バロック・ブラス・オブ・ロンドン

トランペット・コルネット・トロンボーン:マーク・ベネット、マイケル・レアード、
デイヴィッド・スターフ他総勢8名

パーカッション:ロバート・ハウズ 

オルガン:諸岡亮子

ブラスとオルガンによる、バロック期のイタリア、イギリス、ドイツの音楽

1999年6月16日 紀尾井H


(デデのひとりごと)

とにかく、くっそ暑い。確かだいぶ前に梅雨入りしたはずなのに、雨はほとんど降らないではないかっっっ。外を歩く気がしない。歩いているうちはともかく、立ち止まると汗が噴き出してくる。四谷の土手には野良やんが多いが、連中も今日はかなりへばっていた。呼ぶとトコトコやってくるやつが、今日ばかりはトロッとした目つきで、動くのも億劫だといった様子。

まあ、そんなことはどうでもいいですニャー。ともかく、紀尾井ホールにブラスバンドを聴きに行ってきました。「バロック・ブラス・オブ・ロンドン」という名称をご存じの方は手を挙げて! 「はーい」って人はあんまりいないと思いますねぇ。でも上にあげた演奏者の名前はどこかで聞いたことあるニャーという方はいらっしゃるはずです。レアードは今はなきフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルの名物だった人です。マリナーのアカデミー管弦楽団やら、ピノックのイングリッシュ・コンサートなんかでも吹いていたでしょうか。その他の人たちも、ブリュッヘンの18世紀オケ、啓蒙時代オケ、ガーディナーの「すごく長い名前のオケ(オルケストル・レヴォリューショネル・・・)」、パロットのところやら、ホグウッドのところやら、ノリントンのやら、ピケットのやら、今をときめくバロックバンドの主席奏者ばかりです。もっとも、一人でだいたい2つ3つのオケを掛け持ちしているわけですが。(チラシにはアムステルダム・バロック・オーケストラのスティール・パーキンスの名前もありましたが、今回は来日せず)。

で、こういったオケのペット吹きのレパートリーといえば、まずバッハのブランデブルクの2番。その他には・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ない。オケの曲の場合は、たいていは和音を「プップカプー」と鳴らしているだけの役割ですニャー。そんなこんなで、職業的な疎外感、鬱積するストレス、欲求不満を解消しようというわけであります(そんなことないか?)。いきなり一曲目にモンテヴェルディのオルフェオからド派手なトッカータ。ハウズというのがたぶんリーダーなんでしょうか。この人の強烈なティンパニのビートに乗って、5本のトランペットがパワー全開。硬めのばち(古楽器のティンパニはフェルトではなくて皮のぱちですからもともと硬質でやや乾いた音色ですが)を使って、目一杯ひっぱたくと雷鳴のような音がします。トランペットもそれに負けじと思いきり吹き鳴らします。モンテヴェルディ特有の細かなメリスマ的音型も難なくこなし、しかもバランスが絶妙。ちょうど20年ほど前にコレギウム・アウレウムなんてなオケがあって、古楽器オーケストラの先鞭をつけたわけですが、、あの時代の金管楽器はとても金を取って聞かせる代物ではござんせんでした。この20年間の進歩はすごい!

次はコルネットという楽器が登場。もちろん、Corno(角)が語源ですが、木管楽器。マウスピースはトランペットと同じような形で、フィンガリングはリコーダーと同じようなものらしい。コルネット専門のアンサンブルでは、コンチェルト・パラティーノが有名ですが、このロンドンの連中はトランペットと持ち替えで吹きます。最初こそ楽器が暖まっていないせいかややフラットぎみでしたが、慣れてくると人間の声さながらに柔らかで、しかも輝かしい音色を響かせます。オルガンの諸岡も大健闘(この人は確か、3年前にサヴァールが来日した際、コンティヌオを弾いていた人だと思うんですが?)。

コルネットとトロンボーンのアンサンブルになると、和音の美しさがいっそう際だちます。トロンボーン(サックバット)は現在の物よりもやや管が細く、それだけ、でかい、長い。バスだと、とてもじゃないけど、スライド管の先まで手が届かない。ですから、菜箸ほどの長さの棒を管に引っかけて伸ばしていましたねぇ。もともとトロンボーンという楽器は弦楽器同様、純正律的な合い口をするんですが、3人の奏者のハーモニーのセンスは抜群。ヘンデルのサウルからの「死の行進」で聞かせた和音にはゾクゾクしました。

トランペットについて書き忘れましたが、この楽器も現代の物に比べて管が細く、巻きが少ない。従って、かなり長く見えます。モダンのトロンボーンのような体型でしょうか。もちろん、ピストンもバルブもありませんから、自然倍音列のうんと高次のところ(音列が半音階的に並ぶあたり)を切り替えながら使ってあらゆる音を鳴らすわけです。確かクラリーノ奏法と呼ぶんでしょうか。この技術は一時完全に忘れられたものでしたが、しかしこのおっさんたちの技術は完璧ですね。およそ怪しい音程というのが存在しない。トリルも半音階的なスケールも楽々と吹きます。

曲目に関しては、おいらも初めて聴く曲ばかりだし、曲名を詳しく書いても「はは〜ん」という人はまずいないでしょうから、いちいちあげつらいませんが、叙情的なトレッリやボヴィチェッリなどから、デーハーなアルテンブルクやビーバー、ガブリエリに至るまで、そのレパートリーの広いこと。その中で、ダニエル・シュペアというのがブラスバンドの元祖なんでしょうか? いかにもって感じのファンファーレやら行進曲やら、つぼにはまった曲を書いていたようです。

オルガンの諸岡は編曲物(「水上の音楽」やら「王宮の花火の音楽」)ではオケのパートを弾きまくり、ソナタではコンティヌオを堅実にリアライズしておりました。ただ一点、ガブリエリやバードの鍵盤曲の速いパッセージがちょっと字余りになるんですニャー。あり得べき黄金分割は、一生懸命計算して、拍子に当てはめるんじゃまずいんですよ。自ずと音に語らせないと。

ところで、この面々のステージ衣装。オルガン以外の人が全員紫のズポッとしたキトンのような服。これで、腰に荒縄を結べば、まるで修道士といった出で立ちですニャー。これがなかなかよく似合う。出番じゃない人はサイドに置かれた机(この上に楽器がごちゃごちゃと並べられている)の後ろに座っているんですが、その様子といったら、まるで「最後の晩餐」だぁ。それから、オーケストラでも金管だけはかなり独自なマナーがありますね。ドビュッシーの「海」の10時38分あたりの、一番いいところをやっている最中に、ホルン吹きがマウスピースをはずして「フー」っと水切りの空吹きをやったり。この日もソリストよりも高々とラッパを構えて、空吹きしているシーンが目立ったんですが、ああいうのはなぁ。(ぶつぶつ)



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