アムステルダム・バロック・オーケストラ

指揮、チェンバロ:トン・コープマン

バッハ:チェンバロ協奏曲 第1番 ニ短調
ヘンデル:「水上の音楽」第1組曲 ヘ長調
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク
モーツァルト:交響曲第29番 イ長調

6月17日 東京芸術劇場



(デデのひとりごと---ぶつぶつ)

久しぶりにアムステルダム・バロック・オーケストラの来日公演を聴きました。確か3年ぶりぐらいになるでしょうか。今回の公演プログラムは上に書いたとおりですが、どう思いますか。名曲のオンパレードというのか、魅力的といえなくもないし、でもちょっとねえって気持ちがあって、当日まで迷った末に出かけたんですが・・・

バッハのコンチェルトはコープマンの十八番ですね。もちろんキビキビとしたテンポで、超絶的な技巧も聴かせてくれましたが、オーケストラのアンサンブルもやはり、並大抵ではないですね。バッハのコンチェルトのオケのパートは、どちらかというと書き込みが薄くて、そのままなぞるとムード音楽のような雰囲気になっちゃうんですが、古楽器特有のアクセントでフレーズをくっきりと浮き上がらせ、自在なテンポの揺れでドライブ感を煽ったりと、楽しく聴かせてくれました。特にゆったりとした第二楽章は、表情たっぷりの弦と思い入れたっぷりのチェンバロがゾクゾクするような瞬間を生み出しましたニャ。

両端楽章はコープマンの気迫が全体をリードしていました。時に繊細に、時に底板までぶち抜くような迫力で、モダンの楽器でやった場合の物足りなさとは正反対の迫力が感じられました。この気迫は次の「水上の音楽」でも同じように作用して、チェンバロがオケ全体を自在にリードしている雰囲気が伝わってきましたニャ。ソロソナタやトリオソナタの場合の通奏低音の役割ははっきりしているわけですが、「水上の音楽」のようにオケのパートが書き込んである場合の通奏低音の役割が、本当によくわかる演奏でした。つまり、チェンバロは指揮者であり、リーダーであるわけですニャ。

コープマンの絶妙な装飾音はホントに面白い。こういうオケの曲でも装飾の意味が伝わってくるんですね。それから、「水上の音楽」では、2人のホルン奏者が大熱演。古楽の演奏家の技量はどんどん向上していますね。そう、一昔前だったら、ホルンは“オミソ”で、どんなにひっくり返っても、音をはずしても、文句は言われない立場でしたけど・・・。コープマンの使っているのはたぶん新しい全集版だと思われますが、古いクリュザンダー版だとトランペットとホルンの掛け合いになっているアラ・ホーンパイプでは、2本のホルンの強弱で掛け合いをこなしていました。音を割った鋭い咆吼の直後に、メロホルンのエコーを吹くなんてちょっと前までは考えられなかったですニャー。

それからもう一人、オーボエのポンゼーレ。この人は文句無しに第一人者ですけど、本当に美しい音色。モダンのオーボエだと、息が詰まったような音色が特色ですが、古楽のオーボエは空気の中に自然にとけ込んでいくような、エーテル的音色。これにアクセントや音の膨らみをつけると、まさに天国的な響きです。全体に速めのテンポで弾き進められましたが、フランス風の序曲をしっとりとやってみたり、逆に有名な「エア」はかなり速いテンポだったり、おやっと思う瞬間も用意されていましたニャ。

前半だけで優に1時間を越える曲目でしたから、耳はかなり満腹になっちゃいました。ですから後半のモーツァルトは食後のデザート。アイネ・クライネは譜面にはない装飾音を随所にちりばめて優雅な演奏。モダンの室内アンサンブルがやるような、徹底的に磨き込まれた演奏とはちょっと違いますが、4つのパートのそれぞれが、 ここぞという所では出張ってくる。2ndヴァイオリンやヴィオラから普通は聞こえてこないようなフレーズがポコッと飛び出してきたりして、なかなか楽しい演奏でございました。第四楽章のドライブ感はすごかったニャー。

最後の29番はちょっとデザートとは言い難い大曲。よく40番と41番がディオニュソスとアポロンの二項対立で説明されますが、10代のシンフォニーからこのようなモーツァルトの二面性をあえて見つけだすとすれば、25番のト短調とこの29番のイ長調でしょうか?CDでもこの2曲はよくカップリングされますね。25番の「疾走する狂気」に対して、29番は「輝く太陽」と言えるかもしれません。

小編成のオケはこの雄大な曲を実に楽しく聴かせてくれました。古楽器特有のアクセントや音色が各パートの動きを引き立たせます。モーツァルトにしてはホルンを書き込んであるせいか、音に厚みがあります。洗練されたバランスの取れた演奏と言うよりは、そう、シャンパンの泡のようにあっちこっちから音が沸き上がってくるようです。特にゆっくりと歌う第二楽章の弦の絡み合いは聴き応えがありましたニャー。映画「アマデウス」の中のモーツァルトもかくや、といわんばかりにいろんな仕掛けがあり、遊び心があり、楽しませてもらいました。

だけど、せっかく日本に来るんだったら、合唱団と歌手を連れてきてくれー!!お願いだから。今度来るときにはバッハのカンタータをやりましょうね。マタイ受難曲でもいいから。ね。ね。



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