ビオンディ ヴァイオリン・リサイタル

ヴァイオリン:ファビオ・ビオンディ
フォルテピアノ:オルガ・トヴェルスカヤ

モーツァルトのヴァイオリンソナタ
K. 306 ニ長調、K. 380 変ホ長調、K. 303 ハ長調、K. 454 変ロ長調

1999年2月10日 品川教会



(デデのひとりごと---ぶつぶつ)

ビオンディのソロリサイタルは本当に久しぶりでしたニャ。前回のソロの時にはベートーヴェンなどをやりましたが、今回はモーツァルトばかり4曲!これははっきり言って、ちと辛かったでございます。昨秋のヒロ・クロサキといい、このビオンディといい、最近の古楽のヴァイオリン弾きは、バロックよりも古典派の方に惹かれるのでしょうか。

K.306と303は若書き。といっても、もう20過ぎていますから、モーツァルトにすれば中年の作品でしょうか。彼の生前に出版された数少ない曲で、記念すべき「作品1」なんだそうです。しかし、これは「ヴァイオリン助奏付き、クラヴサンないしフォルテピアノのためのソナタ集」とされていて、実際は、ヴァイオリンはなくても音楽になってしまう曲なんですニャー。

だからこの2曲は当然フォルテピアノの出来が重要なんですが、このトヴェルスカヤというピアニストは「なかなか出来る」と見ました。この日使われたピアノフォルテは、復元楽器ではなくて、ウィーンのミヒャエル・ローゼンベルガーが1820年頃に製作したというオリジナルの楽器。これがすばらしい音色でした。ピアノのオリジナルないし復元楽器というのは何となく頼りなくて、音がペンペンしていて、古楽のヴァイオリンと合わせてもどことなく表現力にも、音色の魅力にも欠ける感じがするものですが、この楽器はそうした欠点が少なく、むしろオリジナルが持つ表現力の豊かさを感じさせてくれるものでした。

トヴェルスカヤの演奏はどちらかといえば端正な方でしょうが、速い楽章でのひとつひとつの音の粒立ちが鮮やかなこと。速いパッセージを弾きながらもフォルテとピアノを対比させる技(これは結構ペダルを多用していたみたい)は、なかなかの切れ味がありましたニャー。遅い楽章でのゆったりとした歌い方もよろしい。伴奏音型のようでありながら、そこからふわっとメロディーが浮かび上がってくるところなんざぁ、 ただ者じゃない。

この2曲に関してはビオンディの方は比較的抑え気味だったでしょうか。モーツァルトの音楽は、二元論的な対比でそこそこ形になっちゃうことも多いんですが(たとえば、フォルテとピアノとか、明と暗とか・・・)、ビオンディはそうした音楽の作り方には我慢できないといった感じで、さまざまなグラデーションを作り出そうとします。で、それが効果的だったかというと、必ずしもそうとは言えない。ホントに小さな小さな音を何度か繰り返しながら、次第にフォルテまで登り詰めたりといったことを試みるのですが、前半は特に楽器が鳴らない。楽音よりも雑音の方が大きくなってしまう。ここらへんが難しい。聴きながらああやっぱり、モダンの楽器の方が面白さが出るのになぁと思ってしまうわけです。ピアノがかなり良かっただけに、残念。

古楽のブームっていうのは、単なる復古趣味やら、オリジナル指向といっただけではなくて、オリジナル楽器を使うと、ほら、こんなに面白いことが出来るんだよ、こんな表現も出来るんだ。といった、今までにない、あるいは忘れられていた表現の世界を開いてくれたことが最大の成果です。これはバロックの話。で、古典派はどうかというと、やっぱり、音楽の方向が未来に向いているのかなぁ。バロックなりに完結していた「歪んだ世界」とはちょっと違う感じですニャー。ピアノがよかっただけに、時代楽器のヴァイオリンというものに?を感じずにはいられませんでした。

K. 380と454は「立派な」ヴァイオリンソナタです。特に後半演奏された変ロ長調は、楽器も十分に鳴って、聴きごたえがありました。ビオンディのヴァイオリンは歌うと言うよりも、どちらかというと、切れ味が肝要。バロックの曲だと前打音付きのトリルに胸が締め付けられるような気分になるものですが、どうもモーツァルトにはこれがゼーンゼン合わないんですニャー。ビオンディはやっぱり、不良なんですわ。それを教護院だか少年院だかに入れて、教導してしまったばっかりに、なんだか、ひどく窮屈な演奏になってしまって・・・もちろん、あちこちに不良の陰が見え隠れするんですが・・・精一杯ぐれることができる音楽の方が断然面白いと思うんですがねぇ。

ところで、このビオンディっていう人、以前からヴァイオリンの構えをいろいろ気遣っているのか、最初に来日した時には、やけに高い肩当てを使っていましたニャー。首をほとんど傾けなくても楽器をおさえられる感じでした。で、今回は肩当てはやめて、布を使っていました。といっても、よく見かけるような、ハンカチみたいなものじゃなくて、かなり大判のスカーフのような布。紺色の地に、水色やら黄緑色が混じったサイケな(?)色合い。この端を肩に当てて、デレッと垂らすものですから、下は膝上まであるんですニャー。ナプキンかよだれかけみたいな感じ。着ているのが燕尾服じゃなくて、モーニング(確か前回の来日の時は何と、フロックコート)。こういうのってオッシャレーなんでしょうか???

えーと、最後に会場となった「品川教会」ですが、正式名称は「グローリア・チャペル・キリスト品川教会」。「セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ教会」なんてな長い名前のもありましたが・・・八ッ山橋のたもとですが、昔は町工場が密集していたあたりでしょうか(よく覚えていませんが)。今は再開発されて団地の一角になっているようでした。第一京浜沿いで、品川からのアクセスがものすごく不便。とにかく車優先になっている地域で、歩いていくと突然歩道が行き止まりになったり、目の前に教会が見えているのに、数百メートル先まで行って、歩道橋を渡ってから戻らなくちゃならなかったり。

教会とは言いながら、建物の作りは完全に音楽会場ですニャ。パイプオルガンがあって、祭壇の代わりにちゃんとしたステージがあって、照明器具を組み込んだアングルが壁面に立っていて、音もかなりいい。響きは抑え気味ですが、直接音がかなり良く聞こえます。400人ぐらい収容のホールで、この日のお客さんはその2/3ぐらいだったでしょうか。あ、そうそう、椅子は教会らしくベンチなんですが、ちゃんと布貼りのクッションが付いていて、ソファーのある喫煙所もあるし、自動販売機も完備しております。すぐ横を第一京浜が通っているほか、すぐ下を、山手線、京浜東北、新幹線、横須賀線、湘南電車などが通過していきますので、音が気にならないと言ったら嘘になるでしょうか。



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