京劇『覇王別姫』

大連京劇団

項羽:楊赤
虞美人:李萍

1999年3月4日 サンシャイン劇場



(デデのひとりごと)

京劇『覇王別姫』を観てきました。なぜ「音楽の小部屋」に芝居の話が?といぶかる向きもございましょうが、京劇は英語でBeijing Operaとも呼ばれるように、役者が朗々と歌うオペラでもあるのです。よく似ているようでも、ここらへんが日本の歌舞伎とは大違い。様式美や歴史物のメンタリティーには共通するところもあるんでしょうが、全体に芝居のテンポが速く、音楽も銅鑼や太鼓、チャルメラ、胡弓など、それはそれは賑やかなこと。

秦の始皇帝が没して世の中が乱れに乱れ、群雄が割拠する中から、漢の劉邦、楚の項羽が次第に勢力を拡大。連戦連勝の英雄項羽ですが、やや情に流されやすく、短気で、緒突猛進型の豪傑といった感じでしょうか。何度かの実戦と、権謀術数の限りを尽くした心理戦を展開するわけですが、項羽は劉邦の計略にまんまとはめられて山中に進軍、垓下(がいか)に包囲されてしまいます(第一幕)。京劇の特徴でしょうが、人物像がくっきりと描かれていて、芝居がてきぱきと進行し、観ていて飽きませんねぇ。絢爛豪華な衣装と、軽快な立ち回りが見所です。

第二幕はいわゆる「四面楚歌」から「覇王別姫」、そして「烏江に死す」までの段。夫項羽を帳の中で休ませた後、虞美人は一人外を歩くと、離反を相談する兵士の声。さらに、四面から聞こえる楚の歌声。虞美人がこれを伝えると、劉邦が楚の地を取ったのだと項羽は勘違い。有名な

力は山を抜き、気は世を蓋う。
時に利あらず、スイ(馬の名前)逝かず。
スイの逝かざるをいかにすべき。
虞や虞や汝をいかんせん。
を歌います。この詩はあまりにも有名ですが、実際に歌うのを聴くとぞくぞくしますニャー。前半はかなり速めのリズミカルな歌い回しで、後半はビブラート(?)をたっぷり効かせて、聴くものの涙を絞り取る、うん、なかなかよいぞ。虞美人も項羽の袖に取りすがって打ち震えます。今度は代わって虞美人が夫を慰めるために二刀流の剣舞を舞います。ここも女形の見せ場。現在では女形ではなくて、ホントの女優が演じますが。虞美人はひとしきり舞った後、足手まといになるからと、自害して果てます。

とまあ、この場面は京劇でもしばしば取り上げられる狂言ですが、今回はその後、烏江で計略にはまって項羽が自刃するところまで演じられました。愛馬スイが主人を思って河に飛び込む場面を、チャルメラのいななきで表現していましたが、これがなかなかはまっていましたニャー。

ところで、『覇王別姫(さらば我が愛)』というとってもきれいな映画があります。芝居の『覇王別姫』と直接関係があるわけではないのですが、項羽と虞美人を持ち役にした2人の俳優の生涯を描いた映画でした。戦前、戦中、そして新中国の建国。文化大革命。こうした時代に翻弄されつつも、どこか深いところで結びついていた2人の人生が、『覇王別姫』の物語とオーバーラップしてなかなか感動的な映画だったと思います。で、今回の演出を担当していた袁世海という長老、実はあの名女形だった梅蘭芳と組んで項羽を演じていた人でした。映画の『覇王別姫』と今日観た芝居の『覇王別姫』と、そして、伝説的な名優達の『覇王別姫』と、その3つが今デデの頭の中でグルグルして、どうも話がまとまらない。今日の結論はなしぢゃ。



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