ビオンディ指揮エウローパ・ガランテ
サンドリーヌ・ピオ(Sop)、グローリア・バンディテッリ(Mezzo)
10月26日 紀尾井ホール



(デデのひとりごと)

でへへ、昨日の今日で二日連続になっちゃったけど、声楽を聴きにいった。ビオンディは録音の方では結構声楽曲を入れているけど、確か日本公演では初めてのはず。曲目は全部イタリアもの。

最初にヘンデルのコンチェルトニ長調。二本のヴァイオリンにチェロとチェンバロ。コンティヌオにベースという編成。ヘンデルの作かどうか疑問視されているというが、オブリガートのチェロの動きはヘンデルの新作(ちゃうでえ、真作や)と見たな。上の方は確かにコレッリかテレマン(?)かもしれない。ともかくヘンデルがイタリアで拾ってきたものには間違いないだろう。こう言うのを野生の勘というのだあ(よく外れる)。二本のヴァイオリンの歌い回しは絶品。チェロが絡んで忙しく動き回る。まあ基本的にこんな感じの曲。モンテヴェルディと違って、バロックもここまで来ると歌の世界。語りは語尾と句読点に限られる。だが、このちょっとした付け足しのフレーズが実に小粋だ。クラシックに近づいてくるに従って、即興の要素がどんどん少なくなり、音楽が楽譜に定着されていく傾向があるが、そんな中で、目一杯音楽の喜びを聴かせてくれるのがビオンディだ。

2曲目がペルゴレージの「サルヴェ・レギナ」。ハ短調を5度下げてヘ短調にした版。独唱はもちろんバンディテッリ。実演は初めて聴いたが気に入ったな。東欧系のビブラートが強いメゾじゃなくて、実に清楚で伸びやかな声。聖母マリアへの思いをうちに秘めて静かに歌い進めていく。ここらへんビオンディのバックも絶妙。語りすぎず、歌いすぎず、しっかりと音楽を支えている。最後のO dulcis Virgo Mariaでは不覚にも涙がこぼれて来ちまったよ、ったくう。

後半はヘンデルのオペラばっかり。一つも実演は見たことがないし、ストーリーもほとんど知らんものばっかりなので、純粋に音楽として聴くしかない。まず歌劇「リナルド」からのアリア“わが泣くがままに”と、「パルナス山の祭典」からアリア“愛しい人を失い”。ソプラノはサンドリーヌ・ピオ。この人も聴くのは初めてだったが、かなり力強いソプラノ。バンディテッリとは異なりずっと古楽畑を歩んできた人。伸びがよくて、ここぞというところでのストレスも強く、特に子音の響かせ方と、ほのかにビブラートのかかった母音の音色が絶妙(何だか声楽の評論らしくないニャ)。イタリア語の母音構成が日本語に似ているためか、母音の響きが実にくっきりとよくわかる。ゆっくりと情感を込めて歌うフレーズには「イ」や「エ」は似合わない。

「オ〜〜〜〜〜ンブラマイフ〜〜〜」

の長音に「イ」や「エ」を充てたら、かなりおかしなことになるはず。ピオの歌を聴きながら、まあそんなことを考えたんだニャ。そうそう「セルセ」の“勇者は帰りぬ”は、何で日本ではやけに厳かにやるんだろう。ありゃ娘っこが踊りながら歌う歌で、甲高い声で、高校野球の表彰式の時の3倍くらいのスピードで演奏するもんだがニャ(余談)。

(本題)さて、最後に二重唱が3曲歌われた。いずれもヘンデルのオペラからの曲。一つ一つ評論する能力はないが、「トロメーオ」の愛の二重唱はしっとりとした情感を漂わせた歌。もちろん当時はトロメーオ(プトレマイオス)役はカストラートだったんだろう。ピオの透明な声とバンディテッリのほのかに暗い声の対比が絶妙。そうそう、今気が付いたんだが、バンディテッリって全盛期のヤーコプスにちょっと似た声の質かな。

「イメオーネ」の“苦しみの扉を通って”は「苦しまずに喜びは得られない」とまあ、どこかで聞いたような内容。

「アルミニオ」の二重唱も牢獄から逃げ出す場面の曲だとか。ここらへんは意図してこのような選曲にしたのだろうか。なかなか粋なはからいじゃ。この3曲とも二人の女声とともに、バックのガランテの名演も光った。ヘンデルは希有のメロディー・メーカーであるとともに和声の扱い方も実にうまい作曲家。底抜けに明るい部分と、微妙に揺れ動く転調とが、明と暗の対比をくっきりと浮かび上がらせるはず。ところが、これまでの古楽演奏ではやたらと突っ走るF1レースのような演奏か、やけに癖のあるアクセントで聞き手の心を逆撫でするような演奏が主流だった(もちろん、好きな人はそれがたまんなく好きなんだろうけど)。ビオンディのヘンデルを聴くと、実に自然に音楽が流れ、普通のアクセントで物語を始める。古楽演奏もここまで来たんだニャ。


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