ビオンディ+エウローパ・ガランテ 10月16日 王子ホール
デデ:ぷるぷる、う〜ちゃっぷい。
ガンバ:おでん煮えたよ。熱いとこみんなで食べようよ。
ブチッケ:おお、ありがてえな。はふはふ。だんだんあったかい物が恋しい季節になって来ましたな。
CoCo:くう〜っ、白玉の歯にしみ通る秋の夜の酒は・・・
G:あんた、虫歯だったの。
C:そうじゃない。酒を飲みながらな、今日のビオンディの演奏会を反芻しているんだあ。
G:クチャクチャとね。
C:まあいいや。でもやっぱりビオンディはうんめえなあ。
D:完全に音楽を手の内に入れて、如何様にでも料理致しますって感じかな。演奏会の前半はちょっと変わったプログラム。えーと、まずバッハのチェンバロ協奏曲ニ長調。これは普通はヴァイオリンのコンチェルト第二番って言ってる奴だよね。ホ長調の。
B:そうだね。あの輝かしいコンチェルトをどう料理するかと思ったら、弦は各パート一人ずつ。弦楽四重奏にベースが入った感じかな。だから、チェンバロの音がすごく良く聴こえた。
G:チェンバロ・コンチェルトっていうと、まずチェンバロの音がすごく貧弱な場合が多いけど。今日は本当に音色まで聞き取れたわ。それと引き立て役の弦がすごく表情豊か。
D:うん。打ち合わせ通りにやっていると言うよりも、その場の空気を感じとって、音楽を作って行く。本当に音楽やってるって感じだニャ。
G:アレッサンドリーニのチェンバロはちょっと精彩を欠いたけ感じだけど、二楽章の作りなんかほとんど後期ロマン派のような香りがしたわ。例えて言えばブラームスの弦楽四重奏みたいな感じね。
D:で、2曲目がバッハのヴァイオリン協奏曲ト短調。これもひねりが効いていて、元はチェンバロ・コンチェルトのヘ短調。原曲はチェンバロの軽やかさが際立つ曲だけど、ヴァイオリンに移植すると強弱とタッチがが自在な分、バッハの音楽からはちょっと隔たった感じ。でもそれはそれで面白い。この曲は全員参加で、1st.から順に2、3、2、2、1の編成。ちなみにソロのビオンディはテュッティも弾く。
B:第二楽章のラルゴ。弦のピチカトーに乗ってビオンディが歌うシチリアーノ風の節回しが絶妙でしたな。それに、テュッティも単にリズムを刻んでいるだけじゃなくて、ピチカートで歌っている。
C:たぶん、ビオンディがエウローパ・ガランテのメンバーを編成するときに、イタリア人だけでやろうと決めたのもそこら辺の相性を考えたからかなあ。
D:後半は、お待ちかねの「四季」。「四季」と言えばビオンディ、ビオンディと言えば「四季」ってくらい、自家薬篭中の曲。歌舞伎なら様式感を如何に出すか、どれだけ伝統の型にはまっているかが見どころだけど。音楽じゃそうはいかない。
G:そうね。前回の来日の際にも「四季」をやったけど、今日のはその時の演奏とも全く違った曲みたい。
D:とにかく、譜面を完全に換骨奪胎して、つまりデコンじゃな、しかる後に再構成する。ものすごく徹底した意図を持っていないと、全体がまとまらなくなるやり方だけど、ビオンディの譜面の深読みはさすがだねえ。
B:部分部分を取り上げると、際限ないほど驚きと新鮮さに溢れているけど、それを徹底してやってしまう音楽性ってすごいっすな。
G:とにかくテンポの揺れが大きいでしょ。それに、ヴァイオリンと弓で作れる音色は全て盛り込んだって言ってもいいほど、多彩な技巧と音色を駆使するのよね。
C:猛スピードで駆け回ったと思ったら、突然ブレークして、悲しげなブルースを歌い始めたり、普通ならムード音楽みたいに作る「冬」の2楽章を、かなりきびきびと押していったり。
D:これだから音楽会通いは止められないんだニャー。例のCDもかなりの衝撃作だったけど、演奏会では毎回まるで違う「四季」を聴かせてくれるね。前回の来日時の演奏会評に「危険な演奏・・・」っていうのやつがあったけど、確かに、こういう演奏をやられると伝統の上に胡座をかいている連中は、困るだろうなあ。評価の基準ていうのが根本からひっくり返っちゃうから。そこらへんチェルカスキーにもちょっと似たところがあるね。
G:それからさあ、ビオンディってしゃれ者っていうのか、一人だけ燕尾じゃなくて、モーニング着てるでしょ。
C:むふっ、あれが何とも言えない雰囲気を出すよね。タルティーニだっけ、悪魔に魂を売って音楽を手に入れたの?なんか、メフィストフェレスがモーニング着てヴァイオリン弾いてる感じなんだニャー。
G:音楽の区切れ目がすごくはっきりとした、メリハリのついた演奏でしょ。で、その区切れ毎に大見得を切ってみせるわけ。でも本当は心の中で、小さな声で「なんちゃって」って言ってるみたいなのよね。この人、いつかきっと古楽器でパガニーニを弾くわよ。
D:古楽器でやってもモダンのヴァイオリンよりずっと面白いだろうナア。芝居っ気っていうのかなあ。ステージの姿も確かに芝居になってるんだけど、音楽そのものも芝居だね。とにかくよく喋る音楽。歌う要素もあるんだけど、基本的にレチタティーヴォ。バロック・オペラの精神に近いヴァイオリンだね。
B:確かに。レチタティーヴォこそバロックの本質ですな。
D:そう、それで、はふはふ、この大根みたいに、グジャグジャになって、形がなくなる。
G:このくらい煮込むと、音楽も大根も味が沁みておいしいのよ。
D:それにしても、この秋は、サヴァールと言いビオンディと言い、当たり年ですニャー。でも、サヴァールのところにビオンディが特別出演なんて演奏会、誰か企画してくれないのかニャー。
B:ビオンディって言やあ、あんた、サヴァールのとこのコンマスをずっとやってた人だもんね。
G:でも、サヴァールのとこは今回ヒロ・クロサキがヴァイオリンね。これも楽しみだわ。それなりに。