ヒロ・クロサキのベートーヴェン

ヴァイオリン:ヒロ・クロサキ
ピアノフォルテ:リンダ・ニコルソン
チェロ:アントワーヌ・ラドレット

第一夜 11月16日

「カカドゥ変奏曲」
ヴァイオリン・ソナタ 第9番「クロイツェル」
ピアノ三重奏曲 第5番「幽霊」

第二夜 11月19日

ピアノ三重奏曲 第1番
ヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」
ピアノ三重奏曲 第7番「大公」

北とぴあ さくらホール



(デデのひとりごと)

毎年この時期に開催される北区主催の「北とぴあ国際音楽祭」。今年の目玉のひとつがヒロ・クロサキらのトリオ(ロンドン・フォルテピアノ・トリオ)が演奏するベートーヴェンです。二夜にわたってかなり重量級のプログラムが組まれておりました。もともとそんなに大きなホールではありませんが(満員になっても1500人ぐらいでしょうか)、室内楽ということもあって、舞台手前のオーケストラピットの部分に演奏台をしつらえて、客席にかなり近いところで演奏しました。これはかなりよかったですね。

いわゆる古楽器でベートーヴェンを聴くのは初めてではないにしても、滅多にない経験です。そもそもデデはペンペンとかそけき響きのフォルテピアノってやつがどうも苦手で・・・なかにはガランガランと金だらいを叩くような楽器もあったりして。で、この日の楽器はというと、シュリムプという1822年頃ウィーンで製作されたものでした。柔らかな音色で音量はさほどあるようには思えなかったんですが、表現の幅はありそうな楽器でした。それから、ヴァイオリンもチェロもそれぞれこの時代にふさわしいものを使っていたようです。

最初はどんな感じになるのかニャと興味津々。「カカドゥ変奏曲」のゆっくりとした出だしの部分は今ひとつかみ合わない感じでしたが、変奏が進むに連れてだんだんノリが出てきたようです。次の「クロイツェル」はすばらしかったですね。ヴァイオリンの重音からピアノに引き継いでいく出だしは、ちょっと間を持て余している感じがしましたが、第1主題が出てくるととたんに引き締まって、きびきびとしてしかも楽しそうな音楽になりましたニャ。2楽章、3楽章はこの日最高の瞬間だったでしょうか。特に第3楽章のロンドでしょうか、ソナタでしょうか、主要なテーマが戻ってくるたびにニコニコしながら、ちょっとイタズラっぽく弓の先っぽでアクセントの効いた主題を弾くところが小気味よかったですニャ。ピアノも「三歩下がって」風の弾き方じゃなくてけっこう対等に渡り合っていたんじゃないでしょうか。

「幽霊」ってのはかわいそうな題名ですね。両端楽章は明朗快活な聴きやすい曲なのに、よりによってあのドロドロの第2楽章がくっついてるばっかりに、変なタイトルを付けられちゃって・・・で、両端の楽章は文句なく楽しめました。かなり速めのテンポできびきびと弾き進んだのが、時代楽器の特性とマッチしていたからでしょう。問題は第2楽章。ピアノのトレモロでドロドロドロドロ「ほら、お化けがでるぞぉ〜」ってとこが、どうもしっくりしないんですニャー。ピアノだけ取り出せばうんかなりの表現力だし、楽器もいいのかなぁと思うわけですが、ビブラートを控えめにしてスーッと入ってくる弦がどうもかみ合わない。ナンデダロ。

2日目は席がかなり左寄りでした。ここで音楽の小部屋によくいらっしゃるニムさんと邂逅。ヒロ様の大ファンのようです。本来ですと、ピアノは右寄りの方がよく響くはずなんですが、この日の方がずっといい音がしていました。2階がかぶっていない席だったからかもしれません。

演奏もこの日は最初からかなりノリが違いました。最初のトリオは作品1-1という番号から想像できるように、ハイドンかモーツァルトの雰囲気がかなり残っている曲。これがかなりいけました。この手の曲の方が古楽器にはしっくりくるのかなあ。

スプリング・ソナタは爽やかな曲ですが、冒頭でヴァイオリンが主題を歌った後、ピアノとヴァイオリンがそっくり入れ替わって、ヴァイオリンが「ドミソミ・ドミソミ・・・」っていう伴奏音型を弾きますね。あそこがどうも取って付けたような、いかにもっていう感じで、違和感があったんですが、ヒロ様の弾き方はうまかったですニャー。レガートでピアノに寄り添うようにふわっと入ってきて、伴奏じゃなくてアンサンブルしてるぅっていう弾き方。短い短いスケルツォからスビトで第4楽章になだれ込むあたりの切り替えの鮮やかさも印象に残ります。ここらへん、ピアノのニコルソンも丁々発止と渡り合っておりましたニャ。

「大公」の最初の主題は余りにも立派すぎて、ややもするとガルガンチュアのような大公殿下をイメージしてしまうんですが、この日のルドルフ大公は身の丈178cmぐらい。等身大の大公でした。これも速めのテンポでグイグイといったせいか、引き締まった演奏だったと思います。第2楽章のスケルツォが爽快感たっぷり。

さてさて、古楽器でベートーヴェンを聴いた感想をまとめてみましょうか。まず、今から15年か20年か前にバロック音楽を古楽器で初めて聴いた頃のような新鮮な驚きはありませんでした。あのころの演奏家の技術的な水準はさほど高くなかったと思いますが、その時代の楽器を使うとこんな表現ができるのかぁって、結構いろんな発見やら、驚きがあったと思うんですが。テンポとかアクセントとか、楽器そのものの音色とか・・・で、そういったものにこちらがすっかり慣れてしまったからかもしれませんニャ。今回はそういった楽しみ方はできませんでした。もちろん、演奏には驚きが不可欠だなんて言っているわけじゃニャーだよ。

全般にテンポの速い楽章はかなり面白かったと思います。ところが緩徐楽章がどうもイマイチピンとこないのはなぜだったんだろう?ベートーヴェンやモーツァルトを古楽器でやる意義は、といった問題提起はクリティカルかもしれませんが、でも、あの速い楽章から面白さを引き出すのには成功しているわけですから、もうちょっとで、ブレークスルーが起こるかもしれませんね。個人的には、ヒロ様にはバロックをもっとやってほしいんだがニャ。




デデの小部屋(ホームページ)に戻る

音楽の小部屋に戻る

ボクの小部屋が気に入った、または
デデやガンバに反論したい、こんな話題もあるよ、
このCD好きだニャー、こんな演奏会に行ってきました等々、
このページに意見をのせたいネコ(または人間)の君、
電子メールsl9k-mtfj@asahi-net.or.jpまで お手紙ちょうだいね。
(原稿料はでないよ。)