チェルカスキーの最近のディスクから

●Orfeo C 431 9621(2枚組)(1968年ザルツブルク音楽祭ライブ)
バッハ/パルティータ第5番
ブラームス/ソナタ第3番
ショパン/前奏曲(全曲)
ベネット/ピアノのための5つの練習曲
リスト/ポロネーズ第2番
●Decca 448 401-2
ラフマニノフ/協奏曲第3番(w. Royal Ph.+Temirkanov)
ラフマニノフ/前奏曲、舟歌、メロディーなど
●Dante HPC041
(1934-35年にかけてのヲジサンの最初の録音)
メンデルスゾーン、ベートーヴェン、ショパンなどの小品



(野分立ちて俄にはだ寒き夕暮れの程、久々にわらわらわらと猫どもがコルペーユに集っております。)

デデ:みなさん本日はご多忙中、わざわざお越しいただき誠に有り難うございます。

ガンバ:なに気取ってんのよ。ヲジサンのレコード早く聴かせろ。

CoCo:そうだそうだ。

D:まあまあ、各々方。まあ、そういうわけで、上に挙げた3種類のレコードが最近出ました。DanteのはSPからの焼き直しだけど、リマスターがうまくてほとんど針音が気にならないくらい。それからラフマニノフはヲジサンのラスト・レコーディング。Orfeoのはヲジサンが一番油が乗ってた頃のライブって言っていいのかな。

C:そうだニャ。Orfeoの最初がバッハのパルティータの頂点とも言える第5番。チェルカスキーはリサイタルの最初に必ずバロックの小品を弾いたもんだけど、5番は小品とは言えないね。トッカータの出だしは切れ味が鋭い演奏が多いけど、ヲジサンはしっとりと。フーガに入っても気張らずにさり気なく各声部を弾きわけていく。アーティキュレーションとダイナミックのコントロールが抜群だから、フーガの綾が見事に描き出される。

G:そうそう。「バッハをピアノで弾く意味」ってなことが言われて久しいけど、シフと並んで、この演奏もその解答の一つかもしれない。

D:ピアノの機能をフルに使って、しかもゴテゴテ・ブゾーニにならない。

ブチッケ:トッカータ、エア、サラバンドあたりでは、ハーフ・ペダルやベーブンクで音色を次々に変化させていってるな。こういったテクニックを使える人もだんだんいなくなっちゃったね。

G:ブラームスの3番は凄いの一言。

C:チェルカスキーらしくないとも言えるかもしれないけど、まさに全盛期のヲジサンのすさまじさを感じさせるニャ。

D:幅広の和音をわしづかみにする出だしから迫力満点。2楽章や4楽章では音色の美しさが際だつけど、歌の持続力もあるね。

G:そう。晩年のヲジサンはツボは押さえてるけど、時に持続力に欠けることがあったわ。スタイルが変わったってわけじゃないけど。

B:フィナーレの目まぐるしく変わる楽想も見事に弾きわけて、しかも統一感がありますニャ。

D:さて、2枚目の目玉はショパンのプレリュード全曲。

C:なんたら全曲っていうのはほとんどやらない人だったけど、プレリュードは確かASVにも全曲入れてたね。

D:この頃よく弾いてたのかニャ?

B:基本的なスタイルは変わらないから、どれがいいって話は無意味だけど、でもそれぞれに味わいが違う。

G:そこよ。第7曲だっけ。例の太田胃散のテーマ曲。たった30秒の曲だけど、よくも違った弾き方ができるわね。

B:いつか来日したときにリストの「愛の夢」をあっちこっちで弾いたんだが、毎回違った曲に聴こえたよ。

D:ヲジサンの場合、感覚的な悦楽に偏っているように言われることもあるけど、それがちゃんと聴衆に訴えかける普遍性を持っていた。だから毎年あれだけの人が聴きに行ったんだニャ。

C:60年代から70年代のライブや放送録音はまだまだあるんじゃないかな?これからもこういったCDが出てくるといいんだけど。

D:さて、ファイナル・レコーディングと銘打つラフマニノフだけど・・・

G:う〜ん???

B:確かにすごくきれいに仕上がってるけど、スタジオ録音だから仕方ないのかなあ。借りてきた猫みたいだニャ。

C:ふにゃ〜ん。どうしても、井上道義やった演奏会が脳裏に焼き付いてて・・・あれは東響だっけ、東フィルだっけ?

D:東フィルだったかなあ。出だしの思い入れたっぷりな所は同じだけど、その後がすごかったね。井上とのタイミングが合わないと睨み付けて。

C:でも、そのうちヲジサンのタイミングがわかってきたみたいで、急にしっくり行くようになって。

D:うん。あの演奏は尋常じゃなかったね。多分日本でやったコンチェルトではピカイチの出来だったんじゃないかな。70年代だったっけ、都響とめちゃくちゃなチャイコフスキーをやって、終わった後、指揮者の顔も見ずにすっと引っ込んじゃったり。

B:それから、新日フィルと最初にやったときもめちゃくちゃで、面白かったですな。この若僧、どんなものかな?ってな感じで、おちょくっちゃうんで、指揮者はかわいそうだったけど。何しろ2晩あったからね。あの指揮者それから勉強したとみえて、次の時はなんとか合わせてた。

G:このCDは良くも悪くも迫力がないのよね。毒気がないというか、牙を抜かれた猫というか。ヲジサンのコンチェルトは絶対に演奏会で聴かないと・・・でもこのレコード、フィル・アップに入ってる小品がすばらしわ。

C:あのロシアのド演歌っていうのかな。ト短調の前奏曲ね。

G:ヲジサンの場合ロシアのピアニストって色を感じることは少なかったけど・・・

D:ユダヤの香りは?

G:いや、シオニズムの臭いもしなかったわ。くんくん。インターナショナルだったわね。

B:でもこの小品集はコスモポリタンというかバガボンになっちまった人が、もう一度自分の来し方、出自、由来、来歴、まあなんでもいいが、そう言ったものをじっくり回想しているような、そんな感じがしますな。

D:さて、最初の録音といわれるDanteですが。

B:これはいいねえ。最初のメンデルスゾーンのスケルツォの音の粒立ち。ヲジサンの面目躍如ってとこですな。

C:それから自作の「悲劇的」前奏曲が2種類。こいつが泣かせるね。何て言ったらいいんだろう、末期の断末魔ロマン派風というのか、スクリャービン風の小品。9歳だか10歳の頃に書いたっていう話だね。

G:ショパンのホ短調の小さなワルツの切れ味がいいニャ。

D:ラモー/ゴドフスキーのタンブーランも面白いね。ヲジサンはこういったまあ、へんてこりんな曲がうまかったね。

B:確かに、ファースト・レコーディングからラスト・レコーディングまで、ほとんどスタイルは変わっていない。こうやって各時期の録音を聴いてみるのも面白いもんですな。

D:最後に一つ。このDanteの解説書はちょっとひどいニャー。間違いだらけですから、気を付けて。


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