北とぴあ国際音楽祭 ボッケリーニの快楽

ボッケリーニ
ギター五重奏 第7番 ホ短調
チェロ・ソナタ 第?番 イ長調

ソル
モーツァルトの「魔笛」の主題による変奏曲

ボッケリーニ
ギター五重奏 第4番 ニ長調 「ファンダンゴ」

<演奏者>ラ・レアル・カマラ
ギター:ホセ・ミゲル・モレノ
ヴァイオリン:エミリオ・モレノ、エンリコ・ガッティ
ヴィオラ:若松夏美
チェロ:ルール・ディルティンス

1999年10月30日 北とぴあ




デデ: 今年も北とぴあ国際音楽祭の時期になりました。で、今年の注目は何と言ってもこのモレノ兄弟とディルティンスが競演するボッケリーニの演奏会ですニャー。

ガンバ: ディルティンスはいつだったっけ、ユングヘーネルと組んでヤーコプスのリサイタルの通奏低音をやって、ものすごい演奏を聴かせてくれたわね。

CoCo: そうそう、あの時はヤーコプスがちょっと調子を崩していたってこともあったけど、もっぱら観客の拍手も2人の通奏低音の方にばっかり行っちゃったりして、ヤーコプスにはちょっとかわいそうでした。

ガンバ: そうなのよぉ。ソリストだったらあんまり上手な伴奏者を選んではいけないっていう、典型のような演奏会だったわね。カークビーと今の旦那ぐらいのコンビの方が、ソロが目立ってちょうどいいのかもしれない。

デデ: カークビーと言えば前の旦那も相当なもんでしたニャー。

CoCo: ディルティンスはすでにあの頃、バッハの無伴奏のレコードなんかも出していたし、イタリアものの演奏もすばらしかったニャー。

デデ: うにゃ。古楽器の演奏としては、あの無伴奏に比肩する演奏はまだ現れていませんニャ。ビルスマはCDではそこそこに聞こえるけど、実演はちょっと弱さを露呈しちゃうところがあるし。モダンの演奏ではヨーヨー・マの2回目の録音が大変優れたもので、全曲演奏会でも唖然とするほどみごとな演奏を聴かせてくれたけど、バッハの音楽の喜びをどのくらい表現しているかっていうと、おいらはディルティンスに軍配を上げますニャー。

ブチッケ: この人最初に来日した時には、ロエル・ディールティエンスって長い名前だったけど、だんだん短くなって、今回はルール・ディルディンス。まあ、発音ばかりは本人に確かめてみなけりゃわからんですが。

デデ: さて、肝心の演奏ですが、まず、ギター五重奏の第7番というやつ、これはちょっと、なんでしたニャー。

ブチッケ: うん。ボッケリーニの目録を調べてみたんだけど、この人ざっと見て60曲以上の弦楽五重奏を書いているですニャー。で、このギター五重奏というやつはいずれも弦楽五重奏からの編曲みたいです。プログラムによると、「優秀なギター奏者であったベナベンテ侯爵のために」書いたものだそうで、「侯爵の依頼が具体的にどのようなものであったのかは詳らかでないが、ボッケリーニが決して、ギターの名人芸を誇示するような作品に仕立て上げなかったのは確か」なんだそうですニャー。

デデ: それは聴いていてよくわかりましたニャ。バッハのブランデンブルクの6番もケーテンの殿様が「わしも合奏に入れてくれっ」ていうもんだから、仕方なく2番ガンバのパートを作ったわけでしょうし、このボッケリーニの曲もギターが入っているというだけで、さして特徴的な使われ方がされているわけじゃないです。でも思うに、ベナベンテって侯爵だっけ、この人はケーテンの殿様よりは多少楽器がうまかったのかニャーと。

CoCo: そうですニャー。基本的にはジャカジャカかき鳴らすのと、アルペッジョを弾いているっていうようなパートですけど、それなりに全面に出てくる瞬間もあって、ケーテンの殿様よりは音楽に造詣が深かったと思われますニャ。

ガンバ: さて、一曲目が終わってちょっとハプニング。本来のプログラムでは、二曲目がギター五重奏第9番となっていたんだけど、この譜面が入ったトランクが届かなかったそうで、その代わりにチェロソナタとソルの変奏曲にとっかえますって若松夏美が説明したよね。

ブチッケ: ふふふ、してやったりですニャー。イベリア航空に感謝!! 

ガンバ: でも譜面をバラバラにして別のトランクに詰めるってことあるのかしら?

デデ: まあまあ、そこらへんはあまり深く追求せずに、いろいろ、よんどころない事情ってこともあるでしょうし。

CoCo: ははぁ? まあ、結果的にはこれがよかったねぇ。ボッケリーニのチェロソナタはすごい曲だからニャー。最近ヨーヨー・マがコンチェルトを弾いてずいぶん話題になっているけど、ボッケリーニっていう人はチェロのパガニーニって感じがするね。で、ディルティンスは現代のパガニーニ。急にプログラムが変更になったというのに暗譜で弾いていましたニャー。

デデ: 編成もちょっとへんてこりんでした。普通なら通奏低音にもう一台のチェロと、チェンバロが必要なわけだけど、すぐには手配できなかったんでしょうか、なんとヴァイオリンのエミリオ・モレノが登場して通奏低音を演奏しましたニャー。

ブチッケ: うん、ヴァイオリンで通奏低音をやるのは初めて聴きました。まあ、チェンバロの通奏低音だったら右手で和声を補って弾くわけですが、その右手の代わりにヴァイオリンがチェロの対旋律を弾くような感じだったですな。

ガンバ: この曲、とにかくチェロの名人芸がものすごくって、その合間合間にヴァイオリンが合いの手を入れるって雰囲気ね。

CoCo: 暗譜で弾いていたところを見ても、うん、ディルティンスの十八番なのかな。超絶技巧をごく当たり前のようにさらっと弾いてみせましたニャー。よくチェリストって汗を滴らせながら熱演する人がいるけど、ヨーヨー・マとかディルティンスは涼しい顔をしてすごいことをやっちゃいますねぇ。

デデ: そうそう、そこなのよぉ。
さて後半の最初は、ソルの変奏曲でした。それまで、弦楽四重奏の陰に隠れていたホセ・ミゲル・モレノのギターがなかなか冴え渡りました。大きさから見ると、クラシックのアルトギターかなと思うんですが、よく鳴っていました。ロマンチックギターじゃなかったよね?

ガンバ: モダンのギターと比べると高音の響きがいっそう甘い感じかニャ。低音は巻き線じゃないでしょうから、ちょっと迫力不足かもしれないけど、魔笛の主題のアウフタクトが天国的に甘美に響いたわね。

デデ: さて、最後がギター五重奏曲「ファンダンゴ」。最初に演奏された第7番に比べるとこちらはずっと出来の良い作品でしたニャ。

ブチッケ: そうでござんす。最初のパストラーレからギターの音色が結構冴えておりましたニャ。でもこの曲は何と言っても第4楽章の「ファンダンゴ」にその魅力が凝縮されているわけで・・・

ガンバ: うわぁ、かっ飛びの楽しさね。この曲もチェロの超絶技巧がちりばめられていて、本当はチェロ五重奏(ギター入り)と呼んだほうがわかりやすいと思うんだけど。

CoCo: そうそう、7番の五重奏はオーソドックスな室内楽という感じだけど、これはチェロコンチェルトって言ってもいいくらいだニャー。左手がほとんど駒近くまで駆け上がったかと思うと、次の瞬間には重低音を響かせたりして、見るからに、聴くからに、大変そうな曲ですニャー。

ガンバ: 弓を弾ませて、ファンダンゴのリズムを刻んでいたかと思ったら、最後は弓を置いて、カスタネットを叩き始めた。

デデ: あのカスタネット下手くそだったけど、面白かった。土俗的なリズム感というのかな、それがよく出ていたと思うね。先日聴いたスペインのトナディーリャだっけ、あれの打楽器がとんでもなく下手くそで、メトロノームみたいな打ち方をしてひんしゅくを買っていたわけだけど、あれとはエライ違いだったニャー。



デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールsl9k-mtfj@asahi-net.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)