エドゥアルド パニアグア古楽団

アルフォンソ10世編 「聖母マリア頌歌集」他

6月15日 カザルスH



(デデのひとりごと---ぶつぶつ)

「エドゥアルド パニアグア古楽団」というのを聴いてきました。スペイン語のタイトルではGrupo de Musica Antigua Eduardo Paniaguaという団体です。かなり以前にアトリウム・ムジケーというグループがあって、非常に刺激的なレコードを出していたのを覚えてらっしゃる方もいるでしょう。エドゥアルド・パニアグアというのは、あのグループを主催していたグレゴリオ・パニアグアの弟だそうです。

数年前からのグレゴリアンチャントブームで、ヒーリング系として中世の音楽が広く聴かれるようになったみたいですが、この団体の音楽もそうした流れの中で捉えることができるような気がします。

プログラムのサブタイトルには、「中世スペインは5つの王国であった〜キリスト教とイスラム教が交錯する12〜13世紀の万華鏡〜」とあります。思えば8世紀にツール・ポワチエ間の戦いでシャルル・マーニュに撃退されはしたものの、ヨーロッパを席巻したイスラム教徒は、この時代にはスペインのレコンキスタ(国土回復運動)のために、イベリア半島の南端まで押し戻されていました。つまりこの時代のスペインは1つのイスラム教国と、4つのキリスト教国があったということになります。その後15世紀に王族の婚姻によるカスティーリャとアラゴンの合併、そしてグラナダ(イスラム)の陥落に至るまで、イスラムはヨーロッパの一隅に存在し続けていた、そんなことを思い出しながら演奏を聴いておりましたニャー。

長々と前説を書いたのは、つまり、この演奏会の中味は、ほとんどイスラムの音楽、あるいは、アラブの音楽といってもいいものだったからなんです。第一部アル=アンダルース(南の王国)と、第二部カスティーリャ=レオン(中央の王国)で演奏された曲の大部分は、カスティーリャのアルフォンソ10世が編纂したとされる「聖母マリア頌歌集」からのもの。内容は、大酒のみの修道士が悪魔に襲われたら、聖母マリアが駆けつけて助けたとか、口をきけない男が「サンタ・マリア・・・」と叫んだとか、ウサギの骨を詰まらせた男をマリアが助けたとか、まあ、かなりたわいないものです。

この曲集はすべて単旋律で、ポリフォニーとかハーモニーとは無縁。従って、さまざまな時代楽器を駆使して、いかに面白く聴かせるか、そこらへんのアレンジがすべてです。ステージ上には、チターのようなもの、ギターのようなもの、ツィンバロンのようなもの、レベックのようなもの、ウードのようなもの、タンバリン、太鼓・・・とまあ、いろいろ珍奇な楽器が並んで、見る楽しみにも事欠きません。プログラムには「かめ」という楽器の名前が出ていたので、亀の甲羅でも叩くのかと思ったら、大きなボールのような「瓶」を叩いておりました。

先に述べたように、音楽自体はヨーロッパ音楽と言うよりは、イスラムかアラブといった方が近いでしょう。確か2曲目だったか、延々とメリスマを効かせた語りの曲はまるでコーランの朗唱のように聞こえましたニャ。でも、この曲と、いくつかのゆっくりとした笛の曲を除くと、あとは素朴な民謡のような、フラメンコのような、そんな感じの曲が多かったでしょうか。第三部には「頌歌集」とは別の曲も演奏されましたが、どこがどう違うのかデデにはよくわからなかったニャー、猫だから。

演奏についてはどうこう言えないし、うまい・下手について論じるような団体ではないですが、特に印象に残ったのは独特なリズム感です。フラメンコの手拍子のような感じ、パン・パンと乾いたリズムではなくて、ヌチャ・ヌチャとかなり湿り気を帯びたリズムですニャ。これは太鼓やタンバリンの類も同様で、賑やかに叩いているときにも、なにか後ろ髪を引かれるような独特の粘りけがありました。パーカッションとウード(リュートみたいな楽器ですが、弾き方はギターでしたニャ)を担当していたデルガドという人はなかなかの優れモノと見ました。

さてさて、今ではデファクトな世界標準となった西洋音楽は、今日演奏されたような物を含めてさまざまな要素を取り込み、そしてそれらの多くを捨て去って、発達してきたわけですが、果たしてそれが幸福な選択であったのか?必ずしもそうじゃないよー、というのがワールドミュージックという言い方にはこめられているんでしょうねぇ?そんなこんなで、普段、演奏会ではお目にかかれないような方もちらほら見かけた次第でございます。

ところで、パニアグア氏の風貌は見るからにムーア人ですニャ。ジブラルタルの埠頭で絨毯でも商ってそうな感じじゃ。まだスペインにイスラム教徒がいたのかっ?



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