中野振一郎の二枚のCD(あるいはガンバとCoCoの対話)

(今回はデデに代わってガンバとCoCo夫妻の登場です。ガンバ母さんは人間を見かけると自分の子供そっちのけで膝に乗ろうとします。もう相当の歳ですが体型は子猫のように小ぶり。CoCo旦那はおっとりとした大ネコ。いつもガンバと一緒です。2人の間にはヤムヤム、偽ガンバ、CoCo 3といった子供たちがおります。)


ガンバ:あんた何聴いてんの?

CoCo:中野振一郎の古いCD。1990年に大阪でやった演奏会のライヴなんだ(Collegium Musicum Telemann TIJ-0001)。←たぶん廃盤(デデ)

G:あんた古いの好きねえ。コープマンとかボーモンとかもうちょっと新しいやつを聴いたらどうなの。

C:でもこのCDもなかなか味があるんだ。

G:そーお?

C:六年も前の録音だけど、中野振一郎の特徴がよく出ていると思うんだ。

G:そういえばデノンから出ているCDもあったわね(COCO-78200)。

C:なんだか俺の名前に似てるなあ。でも曲目を見るとかなり重複している。デュフリとフォルクレは彼の十八番だね。デュフリのヴィクトワール、旧盤のほうは音の立ち上がりがすごくすっきりしている。マイクがかなりオンの感じだけど濁りがなくて聴きやすいと思うんだ。

G:新盤のほうはすごく豪勢な音ね。デノンの特徴かしら。楽器はどちらもブランシェだけど、前のはダウド、後のはナーゲルって名前を変えてからのものね。

C:ブランシェの楽器はフレンチにしてはプラッキング・ポイントがナットに近くて、ちょっとナザールにかかった音色が特色だと思うんだけど、デノンの録音は間接音を取り込みすぎて楽器の持つ音色を殺してしまってる。こういう録音はちょっと聴くと華やかに思えるんだけど、細部を聴こうとするとだんだん疲れてくるね。でもヴィクトワールの最初の分散和音の立ち上がりなんか、ルバートが旧盤よりもこなれてきたというか、より大胆になった感じ。ライヴとスタジオ録音の違いもあるだろうけど。

G:フォルクレは断然旧盤がいいわ。ガンバからのトランスクリプションだからベルサイユ・ピッチの不気味な低音がすごく利いてる。自然なイネガリかたもすてきね。ボワソンの1拍目と3拍目にストレスが来る独特な3拍子の弾き方おもしろいわよね。1拍目に沈み込んで3拍目に伸び上がるっていう感じ。それにジュピテルの鍵盤交替もすごいわね。バルバトルの“立てシトワイニャンコら”ってやつ、現代のフランス国歌と和音の付け方がちょっと違うところもあるけど、最後の複雑なコード進行は革命当時にできてたのね。

C:ところで、旧盤の目玉といえばなんといってもガルッピだと思うんだ。

G:いいよね。ガルッピというと、どうしてもリパッティとかミケランジェリを思い起こすけど、チェンバロで弾いてるのは珍しいわね。デュルケンていう楽器、かつてレオンハルトもよく使ってたわよね。

C:あのころオールマイティーのチェンバロだなんていわれたこともあったね。それにしてもよく鳴る楽器だね。これだけ鳴るともうちょっとマイクがオフの方が聴きやすいかもしれない。ルバートや装飾音の入れ方がすごく自然。自在の境地ってとこかな。さて最後に入っているバードもいいね。

G:イングリシュ・ヴァージナルの音色が素敵。太くてよく通る音ね。パヴァーヌの素朴なリズムと繊細な装飾音が絶妙ね。

C:デノン盤の売りは何といってもロワイエの『スキタイ人の行進』。ドンチャカものなんていう人もいるけど、ぼくはけっこう好きっす。手練手管の限りを尽くしたロンド。ただ何度も言うようだけどデノンの録音はまどろっこしい。磨りガラスを通してみるような見通しの悪さ。でも中野の演奏はいつもながら冴え渡ってるニャー。


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