イベール:三つの小品
プレイエル:五重奏曲
ラヴェル:組曲「クープランの墓」
ビゼー:「カルメン」組曲
プーランク:六重奏
ミッシェル・モラゲス(フルート)、ダヴィッド・ワルター(オーボエ)、
パスカル・モラゲス(クラリネット)、ピエール・モラゲス(ホルン)、
パトリック・ヴィレー(バッソン)、出羽真理(ピアノ)
1999年10月25日 紀尾井H
(終演後、ハヤシライスを喰ひつつ語らふ猫ども)
ガンバ: いやあ、すごかったぁ。
ブチッケ: ホントに。この人たちパリ管やらフランス国立やら、オケのメンバーではしょっちゅう来日しているらしいけど、五重奏では初めてかな。
CoCo: いや、2年前に一度来ているらしいよ。
ガンバ: あとクラリネットの人は日本でソロのリサイタルをやったことがあって、その時もずいぶん好評だったらしいわ。
デデ: でも先週、上野でこのチラシを偶然見つけなかったら、このすごい演奏を聞き逃したところでしたニャー。危ない危ない。
まず、有名のイベールの曲が始まったとたんに、木管の柔らかで、しかも色彩豊かな音が会場にパッと広がりましたニャー。あそこのホルンのうまさに思わず「うっ」と声が出てしまった。
ガンバ: うんうん。そう、私も始まったとたんにね。あのホルンはすごいって思った。最初にイベールをもってきて、おフランスの軽妙洒脱というか、粋な音色の世界に聞き手を引き込んでしまうっていうのも、面白い趣向ね。
ブチッケ: そうですニャー。普通なら、プレイエルやらハイドンから始めそうなもんですが。よく似た団体で、アンサンブル・ウィーン・ベルリンっていうのがあるけど、あれとはまったく違う音楽ですニャー。ウィーンやベルリンのセンセたちは、確かにある意味で音色は美しいし、安心して聴けるグループですけど、絶対にチャレンジしないし、自分たちの殻を破ろうとはしませんな。それに対して、このグループはまあ、何ともうしましょうか、うん、すごい。すごすぎる。
デデ: さっきから、すごい、すごいで議論が全然進みませんニャー。えーと、2曲目のプレイエルはハイドンのお弟子さんで、放浪のあげくにパリでピアノ屋さんになった人ですニャー。
CoCo: まあ生真面目なモーツァルトってところでしょうかニャ。これはいわゆる木管五重奏の典型みたいな、ディヴェルティメントと言ったらいいのかな。きれいなメロディーに常識的なハーモニーが付いていて、そこそこ楽しませてもらいました。特に第2楽章の、あれは変奏曲かな。あそこの各楽器のソロがうまかったニャー。
デデ: 次が「クープランの墓」だけど、これはピアノ版とオーケストラ版の中間って感じだったかな? 管楽器はほぼオケのパートに沿っていて、ピアノが弦とハープのパートを鳴らしていたみたいですニャー。
ブチッケ: これも唖然とするほどうまかったですニャー。特にオーボエのワルター兄さんの歯切れのいいこと、歌い回しの軽妙なこと。
デデ: うん、この編成で聴くと、オリジナルのピアノ版やオケ編曲版よりも各パートの色彩感が鮮やかに出て、バロックのブロークンコンソートの雰囲気さえ感じさせてくれましたニャー。ピアノはどちらかというとややくぐもった音色を使って、ラヴェルにはピッタリだったんじゃなかろうか。
後半は、まず、「カルメン」の組曲。「クープランの墓」と並んで、オーボエのワルターという人が編曲したものでした。
CoCo: これは編曲して特に面白いというわけではなかったけど、とにかく全員すごくうまいのがよくわかったね。
デデ: 最後にもってきた前奏曲のかっ飛びのテンポ。すごかったですニャー。オケでも極めつけの難曲だけど、全然ごまかしなしに完璧に吹いていましたニャー。さてさて、最後がお待ちかねのプーランク。ガンバはいろいろ言いたそうですニャー。
ガンバ: うわ〜〜〜〜〜。もう、もう、もう、あの出だしのテンポからぶったまげげたぁ。あたしゃねぇ、もう何回この曲を聴いたことか。実演でも、レコードでも。でもね、うん、今まで聴いたあらゆる演奏を超越していたね。今日のは。
ブチッケ: そうそう、あの出だしのテンポは、本当にこれで行くのかなって、一瞬信じられなかったですニャー。プーランクは管楽器をこよなく愛し、中でもクラリネットとホルンにとりわけ執着した人ですニャ。それで、この曲は大げさに言えば、ホルンの出来如何で全体が決まっちゃうようなところがあるから、たぶん、この曲をやるときのホルン吹きったら、心臓が飛び出しそうな気分だと思うんだ。
デデ: ホルンのパートがど派手に書いてありますからニャー。
ガンバ: ドイツ・オーストリア系のアンサンブルがやると、どうしてもホルンの都合が優先されて、締まりのないテンポになってしまうのよね。1楽章と、3楽章は冒頭のホルンの一吹きがテンポを決めるでしょ、そこだけホルン吹きの技量に合わせて、後からテンポを上げようとするような演奏になっちゃうわけ。これは絶対にやってはいけません。
デデ: そうだね。テンポに整合性がないと、説得力も出てきませんニャー。いやそれと、このグループはうまいと言うだけじゃなくて、各楽器が実に魅力的な音色を持っていましたニャー。よく、弦楽四重奏が音楽の抽象性の極致のように言われることがあるけど、木管五重奏はその正反対といってもいいジャンルかなって思ったんだ。つまり、すごく具体的。色彩的、ないしは絵画的といってもいいかもしれない。ショーペンハウワーには悪いけどさ。
CoCo: そうだすニャー。いろいろ音色が違う楽器が競い合って、あっちこっちから、噴水のようにあるいは、シャンパンの泡のように音が湧きでて来ますニャー。ある意味で、バロック的なアンバランスな部分を持ちながら、全体としては統一がとれている。
ブチッケ: あれだけの名人技を披露しながら、あの安定感はすごいですニャー。たまたま、熱演になって、ああいう演奏ができてしまったというんじゃなくて、きちっと計ってやっていますね。あの連中は。
ガンバ: ホルンもそうだけど、他の楽器もうまかったわね。第1楽章だっけ、ピアノまで含めてガシャーっと大音量を鳴らした後、突然静かになって、バッソンがエレジーのようなもの悲しいメロディーを一くさり。あそこんとこ、ゾクゾクしたわねっ。
CoCo: はいニャ。この曲ではラヴェルとはうってかわって、ピアノのお姉さんもすごくザハリヒというか、プーランクに要求される即物的で、しかも叙情的な響きをよく出していたと思いますニャー。
ガンバ: うんうん。そこよ、そこなのよぉ。低音のガーンという金属的な響きを濁らせないで出すのは結構難しいのよ。その直後にロマンチックなアルペッジョをさらっと、しかも芯のしっかりした音で鳴らしたりして。うん、このピアニスト、初めて聴いた人だけど、アンサンブルができるニャって思ったわ。
(ここからデデのひとりごと・・・ぶつぶつ)
ところで、本日会場で一部500円也で販売していたプログラム。これは一体何じゃ!!!扉をめくるといきなり、
「木管五重奏は、5つの異なる楽器がと来たもんだ。イベールの解説にはこうある。
どれだけ個性を訴えつつ
どれだけ融合生を保てるかが重要なのです。」「最終楽章は、新たな生き生きとしたテンポで、華やかな妙技を見せてくれるテーマが、主にクラリネットによって繰り広げられる。この最終楽章のように、ゆっくりとした短いイントロダクション(序奏)がそれに先行するのは珍しいが、それは一種の序曲を思わせつつ楽章の順番に作用して使われているのはよくある。これはモラゲス五重奏団用に編曲されたものである。本日はこのスタイル即ち最終楽章から演奏を始めることにする。」をいをい、一体何を言おうとしてるんじゃ。小学生でもここまで論旨不明な文章は書かないと思うんですがニャー。「最終楽章から演奏を始める」ってどういうことなのかいニャー??? それに、特段編曲の跡も見えませんでしたがニャー。まあこんな感じで、ガキっぽい翻訳が延々と続くわけですが、極めつけは「クープランの墓」を解説した次の一節。「戦争の真っ只中、『クープランの墓』はラヴェルのピアノ曲に閉じこめられた。」こりゃあ泣けて来ますニャー。デデが思うに、ここは、「ラヴェルは第一次大戦中に、『クープランの墓』を最初はピアノ曲として書き上げた」という意味であろうかと拝察申し上げ奉りますんですがニャー。この翻訳者、名を名乗れ。馬鹿もん。