原田節 エキセントリック・ライブ

オンド・マルトノ、
ピアノ、
ギター:原田節
ゲスト(ギター):鈴木大介

(曲目)
ボリス・ヴィアン、ジャック・ブレルなどのシャンソンと
原田のオリジナル作品

1999年9月22日 成増アクトホール



(デデのひとりごと)

オンド・マルトノって楽器はご存じでしょうか? キーボードといくつかのスピーカーを組み合わせた電気楽器、電子楽器、電波楽器、まあそんなようなものですが、シンセと違って、単音しか出ません。ただし、実に表情が豊かです。ヴァイオリンやチェロのような音色ももするし、フルートかオカリナのようでもあるし、最高音のあたりは鳥の鳴き声のようでもあります。ヴィブラートがよくかかる上に、アナログなポルタメントというのかグリッサンドというのか、これが何とも不思議な雰囲気を醸し出す楽器です。

ちなみにオンド・マルトノの超有名曲と言えば、メシアンの『トゥランガリーラ交響曲』。もうこの一曲だけがめちゃくちゃ有名で、その結果この曲をやるときには世界中どこにでも飛んで行かなきゃならないのが、演奏者の原田節。(楽器と演奏者については、こちらをご覧ください。)

今晩は比較的近くのホールでこぢんまりとした演奏会でした。何やらカップヌードルの容器のようなものを持って出てきて(中には水が入っているらしい)、喉を潤し、しゃべりは無しでいきなりピアノを弾き始めます。ボリス・ヴィアンの「僕はスノッブ」。オーガンジーのシャツ、イタリアのネクタイ、コーラは大嫌い、ダイヤで体を暖め、テレビはうんざり、僕が死んだら、ディオールの屍衣を着せてくれ。とまあ、「僕」とは絶対にお友達にはなりたくないニャーと思ってしまうわけ。ちょっとハスキーボイスの原田の弾き語りも、かなり、なりきっています。いいところのぼんぼんという雰囲気がプンプンしてきて(慶応ボーイ)、聴くものは心底嫌なやっちゃな〜と思います(それほどでもないか?)。まあそこらへんも演奏効果の内で、ボソボソ語り始めるとなかなかに面白い。

ヴィアンのシャンソンがもう2曲。「脱走兵」は大統領殿で始まり、明日の朝脱走します。どうぞ発砲してください、と痛烈な反戦歌。たぶんアルジェリアやインドシナ戦争を批判したものしょう。「酒飲み」はコキュが飲んだくれる歌。シャンソンの王道ですニャ?

今度はいよいよオンド・マルトノの前に座ってオリジナル曲をいくつか。最近流行のヒーリング系の曲のようでいて、構成がかなりしっかりしているので、飽きが来ない。たぶんシンセの音と重ねているんだと思いますが、単音のオンドだけではない、かなり重量感のある音が鳴っていました。ゲストの鈴木大介もなかなかの奏者とみました。

前半の最後はまたシャンソンを2曲。今度はジャック・ブレルの「行かないで」と「アムステルダム」。特にアムスはとっても楽しそう。ハンブルクやアムスといった港町は独特の雰囲気がありますニャー。水夫、酒飲み、娼婦・・・この感じは原田にぴったりみたい。というと最初のスノッブとかなり矛盾しますが、まあ、常人の内なるドッペルゲンガーでしょうか。ギターを抱えながらオンドを弾いたり、歌を歌ったり、文字通り八面六臂の大活躍。ゲストの鈴木もしっかりと支えていました。

後半はオリジナルの「ターコイズ・ジャヴァ」。なかなかリズムの乗りがよろしい。次に昨年生誕百年を迎えたガーシュインの「スワンダフル」。ちなみに今年はプーランクとフレッド・アステアの生誕百年。あんまり関係ないかっ? スワンダフルでは鈴木のギターが大活躍。原田はギター、オンド、ピアノの間を行ったり来たりで、さかんに合いの手を入れるんですが、どちらかというとジャズはタイプではないみたい。それにあれだけ楽器を使い分けると、どうしたって、どれもイマイチだなぁ、といった感じになっちゃいますねぇ。

「Love」という原田のオリジナルの後、この日の目玉、「9月の旅」が演奏されました。前半に演奏された、ややムードミュージックがかった曲とは明らかに異なり、こちらは本格的な作品。第一楽章のプレリュードはクルクルと気分が変化して面白い。20世紀も終わろうとしているのに、なな何と第二楽章はフーガ。ここでは鈴木のギターが冴え渡ります。オンドはあくまでも単音ですから、原田はほかの楽器も弾きわけるんですが、あくまでもギターを引き立てるような感じでしたでしょうか。でも、このフーガはクールでしかもエレガント。聴き応えがありました。第三楽章エコーは、鈴木の言葉によると「危ない音楽」。でもこの手の曲を聞き慣れているものにとってはさほどでもない。まあ、ゴテゴテのゲンダイ音楽の一歩手前といったところでしょうか。

プログラムの最後は再びブレルのシャンソン。「子供の頃」と「レ・ブルジョワ」。プーランクと同じで、ブレルは大富豪の生まれだそうですニャー。で、そういったブルジョワジーの生活に我慢がならなかった。子供の頃の召使いにかしずかれた平和な生活。それに終止符を打つ思春期、そして戦争。「レ・ブルジョワ」のほうでも、二十歳の頃、安酒場で酔いしれるジョルジュはヴォルテールを気取り、ピエールはカサノヴァのつもり。高級ホテルから出てくる連中を、ブルジョワの豚野郎ってからかったものさ。/ 高級ホテルのバーで飲んでる俺たち。偉くなってもジョルジュはヴォルテールを語り、ピエールはカサノヴァ。でも俺たちがここを出るとき、若いチンピラどもが、ブルジョワの豚野郎ってからかいやがる。とまあ、こんな内容でしょうか。ワレワレも気を付けねばなるまい。

アンコールは前世紀末の小粋なシャンソンというのか、艶笑小唄をいくつか。現代のシャンソンに直結するんでしょうが、内容や語り口は16世紀のジャヌカンやラッソのシャンソンに近い。おいらの感覚からすると、「世俗曲」とでも呼んだ方がぴったり来ますニャー。たとえば、旦那と召使いの小娘との秘め事。

「お前の唇は花のようだ。かわいいねぇ。」
「旦那様のお友達も皆さまそうおっしゃいます。」

「今夜、お前の部屋に行くから、鍵を開けておくんだよ。」
「旦那様のお友達も皆さまそうおっしゃいます。」

「お前の体は本当にすばらしいねぇ。」
「旦那様のお友達も皆さまそうおっしゃいます。」

ものすごい早口でまくし立てるんで、ほとんど聞き取れないんですが、わずかにわかったストーリーはまあ、こんなところ。原田はこの手の曲を実に生き生きと楽しそうに歌います。好きなんですニャー。(ん、なにが〜?)

あ、それから、アンコールにラヴェルの「パヴァーヌ」も演奏されました。鈴木が今日買ってきたとかいう譜面をいきなり弾いてみせましたが、う〜ん、この人ホントにうめーわ。この曲は、この音を決めれば曲全体が決まるっていう、とっておきの一音があるんですが、ほぼ初見でそれをみごとに決めてみせました。というわけで、買ったその日に譜面の元も取れて、メデタシメデタシ。



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