音楽のタイムマシン

シェイクスピアの舞踏会

第1部:シェイクスピアの世界
     フィリップス、ホルボーン、ダウランド、ギボンズ、バードなどの音楽
第2部:スチュアート朝の仮面劇(マスク)
     「勝利せるブリタニア」
         ウィリアム・ローズ、ヘンリー・ローズの音楽

出演:ルネサンス合奏団「コンコルダンツィア」


1999年9月11日 上野、大ホール



(デデのひとりごと)

シーズンイン、とは言っても、いやあ、暑いですニャー。2カ月も音楽会から遠ざかっていると禁断症状で、手がふるえるわ、頭痛はするは、吐き気はするわ、金槌と包丁を持って突進したくなるわ、ん? まあ、そんなこんなでいつまで待っても涼しくなりそうにもないから、仕方なくこのくそ暑いのに音楽会に行って来ちまった。しっかし、上記のような音楽会をつい昨日まで知らなかったとは、何とも豚カツ。いや迂闊。

でも、行ってみるまでぜーんぜんわからなかった。まさかまさかの大ホール。文化会館はこのところ厚化粧を施すとかで、いや、リニューアルと呼んでいましたかニャ? しばらく閉鎖されていたんですが、どうやらその新装開店したばかり。「リニューアル記念コンサート」と銘打ったシリーズの初日でした。どこがどう変わったかというと、まず、建物に入ってすぐ左のチケットサービスに、Macが4台。9600、G3、それにiMacが2台。何に使っているのかは不明。その先、壁面に音楽会のポスターが貼りだしてあるあたりでは、ワゴンセール。Tシャツ、アクセサリー、CD、本などを売っているんですが、そこにAppleの何十周年記念モデル(スパルタクス)だかに何か不明なものをつないで、なにやらプレゼンテーションをやっているような、やっていないような・・・ワゴンセールのレジにもiMacが・・・というわけで、ホールの入り口までMac Expoの雰囲気が漂っておりました。

建物や内装に手を加えた様子は見えませんでしたニャー。ただ、上野名物、和服を着たもぎりのおばちゃんが、やけに若々しくなって、ミニスカートなんぞを着用に及んで・・・いや、これは厚化粧とは関係なさそう。た ぶ ん

席について驚いた。このプログラムで大ホールは無謀もいいところと思いこんでいたんですが、いや、何と、ほぼ満席。読売新聞、東京都教育委員会、カネボウなんてのが主催やら協賛やらに名前を連ねていて、そこらへんに動員の秘密が隠されているんでしょうか。ともかく、ロビーも客席も、歌舞伎座か演舞場の雰囲気が充満していて、どうなることかと心配していたんですが、音楽が始まると、弁当を開くでもなく、聞き入っていたようです。

ふー、久しぶりなんで前説が長くなりすぎました。それでは音楽の話。ステージ奥にオケの管楽器と打楽器が乗っかる山台が組んであって、下手にガンバコンソート(6人)とリュート、上手に管楽器(コルネット、サックバット、リコーダーなど)と打楽器、中央にイングリッシュヴァージナル(奏者は背中を向けて演奏)とハープ(ヴァージナルと同じ人が演奏)というブロークンコンソートの楽器配置。ステージ手前のスペースはダンスフロア。客電が落ちて、ピーター・フィリップスのパッサメッツォとパヴァーヌが鳴り響くとそこは、16世紀の宮廷・・・と、演出家は考えたんでしょうが、どうもいけない。まず、アインザッツがバラバラ。コルネットやサックバットがあまりに神経質になりすぎて、音がヘロヘロ、プヒョーとやらかす。ヲイヲイ、何とかしろよ〜。

まずはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の舞踏会の場面。残存する作者不詳の劇付随音楽を5曲。そのうちいくつかは舞踏譜も残っているそうで、まあ、かなり忠実に再現したんでしょうか。踊りはよくわかりません。ただ、現代の社交ダンスもそうだけど、あれは人に見せるようなもんじゃないですニャー。踊っている人は楽しいのかもしれませんが、見て面白いかというと、おいらは、ぜーんぜん。ただ、数少ない踊り手(8人)がとっかえひっかえ着替える衣装が、なかなか豪華な雰囲気を出していたと思います。ガンバの平尾雅子がムスメの衣装でジュリエットを踊っていましたが、なかなか優雅な踊りではありました。ここらへんから、器楽の方もだんだん調子が出てきたのか、乗りがよくなったような気がします。どういうわけかこの場面で歌われた「グリーンスリーブス」は比較的速めのテンポで、よろしゅうございました(波多野睦美)。

次はなぜかヴェローナから一気に飛んで、「ロンドンの街角」と題するパート。17世紀初頭のリュートソング、ガンバソングの類を7曲。貴族よ、館をい出よ。ブ・ナロード。ん? まあともかく、町の喧噪が聞こえてくるような音楽が並べてありました。波多野の他に、名倉亜矢子、村田悦子、望月寛之、小酒井貴朗の歌手人が出演しましたが、これがなかなかよく歌う。へーえ、こんなにアンサンブルのうめえ歌い手がいたんだニャー。取り澄ました上品なものだけでなく、猥雑な、下世話な歌をコミカルに聞かせられる古楽の歌手は貴重ですニャー。ホルボーンの「ハイ・ホー・ホリデー」あたりのちょっとバーバーショップ風の男声も面白かったけど、やはり波多野の歌った、ダウランドの「ご婦人向きのステキな小物」。ストレートによく伸びる声。聴いている方も思わずにやりとしてしまうような、乗りの良さ。この歌は一場をかっさらってしまいました。最後にギボンズの「ロンドンの物売りたち」を日本語で。「鳥かごはいらんかえ〜」、「獲りたてのとり貝だよ〜」、「豚肉は買ってきなー」とまあ、中身は大したことない歌を日本語で歌われると、やっぱりちょっと興ざめかニャー。この手の曲は語呂の面白さ、生き生きとした音やリズムの面白さで聞かせないとまずいんじゃないかえ〜。

前半の最後は、「ハムレット」からオフィーリアの死の場面を、リュートの永田平八と波多野のコンビで。語り手(清水明彦)が原文を朗読する合間に、歌とリュートが割り込む寸法。ここではやはり、いとも名高きアノニマス氏の「いとしのロビン」ですニャ。数多くはないですが、イギリス発の名旋律の一つでしょう。

後半は仮面劇(マスク)。筋立てはもう、どうしようもなく下らないんで説明しませんが、1637年にチャールズ1世の宮廷で実際に演奏されたと言われるもの。音楽は全部ローズ兄弟。その前半はアンチマスクという道化や、役者など専門家が演ずるドタバタ。後半が、国王以下貴族総出の素人芝居ということだそうですが、やはり圧倒的に前半の方が面白い。まずブロークンのファンタジーが2曲。もうこのあたりになると、演奏の方も緊張感はすっかりとれて、のびのびと曲が進みます。ヴァージナルの組曲に合わせて町のオッサン、オバハンの踊りもなかなかユーモラス。有名な「ネコ」ではもう、すっかりなりきっていました。「ネコだってほかの生き物と同じ、気取って歩いて、恋をする・・・ニャオ、ニャオ、ニャオ〜〜〜」の三重唱。お上品で学究的な音楽から一皮むけた声楽陣でございましたニャ〜〜〜。それから、「キスについての対話」。これは男と女の掛け合いでやるもんだとばっかり思いこんでいたら、なんとこの日は女性2人。ちょいと倒錯的な色気(?)がありましたニャー。

最後の素人芝居の部分はほぼ舞踏会の情景といったらよいでしょうか。歌や演奏をバックにひたすらステップを踏んでいるんですが、これが何とも・・・つまらん!だいたいなあ、この、日本のアーチストっつうのか、肉体表現をやらかす連中にはエロスが足りないんじゃよ。色気と呼んでもかまわない。最後のダンスのバックに流れている歌は、「さあ、ベッドへ! 淑女のみなさんが夢を見ますように・・・」ってな歌詞だ。それを社交ダンスみたいに踊ってもなんにも面白くないね、ふん。

というわけで、楽しめたような、さほどでもないような。でも、日本の第一線の古楽奏者の総力を結集したパフォーマンスだったことは確かです。特に声楽陣にはすばらしい可能性を感じましたがニャー。全体の構成はかなり散漫でした。それから演奏に際して、チェンバロでも、ガンバでもいいですが、はっきりとしたリーダーが必要でしょう。アンサンブルのばらつきは次第に解消されてきましたけど、間の持たせ方がなんとも珍妙な箇所が散見されました。ゲネプロどおりにやっているんでしょうが、必ずしも客席の反応が思ったとおりになるとは限らないわけですから、強烈なリーダーシップをとる人間が引っ張ってやらないと、間が持たないというか、白けた数秒ってのがどうしても生じてしまいますニャー。それから、これは企画そのものに対する疑問ですが、やっぱり、イギリスの音楽だけで1日持たせるのはかなりしんどいんじゃあるまいか。まあ、そんな印象を持ちました。

えーと、このシリーズはあと4回あって、

9/12 16.00 パリの休日 〜ベル・エポック時代のサロン・ミュージック〜

9/15 16.00 ライン川のロマン 〜デュッセルドルフのシューマン〜

9/18 16.00 ヴェネツィアのカーニバル 〜ヴィヴァルディとピエタの少女たち〜

9/30 19.00 ウィーンの巨匠たち 〜ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの大音楽会〜

ということになっています。



それにしてもどこを改修したのかニャー??? >文化会館のこと



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