北とぴあ国際音楽祭 フィレンツェの謝肉祭

― ロレンツォ・デ・メディチ豪華王の時代 ―

カレンディマッジョ(メーデー)の音楽
太鼓、太鼓/さあ、とりかかれ/ようこそ5月よ/ガリアルダ「若草の上で」/
それは5月のことだった/ラジオーネのソルタレーロ/こんなふうに踊っていると/
私のお父さん/カラータ(ヨアン・アンブロジオ・ダ・ルツァ)/バッカスの勝利/
村娘よ、なにができるのかい

謝肉祭の歌
巡礼兵士の歌/栗のパン/スカラメッラは戦争に行く(ジョスカン・デ・プレ)/
陽気な傭兵の歌/ レベックを弾く傭兵の歌

十字架の謝肉祭
スパーニャ(ジョスカン・デ・プレ)/死神の山車/あなたのまなざしを向けてください(A. デモフォン)/
あなたのもとにまいります、聖母マリア様/イエス様、イエス様/煙突掃除人の歌/
機織りの歌/煙突掃除人の歌

<演奏>ドゥルス・メモワール

1999年11月10日 北とぴあ



(所はビヤホール「らいおん」。今日も今日とて神々は聞こし召されているようす。)

デデ: フニャニャニャー。らいおんエールはんめえんだなぁ。

CoCo: ぴちゃぴちゃ、そうですニャー。

ブチッケ: ぐびぐび、まことにごもっとも。

ガンバ: エールもいいけど、今日のドゥルス・メモワールってぇのも、んまかったわね〜。イル・マニフィコ(豪華王)の時代の音楽を再現するっていう趣向も、なかなか面白かった。「フィレンツェの謝肉祭」と銘打っているけど、前半はむしろフィレンツェの五月祭の陽気な雰囲気だったわね。

ブチッケ: そうでござんす。四旬節の前の本来のカーニバルよりも、一斉に花が開き小鳥がさえずり始めるメーデーの方が、開放感があって、陽気に歌い出す雰囲気になりますんでしょうなぁ。パリでもこの頃の2〜3日だけ、どこから出てくるんだか、「ミュゲ、ミュゲ」って言いながら女の子がスズランを売って歩きますニャー。

ガンバ: 今日は女の子じゃなくて、いきなり太鼓のおじさんが大活躍。それにショームやサックバットの音色が重なって一気にお祭りの雰囲気が盛り上がったわね。

デデ: そうでした。あの太鼓のおっさん、なかなかできると見ました。タンバリンのように手に持って叩く太鼓なんだけど、何種類か使い分けて、面白かったですニャ。

ガンバ: そうそう、直径50センチぐらいの大きなやつから、普通のタンバリンまで曲によって使い分けていた。大きなのには金属のシャカシャカいうのはついていないんだけど、縁の内側に小さな鎖が張ってあって、それが叩き方によってはシャラシャラ鳴るわけね。スペインのエステバンもうまいけど、こっちのえ〜と、ブルーノ・カイヤっていう人もどこかアフリカ的な匂いを漂わせながらも、もうちょっと小粋な感じがしたわ。

CoCo: そうだニャー。エステバンはパリダカの道端で太鼓を叩いている原住民に混じっても違和感がなさそうだけど、こっちのおっさんはちょっと洗練された雰囲気があったニャー。うん、だけど、うちからわき上がってくる自然なリズム感、テンポ感、それから、強弱や音色の打ちわけがみごとだった。

デデ: 太鼓のリズムに乗っかって珍しい管楽器が何本も登場して、まるでルネサンスのフィレンツェの街角に立っているような錯覚を覚えました。主に舞台の上手側に管楽器と太鼓、下手側に歌手とリュート(ギター)弾きという配置でしたが、曲によっては、リコーダーと歌手が交互に並んで、リコーダー吹きは歌手の譜面をのぞき込むようにして演奏したりして、なかなか微笑ましい光景も見られましたニャ。

CoCo: そうそう、すごいと思ったのは、時々歌手の譜面をのぞき込む以外、器楽奏者は完全に暗譜でしたニャー。本当に弾き込んだレパートリーなんだニャー。

ブチッケ: 最初の2曲は器楽で演奏して、「ようこそ5月よ」から歌が入ってきました。リュート(ギター)弾きのお姉さんもうまかったニャー。器楽の演奏の最後あたりからすーっと入ってきて、ちょこっと即興演奏しながら転調して、次の歌につなげちゃうところなんざぁ、ただ者じゃないね。

ガンバ: 歌手はどの人もリリックで芸達者だったけど、中でもカウンターテナーのマーク・ポントゥスという人がうまかったねぇ。何かと話題のカルロス・ゴーン氏に似た風貌なんだけど、声がスーっと伸びて、自然な歌い口だった。

デデ: そうですニャ。ドミニク・ヴィスからえぐみを取ったような、自然に伸びる声でした。しかもなかなか演技も達者。前後するけど、アンコールで歌った「私たち女の子」なんざぁホントになりきっていましたニャー。イギリスのカウンターテナーって全員、顔を真っ赤にして、胸が張り裂けんばかりの歌い方するけど、あれは見るからに苦しそうで、オカマっぽいですニャー。

ガンバ: そう、そこなのよぉ。このポントゥスって人は楽々と楽しそうに歌っていたわねぇ。メーデーの音楽は全体に春の喜び、愛や恋といった歌が並んでいたでしょ。どれもこれもたわいない曲だけど、それをうまくつなげて、まとまりのある舞台作品のように歌い演奏していたのがすばらしかった。

ブチッケ: 歌の内容自体はたわいないものなんですがね。春の喜びと、そう、恋の歌。それに、飲んで騒いで底抜けに明るい酒の歌。ロレンツォ作詞の「バッカスの勝利」ってえのも、恋の歌のようでもあり、酒の歌でもあり、最後はケセラセラ、文字通り「明日のことはワカラナイ」で各節がくくられるわけですニャー。あ、そうだ、最初に挙げた曲目で、作曲者が書かれていないものは、全部、かの有名なアノニモス氏の手になるものでござんすニャー。

デデ: 第2部の謝肉祭の歌は、メーデーではなくてホントの謝肉祭の歌でしたニャ。「巡礼兵士の歌」や「レベックを弾く傭兵の歌」はドイツ人傭兵の歌です。ドイツ人はどうしようもない田舎者って感じで歌われていますニャ。

CoCo: これはあまり洗練された雰囲気に仕上げちゃいけない。八方破れな乞食坊主の雰囲気が良く出ておりました。このグループは、CDには例のジャヌカンの「戦争」も入れてるけど、あれなんかも面白いね。ヴィスのアンサンブル・クレマン・ジャヌカンがこの曲をやると、機関銃で撃って撃って撃ちまくるような感じで、それはそれですごいと思うんだけど、こっちのグループの戦争は、ちょいと金目のものをくすねて、あわよくば女の一人もものにできれば、ってな感じの傭兵の戦争だね。剣を持って「いとも名高き戦いの・・・」って歌うんだけど、よく見るともう一方の手には焼酎の瓶をしっかり握りしめているって感じがする。

ガンバ: まるで平手神酒だね。

ブチッケ: 待ってやした、「大利根月夜」。

CoCo: あれをご覧と、指さす方に〜♪

デデ: ふぎゃ〜、そういう話じゃない! でも、「スカラメッラ」もヴィスの十八番だけど、こっちの連中がやると、「ラコンベロ、ボロ、ボロンベタ」って合いの手が、「さのヨイヨイ」って聞こえてきますニャー。さてさて、第3部の十字架の謝肉祭というのは、ロレンツォの死後フィレンツェの実権を握ってオッソロシイ独裁を行った、サヴォナローラの時代の音楽なんだそうですニャー。確かに「悔い改めよ」とか、「苦悩、悲嘆、悔悛」だとか、「哀れな罪人」だとか、まあ抹香臭いことこの上ない。

ブチッケ: でも・・・

CoCo: でもちゃんと、落ちがついているんですニャー。

ガンバ: クッ、クッ、ク。胸の前で両手を合わせたりして、やけにしんみりと「イエス様、イエス様」を敬虔に歌ったと思ったら・・・

デデ: ふふふ、「イエス様、イエス様」の歌詞はこんな感じ。

イエス様、イエス様、イエス様、皆がイエス様を呼ばんことを!
心からこの名前を呼びなさい、
どれほど彼が公正で寛大であるかを聞きなさい。
彼を敬虔に呼ぶ者は、心の中でイエス様を聞くことになる。

というわけで、面白くも何ともない。でも、まったく同じメロディーに次の歌詞を乗っけるとぐっと盛り上がるわけですニャー。
来い、来い、来い、煙突掃除をしたい人は煙突に。
奥さん、さあ、煙突掃除をしたい人の上にどうぞ。
手前どもは内も外もお掃除いたします。

もし奥さんが、こんなふうに全体を隅々まで
湿ったところも乾いたところも掃除するように人夫に命令すれば、
手前どもの煙突掃除夫はかくも心地よい果実となるのです。


CoCo: すぐに処刑されたからよかったものの、坊主の時代がいかに息苦しかったか、如実にわかりますニャー。イエス様をやけに神妙かつ敬虔に歌い上げたと思ったら、突然アップテンポになって、なにやらラインダンス(?)もどきのステップを踏みながら、同じメロディーで「来い、来い、来い、煙突掃除をしたい人は・・・」って始めたもんだから爆笑しちまいましたなぁ。

ガンバ: しかし、このグループ、本当に楽しそうにやっていたわねぇ。演奏する方が楽しくて仕方ないから、こちらもついつい乗せられちゃう。

CoCo: 「ブラボー」って言ったら、「アリガトー」ってかえってきた。ステージから返事されたのは初めてだニャー。

ブチッケ: それに自在なテンポ感やリズム感。チューニングも一切なしで完璧に揃ったピッチ。いや、ただ者じゃござんせんな。

デデ: 然り、斯くの如く、祝祭的かつ道化的逸脱甚だしきパフォーマンスは実に愉快なものではあるニャ。


「大いなる饗宴」と題するドゥルス・メモワールの野外コンサートが行われます。

声と楽器のコンセール 〜フランソワ1世の宮廷音楽〜

99年11月14日(日) 午後2時 (無料)
飛鳥山公園内 旧渋沢庭園 (公園の本郷よりの一角です)
(雨天の場合は、2時から北とぴあ区民プラザで先着150人に整理券を発行し、
午後6時から飛鳥山博物館ホワエで演奏するそうです。)



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