ボリス・ベレゾフスキー ピアノリサイタル

シューマン
アラベスク
クライスレリアーナ

ショパン
バラード:2番、4番
スケルツォ:3番、4番

1999年6月30日 紀尾井H


(デデのひとりごと)

プログラムをご覧になると、「フーッ」とため息をつく方もいらっしゃるのでは。超弩級の重さですニャー。で、どちらかというと前半のシューマンを楽しみにして行ったんですが、これが当たりというか、はずれというのか・・・ 多少はピアノに触るネコにとって(「ネコ踏んじゃった」なんてのは絶対に弾きませんよ、念のため)、面白いと言えば面白い演奏。シューマンのピアノ曲の譜面というのは、なんとも複雑怪奇、グロテスクと言ってもいいような面構えなんですが、それを何とか音にしていくと、不思議なことにメロディーが浮かび上がってくるんですニャー。なんでわざわざあんなに面倒な書き方をしたんだろう?

この書法の典型が最初に弾かれたアラベスク。最初は、一体どこにメロディーがあるんだろう、なんて思ったものです。短い曲ですがシューマンの小難しい理論がいっぱい詰まっている曲。ベレゾフスキーの料理の仕方はなかなか面白い。対位法的な声部の掛け合いをくっきり描いて見せたり、微妙な和声の転換をそっと大事に響かせたり。特に、コーダの部分の天国的響きが印象的でした。全体にゆったりとしたテンポで、難解な譜面を分析的に解き明かしてくれる演奏でした。ただ、策に溺れて流れが途切れる瞬間がなきにしもあらず。面白いんだけど、聴き手としては今ひとつ共感しきれない演奏でした。

次のクライスレリアーナも同様。シューマンというのは大曲はほとんど書かなかった人ですね。いくつか書いているソナタの類も、あまり成功しているとは思えません。クライスレリアーナは全体としては大曲でしょうが、細かい曲の寄せ集めと考えた方がデデにはわかりやすい。解説としては、ホフマンの小説云々という話がまことしやかに語られますが、そこらへんはよくわからニャーだよ。これも緻密で、しかも分析的な演奏。シューマンの音符の謎を、彼なりに解き明かしてくれるのですが・・・ 如何せん音が・・・汚い。面白いのは確かですが・・・ 終曲のスタッカートのメロディーなど音が濁って、楽しめるものではありませんでした。“面白い”と“楽しい”とは違うんですニャ。

後半はショパンの“大曲”を4曲。これはすばらしい出来。ショパンはシューマンほど背景の文学性やら、小難しい理屈はこねない作曲家でした。シューマンの時にモコモコしていたペダリングがうって代わって、ぴったりとはまりだし、うん、これは“楽しい”。特にバラード第4番の絢爛豪華なコーダ。

スケルツォ2曲は自家薬籠中の曲でしょうか。中間部の叙情的な歌が立ち上ってくるあたりで、キーペダルを効果的に使って音色の変化を出すなんざぁ憎いね。このあたり、「ロシア人ピアニスト」っていうのが一種のブランドであることの証でしょうか。柔らかい羽毛でさっと撫でられたように、ゾクゾクっとしてきますニャー (=^^=)  やはり、前半のシューマンは、お楽しみの前の“苦いお薬”だったのか? アンコールで弾いた作品10のエチュード2曲も出色のでき。想像するに、この人、ショパンのエチュードを毎日一回は全曲さらっていますニャ。だから、ホントに自由。如何様にも調理して聞かせますという感じで・・・この日はぶったまげるようなスピードでやらかしました・・・聴衆を乗せるのがうまいですね。これもサービス精神の表現だったんでしょう。このピアニストが真の大家になるかどうかは、未だ未知数ですが。

どちらかというと、地味な風貌で、そんなに若い女性が押し掛ける感じではないんですが、ほぼ満席。花束ギャルが何人も登場して、若い世代にもかなりファンが多いみたい。今回は「東京の夏音楽祭」がメインの来日でしたが、レーピンなどとの室内楽も組まれていたみたいで、そちらも面白かったのではないでしょうか。



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