バロックリュート・リサイタル
ヴァイスの組曲変イ短調、ハ短調、ニ短調
1999年12月22日 近江楽堂
(デデのひとりごと)
うわぁ、懐かしいですニャー。佐藤豊彦。日本のリュート弾きの元祖、本家、本元、総元締めみたいな人ですニャー。今でもハーグ音楽院のセンセだそうですが、確か30年近く前から同じところのセンセだった。同じオランダのケース・オッテン(ブリュッヘンのセンセ)と組んで、アムステルダム・シンタグマ・ムジクムっていうアンサンブルで80年代に一世を風靡しましたニャー。その後、ムジカ・アルバ・キョウとかいうグループも作っていたみたいですが、めったに日本では演奏会はしてないんだと思います。珍しくお名前を見かけたので、近江楽堂にトコトコ出かけてみました。
どうでしょうかねぇ。バーゼルの音楽院ではサヴァールと同期だったはずですが、それから後の世代に名人上手がわんさか出てきていますから、ちょっと技術的には古めかしいかなって感じがします。でも、絶対にフレットノイズを出さない端正な語り口はさすが。
1曲目は指ならしって感じもありましたが、アントレの自由なテンポ感がなかなかよろしい。低音弦をドローンのように使ったミュゼットでは、響きのコントラストが鮮やかでした。特に曲調の変わり目で撥弦点を駒から遠くして、音色をがらっと変えるあたりがなかなか冴えておりました。
この曲は変イ短調となっていますが、普通は嬰ト短調と考えますよね。とすると、次のハ短調の曲とはかなり隔たっているわけで、しゃべりを入れながら、入念に調弦をしておりました。ここらへんのリュートの調弦というのはどうなっているのだろうか興味津々。
ハ短調の組曲ではクーラント、サラバンドあたりがすばらしい出来。同じリュートの曲でもバッハとはエライ違いじゃあ。バッハのリュート組曲と称するものはいずれも無伴奏ヴァイオリンや無伴奏チェロからの編曲もの。リュートで弾いて悪くはないけど、さほど面白いわけじゃないっていうのが、ヴァイスを聞くと余計はっきりとわかります。ヴァイスのはリュートのための書き下ろしですから、曲の出来が段違い。この楽器の可能性を十分に引きだしてくれる曲ですニャー。
バッハ(1685-1750)とヴァイス(1686-1750)、方やライプツィヒの教会音楽家、こなたドレスデンの宮廷リュート奏者。すぐ隣町にいたんですニャー。ただ、給料と地位は天と地ほど違ったと言われています。ヴァイスは当時のヨーロッパ世界で一番の給金を取っていた音楽だとされていますニャー。この2人は交友があったそうですが、バッハの方は息子のフリーデマンを仲介に立てて、ドレスデンまでご機嫌伺いに参上したそうです。
それが今ヴァイスの音楽といって、「ああ、あれいいねぇ」って言う人にはまずお目にかかれない。というのも、ヴァイスはほとんどリュート以外の音楽を書いていないし、しかも、リュート曲も五線譜じゃなくてタブ譜。まあ、後生に与える影響という点ではヴァイスはかなり不利な立場にあることは確かでしょう。
だけども、その音楽たるやすばらしい。3曲目のニ短調組曲もその名に恥じない立派な作品でした。トッカータ風の自由な動きで始まるファンタジアでは、リズムと音色の妙を巧みに操る演奏で、後半のフーガ風の部分では、作品の重厚な構成力もみごとなら、淡々とした演奏も立派。アルマンドのたゆたうような揺れにつづく、クーラントの鮮やかさ。堂々として、しかも繊細なサラバンド。目にも彩なジグ。この演奏は大変みごとでした。
アンコールはバッハの組曲から一つ弾いた後、ヴァイスのシャコンヌ。これは曲もすばらしければ、演奏にも脱帽。いやあ、バッハが小者に見えた一夜でありました。