セクエンツィア

恋のはじまり
  ― 中世フランス宮廷では愛の魔法が語られていた ―

12世紀後半、トロワ地方(北フランス)のマリー・ド・シャンパーニュ伯夫人の宮廷音楽

<セクエンツィア>
ベンジャミン・バグビー (歌、ハープ)
ノルベルト・ローデンキルフェン (フルート)
スザンネ・アンゾーグ (フィドル)
エリック・メンツェル (歌、シンフォニア)

1999年12月16日 カザルスホール


(12月とはいうものの、なんだかなま暖かいですねぇ。ピリッとした寒さってぇのが 恋しくなる今日この頃でございますが、ネコはぬくぬく、暖かい冬を満喫しております。終演後、カフェ・ヒルトップにて)

CoCo: セクエンツィアを聞いたのは10年ぶりぐらいだったかニャー?

ガンバ: そうねぇ。そのくらいになるかしら? 前回はお得意のヒルデガルト・フォン・ビンゲンの音楽が中心だったから、女性が2人きれいな声を聞かせてくれたわね。

デデ: バーバラ・ソーントンと確かジル・フェルドマンだったかニャ? フェルドマンってクリスティーの「アティス」なんかにも出ていた人だから、おやって思ったような覚えがあるけど・・・

ブチッケ: 前回もとてもすばらしい演奏でしたけど、ちょっと女性の声がキンキン響いて・・・まあ、そのあたりがヒルデガルトだけのプログラムはちょっとつらいかニャーなんて思いましたがね。そういえば、リーダーのバグビーの相方だったソーントンは亡くなったんだそうですねぇ。まだ、そんな年じゃなかったでしょ?

デデ: そう、亡くなったそうですニャー。で、今回のプログラムは前回とはがらっと変わって、おフランスの宮廷音楽。歌ったのはバグビーさんと、エリック・メンツェルという人。

ガンバ: 前回は女声が主役で、バグビーはハープをかき鳴らす人って印象だったし、あんまりCDを聴かないせいか、バグビーの声の方は今ひとつ覚えがなかったんだけど、この人いい声してるっ。気に入ったね。特に前半にやった「ロランの歌」の一節と、後半の「アーサー王」のひとくさり。これはよかったぁ。

ブチッケ: そうそう、語り物でござんすニャー。えーとコンサート全体のコンセプトとしては、ブルターニュのミンストレルが歌ったと思われる曲を再現するということでした。おそらく譜面がほとんどないという状態から、想像力を働かせて再構成するっていうのは、本当に大変な作業だと思うんですが、楽しいでしょうニャー。

ガンバ: 「ロランの歌」や「アーサー王」ってのは物語としては有名だけど、当時は文字で読むというよりは、語られ、歌われていたわけよね。

CoCo: そうそう、今日歌われた「ロランの歌」なんぞは、言ってみればフランス版「平家物語」といった雰囲気でしたニャー。琵琶の代わりにフィドルの伴奏がついて、身振り手振りよろしく、合戦の様子を語っていく。平家なら七五調でたたみかけていくところだけど、おフランス版では脚韻が美しかったですニャー。

デデ: 脚韻を踏んで、次の節への期待を高めていくところが印象的でしたねぇ。平家琵琶だと身振りはつかないけど、バグビーさんはちょっとした手振りを交えて・・・

ガンバ: 見て来たような嘘をつき。

デデ: うん。講談とか、浄瑠璃の世界にも通じるかニャー。ところで、前半の最後にやった「くつろいでいる方がいらっしゃるなら」別名「旧約と新訳聖書のレ」ってえのもなかなか壮大な歌でした。レというのはトルヴェール(北フランスの吟遊詩人)の歌という意味ですが、実際はミンストレルという芸人が歌い演じたわけですね。

ブチッケ: はいな。この曲は訳詞で2ページ半ほどの長さですが、この中で、聖書のすべてを語ってしまうわけですニャー。この曲を聴けばキリスト教のすべてがわかっちまうって寸法です。これは、バグビーとメンツェルが交互に歌っていく構成になっていましたが、こうなると、ますますバグビーのうまさが引き立ちますニャー。

ガンバ: そうねぇ。メンツェルさんが歌っている間に、訳詞を先読みして、バグビーさんの歌を聴くって感じね。同じ歌詞を引き継いで歌っても表情が豊かなこと。ロランもそうだけど、こういう叙事詩の類が好きなのね。この人。

CoCo: プログラムのどこかに、鶴田錦史の琵琶のCDを愛聴しているって書いてありましたニャー。後半にやった「アーサー王」もなかなかのものでしたニャー。

デデ: ロランとはうって代わってケルト起源の伝説ですニャー。フランスでケルトっていうとちょっと変ですが、まあ、フランスとイギリスの区別がまだ曖昧模糊としていた時代ですから、アーサー王伝説はむしろ大陸の側で発達していったという考え方が一般的ですニャ。いろいろ枝葉にわたって物語が作られたわけですけど、今日はクレチアン作の宮廷ロマンの一節が語られました。

ブチッケ: これは無伴奏で、まさに講談のようでしたニャー。

ガンバ: そうそう、歌っているようで、いつの間にか語りになり、それがいつしか歌になる。たたみかけるところもあれば、ゆったりと間を取って余韻を楽しむゆとりもみせたわね。さてさて、バグビーが美しいバリトンでアンコールの曲目を告げたとたんに客席から盛大な拍手が起こって、ちょっとビックリした表情をしてたわねぇ。

CoCo: そうそう、「カンティーガス・デ・サンタ・マリーア」って言ったとたんにね。これは去年聞いたパニアグアに比べるとおとなしい感じのアプローチだったかニャー。カンティガとトルバドゥール(南仏の吟遊詩人)との類似性はよく指摘されるけど、今日の演奏はまさにフランス側からのアプローチって感じかな。

デデ: そうね。パニアグアの連中はかなり油が入っているからニャー。いや、アラブの匂いがプンプン漂ってくる感じですニャー。パニアグアの方は。アンコールの最後にやった、13世紀フランスの3声のモテットというのも、不思議な曲でした。

ブチッケ: 歌手は2人しかいないから、3声目は笛とフィドルが演奏したんだけど。うん、面白い。フーガのように順次声部が入ってくるんだけど、それぞれ全然違うメロディーだったよね。それが現代的な感覚からすれば、ガチャンとぶつかり合う不協和音をものともせず進行していく。とっても不思議な曲でしたニャ。

ガンバ: せっかく日本まできて演奏会が3回だけっていうのも残念ね。もっとやって欲しいわぁ。


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