シュッツとバッハの祈り

ヨハン・バッハなど、バッハ一族のモテットを6曲
ヨハン・セバスティアン・バッハ:「聖霊はわれらの弱きを助けたもう」
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シュッツ:「宗教的合唱曲集」から6曲
バッハ:「主に向かいて新しき歌をうたえ」

指揮:ヘレヴェッヘ
合唱:コレギウム・ヴォカーレ

11月22日 北とぴあ さくらホール



(デデのひとりごと、ぶつぶつ)

17世紀前半のドイツ(まだドイツって国があったわけではないですが)は宗教戦争のまっただなか。この日前半に歌われたモテットは、30年戦争の時代に生きたバッハの祖先達の作品でした。時代が時代ですから、福音を伝えるための音楽も死や苦悩を歌ったものが多いのはわかりますが、この日のプログラムはことさら、この手のものばかり集められておりましたニャー。「私たちはいつも死と隣り合わせだから・・・」、「キリストの血潮は・・・悪魔の復讐からも、私たちを守り自由にしてくれる」、「主に結ばれて死ぬものは幸いである」とまあ、抹香臭いことこの上ない。でも、やっぱり結論としては「信仰による救済」というルター派のカタルシスがあるわけで、その音楽的表現が期待できるからこそ、バテレンであるなしに関わらず現代の日本人でもこういう曲を聴きに行くんじゃなかろうかニャ。

カルヴァン派のように信仰によって救われるわけじゃニャーだと、おっそろしい予定説なんぞを振り回されて、「死」だ「苦悩」だ「悪魔」だ「定罪」だって歌われた日には、誰も聴きに行かないでしょ。大体、カルヴァン派やピューリタンの宗教音楽なんてものはそもそも存在しない(たぶん)。戦後復興だとか、高度成長を支えたのは俺達だっていきがっている年輩のみなさんも、好きこのんでアリンコのような、働き蜂のような禁欲的生活をしてきたわけじゃないはず。

さてこの日の演奏ですが、コレギウム・ヴォカーレ・ヘントという合唱団は確かにうまかったです。透明な響き、一糸乱れぬメリスマ、完璧なハーモニー。どれをとっても一流の合唱団だと思います。シュッツの「荒れ野で叫ぶ声」に出てくる“Richtet den Weg des Herren(主の道をまっすぐにせよ)”というフレーズ冒頭の“R”。舌先と硬口蓋とでトリルをするわけですが、これがぴたっと揃ってる。閉音節の閉じの子音も“s”や“t”は心持ち弱めてアンサンブルを壊さないように計算しているんだろうか。録音はともかく、実演だとこの閉じの子音の不揃いっていうのは、かなり目立ちますからニャー。でもここらへんに音楽の勢いとか、合唱団の中に埋もれている個々の歌手の感情のようなものが聞き取れる気がして、デデは不揃いな子音も結構好きなんですが。

バッハの祖先の音楽というのはたぶん初めて聴くものがほとんどなんで、ひとつひとつの構造がどうのといった話はできないけど、どれもルター派のコラール(賛美歌)を下敷きに使って、大規模な合唱曲に仕上げたものばかりでした。ヘレヴェッヘは合唱団をかなり動かします。音楽的な意味じゃなくて、空間的な意味で。つまり曲毎に合唱団の半分ぐらいが右へ行ったり左へ行ったり。曲の構造によって動かしているんだと思いますが、あんまり効果的だとは思えませんでしたニャー。各パート6人ずつで、全部で24人の合唱なんですが、曲によっては、なぜかひとりか2人だけ椅子に座ってお休みだったり・・・

歌い方はクレッシェンドを全く使わず、ノンビブラートでスーッと伸びる歌い方。ピアノとフォルテの対比だけで音楽を組み立てていました。テンポの急激な変化もほとんどなし。デデのまぶたがだんだん重くなってきました。必至に抵抗を試みましたが、上まぶたに50kgの重りをつり下げた感じ。おいらは「甘き眠り」の心地よさに屈してしまおうと思うんですが、隣のガンバが時々肘で突っつくもんだから、救いのない「死」と「苦悩」に満ちあふれた現実に急に引き戻され、でもまた強力なスイマーに襲われて・・・

歌い手さん達に感情がまるでないんですニャー。指揮者に言われたとおりにきれいに歌っているだけ。歌手というのは誰でも、歌詞とか音楽に感情移入というのか、自分の気持ちを込めて歌うんだと思っていたんですが、そっちの方面は全部ヘレヴェッヘにお任せ。24人の歌手がすべてパーツになってしまってるんですね。だから、歌うものはバッハでも、ノストラダムスの予言でも、般若心経でも、何でも構わないんじゃないでしょうか。“Ich glaube!(我信ず!)”って歌っても、「ホントー?」って聞き返したくなっちゃうんですニャ。たぶんヘレヴェッヘのリハーサルって、「バスの3番目のひと、もう5センチ右に寄って」とか、「あ、そこはアルトがちょっと強すぎるから、5番目と6番目の人は後ろで休んでて」って感じじゃないでしょうか。とにかく響きを揃えることにかけてはすごいです。つまりCDとまったく同じ音がしたわけです。場内を埋め尽くした合唱ファンから「上手ねぇ」というため息とともに盛大な拍手が。そう、この合唱団、上手になっちまったママさんコーラスの雰囲気がありました。

というわけで、ちょっと参りました。

デデデン




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