あのホールは幾多の名演奏家に挑みかかってきた所。

C:確かに、あそこでとびっきりの名演ていうのはあまり覚えがないなあ。

D:コープマンはあそこでひどくこけたし。デュメイとピリスの前回の来日の時も、ピリスが大ドジ踏んだし。

C:あの時は、来日中に最愛のご母堂が亡くなったとかで、ちょっと可哀想だったけど。でもNHKのハイビジョン・カメラが入っていたのに、とうとうあの演奏会は放送されなかったね。

D:うん。それにアルバン・ベルク四重奏団もすごく乗りが悪かった。前夜サントリーで興に乗って1時間以上もアンコールを弾きまくったのに、王子に来たらアンコール1曲でそさくさと引き揚げちゃった。

G:あたいが聴いた限り、あそこで成功したのはビオンディとおじさん(チェルカスキー)かしら。でもおじさんもあそこだと魅力半減だけど。

B:響きがザハリッヒっていうのか、すごくストレートなんだよね。古いトスカニーニの録音に使ったスタジオに似てるかな。ヴァイオリンなんか近くで聴くとすごく雑音の多い楽器だけど、それが全部ホール中に聴こえてしまう。

D:おまけに音楽的な音がよく聞こえない。

G:そうそう。おじさんの魅力が半減て言うのも、ピアノの音がしないのよね。狭い割に客席に音が届かない。だからステージと客席に一体感も生まれないし、演奏家も客席が反応しないから白けちゃう。客席で聴いてるとやけにステージが高いなあってきがしてこない?

C:うん。で、今回のデュメイ・ピリスもどうも楽しめなかった。前回のような取り返しのつかないミスってのはなかったけど、どうもヴァイオリンが不安定な感じがしちゃって。

D:デュメイってヴァイオリン弾き、技術的な不安は皆無な人だったはずだけど、なんか微妙な音程のずれがやけに気になったね。ホールのせいだと思うんだけど、こちらにその気がなくても、やけに演奏のあらが目立っちゃうんだよね。前々回サントリーでやったブラームス、それに渋谷公会堂でやったベートーヴェンのクロイツェルなんか鬼気迫る名演だったと思うけど、あの時に比べるとやはりちょっと集中力に欠けた感じかなあ。

B:いや、演奏者の集中力は相当のものだったと思うよ。生前クライスラーが愛用していたっていうストラデヴァリも目一杯鳴ろうとしていたし。

G:でも、リハで相当慎重に音当てをしていたって話だけど、いざ客が入ったら響きが変わってしまったみたい。スプリング・ソナタの出だしちょっと抑え気味に入ったけど、途中でホールが鳴っていないのに気付いて急にボリュームを調節していたわ。

D:それでも追いつかない感じだったね。なんせピアノの蓋を全開にしても、あの狭いところで響かないんだから。ところで、デュメイの張りつめたヴァイオリンの緊張感てたまらないね。

G:そうそう。あの日はベートーヴェンばかり三曲。スプリングと、作品30の2と3。久々にベートーヴェンの室内楽を聴いたけど、スプリングや30-3のスケルツォって結構小粋ね。

C:古典的ソナタにスケルツォを取り入れたのは、確かベートーヴェンが最初だったと思うけど、短くてしゃれた音楽だよね。デュメイとピリスのテンポの取り方も面白かったね。

D:二人が一心同体、阿吽の呼吸、ツーと言えばカー。ああ言えばこう言う、これは違うか?デュメイの方は豪快な音で徹底的に歌うし、ピリスの方は繊細で細やかな音楽。

G:私、ピリスのピアノってあんまり好きじゃなかったんだけど。聞き手にすごく集中を求めるタイプでしょ。

D:そこが面白いんだよ。いろんな仕掛けがしてあって。

G:でも一曲聴くとどっと疲れちゃって。

D:まあそうかな。

G:それが、デュメイとデュエットになるとすごく自然に音楽が流れるのよね。このデュオってお互いの持ち味を出し合って、しかも相手を殺さないのよね。

D:そう、巨匠同士が火花を散らすとか、巨匠vs伴奏ピアニストっていうパターンと違って、お互いに好き勝手に弾いているようでいて、実はすごく練り上げられた音楽だなって気がするんだ。30-2っていう曲もそういった弾き方にふさわしい作品だったと思う。ハ短調っていうのもけして軽くはない調子だし。

C:ところで、その5日後、東響の定期でデュメイがブラームスのコンチェルトを弾いたよね。この日はデュメイが完全に復調したように思えたけど。

B:そうですな。いろんな意味で面白い演奏会でした。まず最初にオケだけでシベリウスの交響詩「大洋女神」っていうのをやったけど。これはシベリウスが印象派にすりよっていた頃の作品みたいだったね。

G:そうそう、メロディーがあるようなないような。茫洋とした曲ね。で、指揮者もどうやっていいのか、掴みどころがないって感じで漫然と振っていた。

D:2曲目がブラームスのコンチェルト。前回来日の時のバルトークがすごい名演だったから、今回も期待したんだけど。ちょっとスカ喰らったかな。

G:いや、あの時もオケはしまらなかったわよ。オケが何をやらかそうと我が道を行くといった感じでデュメイが弾ききったから、あの名演になったのよ。指揮者も同じ大友直人だったわね。

D:とにかく、鳴らない、粘らない、色気がない。ないないづくしのオケだから、どうしようもない。まるで冷や麦食ってブラームスを弾いてるみたいだった。以前バンベルク交響楽団とツィンマーマンが田舎の公会堂でブラームスをやったときには、これとは全く逆。さほど機能的に優れたオケじゃないけど、ドイツの粘りっ気というのか、ブラームスの響きを体の奥で知ってるナアって印象がしたけど。ソーセージに黒パンを食ってるなあって。そんなこんなで、今回のデュメイはオケにも積極的に口を出していた。

C:そう。出だしからゆったりとしたテンポで、これはデュメイのテンポだなって感じがしたね。ブラームスで遅めのテンポだと、粘り気、色気のなさが余計に目立っちゃう。ミュンヒェン・フィルみたいな技量が必要だよね。

D:そこが苦しいところ。デュメイが自分のテンポを守ろうとするとオケの技量が目に付くし。だから指揮者がこん身の力を振り絞って第一ヴァイオリンを歌わせようとしている時に、デュメイはソロを弾きながらチェロ・バスの方を向いて、ピツィカートのアインザッツを揃えてやったり。

G:ソロとオケのバランスが崩れてくると指揮台の前まで回り込んで、スコアを見るような振りをして、実は大友直人を睨み付けたり。

C:あれ怖いだろうね。指揮台の上の大友と下のデュメイの頭の高さがほとんど同じなんだから。それからさあ、ソロとオケの受け渡しが一度スムーズに行かないとわかると、二度目からは渡すところでコンマスの前まで出張って、宝物を手渡すように大事に大事に渡してやったり。あそこらへんはただのソリストじゃなくて一緒に音楽を作ってるんだよっていう雰囲気がみなぎってたね。

B:デュメイのソロだけど。今時ヴァイオリンを歌わせるのは余りはやらないだろ。クレーメルみたいに歌わないヴァイオリンが全盛だよね。ただ大らかに歌うっていうヴァイオリン弾きもいるけど。デュメイのヴァイオリンはどちらとも違う。やっぱりヴァイオリンの命は歌だし。でもただ歌って鳴らせばいいってもんじゃない。たとえていうと、ヴィブラートっていうのも本質的には装飾音なんだなってことを、教えてくれるんだよね。ゆったりしたメロディーラインでも意図的にヴィブラートをかけない金属的な音で弾いたりして。

C:それにしても第二楽章のオーボエの色気のないこと。

G:お父さん、それは言わない約束でしょ。

D:第三楽章もゆったりめのテンポで出て・・・

C:あのロンド主題のあくの強い弾き方は面白かったね。

G:ブラームスっていうと、あたいのイメージはあの「赤いハリネズミ亭」に行くところを描いた影絵なのよね。そんでもってハンガリアン・ダンスとかワルツとか結構軽めのものにも憧れていたでしょう。だからあの第三楽章なんか、ドタ靴はいてあの爺さんが草原で踊ってるような情景を思い浮かべるわけ。で、今回のデュメイの弾き方が妙に愛嬌があって、ドテドテって感じで妙に出っ張ったりして、不均等なリズム感がよかったわ。

C:へ〜え。そんな聞き方があるのかあ。ともかく最後は盛り上がったね。

D:盛り上がったというか、このエンディングは最後の一歩手前に盛り上がりの頂点があって、そのあとペザンテ終止になっているから、なんだかオルゴールのネジがゆるみきったような感じで終わるんだけど、あのユーモラスな感じが良く出ていたね。まあともかく5月いっぱい公演を打つみたいだから楽しみだニャ。



デュメイ&ピリス今後の公演予定

室内楽

5/14 紀尾井ホール シューベルト:ピアノ・ソナタ21番/幻想曲ヘ短調(連弾w小山実稚恵)

5/16 紀尾井ホール グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ3番/ シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ(チェロ:ジャンワン)/ ブラームス:ピアノ三重奏第一番

5/18 紀尾井ホール シューベルト:弦楽三重奏(ヴィオラ店村真積)/ シューベルト:歌曲「岩の上の羊飼い」(ソプラノ高橋薫子、クラリネット山本正治)/シューベルト:五重奏「ます」(コントラバス吉田秀)


コンチェルト

5/10&11 モーツァルト:ヴァイオリン・コンチェルト第三番(w紀尾井シンフォニエッタ)

5/15 サントリー ショーソン:詩曲/ バルトーク:ラプソディー第一番/ ラヴェル:ツィガーヌ(w読響)←sold outらしい


デュメイ&ピリス デュオリサイタル

5/20 武蔵野市民文化会館


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